14.弱点

真上を見上げると、空は真っ白だった。


空そのものに色があるのかはわからない。

けれど、ワタシがいま見ている空は目に刺さるほど白い。


太陽の光は現にワタシの目に刺さっているのだろう。

数秒ごとに真上を見上げなければいけない状況で、思わず顔を顰める。


眩しいな。



「ミサキ先輩って、おっと、実はバレーボールとかっ、やったことっ、あるんですかっ?」


「学校のっ、授業でっ、このあいだやったからっ…あっ!」



砂浜に足をとられ、バランスを崩してしまった。

カラフルなビーチボールがあらぬ方向へ飛んで行く。


「部長ー!大丈夫ですかー?」


ビーチバレーのコート―と言ってもネットは無いし、目分量で「だいたいここからそこらへんまで」と距離を決めただけだが―の相手側にいる丹羽にわくんと功刀くぬぎさんが心配そうに声をかけてくる。

すこし尻もちを着いただけでどうということはない。


「あー、ごめんごめん。つぎはそっちのサーブでいいよ」


「じゃあいきますよ!それっ!」


丹羽くんが放ったサーブはやけに鋭く、低い弾道を描いてこちらのコートに向かってくる。


さつきちゃん!まかせたよ!」


自分が一歩目を踏み出す前から後輩に他力本願であることに特に恥じらいは感じない。だってビーチボールでもまともに当たったら痛いもの。

しかも、この瞬間に限ってはワタシよりも遥かに皐ちゃんが頼りになる。





話によると、彼女は中学生の頃にバレー部にいたらしい。


これまで数えきれないくらい顔を合わせている相手だけど、恥ずかしながら数分前のチーム分けの時に初めて得た情報だった。


「功刀さんは何かスポーツやったことあるの?」


「皐ほどじゃないですけど、高校に入る前はテニスをやってました、すこしだけ」


「皐ちゃんほどじゃないって、皐ちゃんも何かやってたの?」


「私は昔から運動好きでしたから。中学のときはバレーボール部だったんですけど、たまに陸上部の助っ人として大会に呼ばれたりとか…」


「ウソっ!そんなに運動神経よかったの!?」


「運動に関してはみなさんよりもほんのちょっとだけ自信ありますよ!」


「みんなしてワタシよりもスポーツできるなんて……もしかして、丹羽くんも?」


「僕は中学時代、文化部でしたよ。……しいて言えば小学生の時に五年くらい野球をやってた程度ですね」


「じゃあ、ミサキ先輩はと言うと……」


「ワタシは昔から体育の授業だけで精一杯だったかな……ははっ……」


かわいい後輩たちの視線が一斉に向けられる。乾きに乾いた苦笑いが「先輩ワタシを接待する時間」の開始のチャイムだ。


「でも先輩はやっぱり絵の腕はずば抜けてますから!ねっ、功刀さん」


「そうそう!丹羽の言う通りだと思いますよ。さっき更衣室でも言いましたけどいい肌の焼け方してますし」


「丹羽くんも功刀ちゃんもこう言ってますし、気負いすることはないですよ!先輩!」


各々がワタシをほめるために頭をひねっているのが痛いほどに伝わる。

功刀さんなんて、さっきはこの日焼けなんてある意味で馬鹿にしてたはずなのに、びっくりするくらいの手のひら返しだ。



「じゃあバレーボール経験者の私が先輩とタッグを組みますね!私とミサキ先輩対丹羽くんと功刀ちゃんのペアってことで!」


有無を言わさずに試合に進めようとしているのは、きっとこの話題に限界を感じたからだろう。こんな部長で申し訳ないな、みんな。


とにかく、後輩たちに気を使わせちゃったのはどうしようもないから、今は下手なりに盛り上げ役に徹しよう。


バレーボールなら授業で何回かやったことあるし。



弾丸のようなサーブを、皐ちゃんは器用に上空に浮かばせた。


「ナイスレシーブ!あとはワタシにまかせっ…てっ!」



ワタシが矢のようなスパイクを打ち込んだ…という奇跡みたいなことは起こる訳がない。


ぶきっちょなフォームから、とりあえずなりふり構わず全力でボールを叩いてみましたと言わんばかりの弾道は丹羽くんと功刀さんたちの頭上を軽々と超えた。


「スパイクは真下に打ち下ろすイメージで」と皐ちゃんから貰ったアドバイスを意識したつもりだけど、ここまでイメージとかけ離れることってあるのかな。


「惜しいです、先輩!」


味方の皐ちゃんだけでなく、相手の二人からも励まされてしまい、つくづく自分の運動神経の無さがウィークポイントに思えてくる。

しかもちょっと、体に違和感が……。


「ミサキ先輩、大丈夫ですか?」


「やばい……。肩が外れたかも……」


ビーチバレーをしようと意気込んでまだ数分だけど、日頃運動をしてないワタシの身体は声にならない悲鳴をあげていた。


ちょっとは身体を動かさないといけないな。

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