月曜日は終わらない〜そして魔王を倒しに行く〜

@keisei1

第2話 魔王の仕業

 褥ちゃんは記憶力がいい方だ。いつから「終わらない月曜日」が始まったのか正確に覚えているからそれは間違いない。終わらない月曜日が始まったのは十一月の五日。褥ちゃんが転校してきて丁度一か月目の出来事だ。終わらない月曜日にはカンナ先生の失恋や学年一の美少女、仲多里さんの告白などエピソードがいっぱいあるけど、ここは自販機の前で他愛のない話をしている僕と褥ちゃんの二人にスポットをあててみよう。リポビタンDを褥ちゃんはゴクゴクと美味しそうに飲みほして僕に話しかける。

「月見君。世界にはどうしてこうも不幸せが多いんだろう? 病気、貧困、突発的な事故。その他もろもろ」

 褥ちゃんは石畳に腰を降ろし、三白眼で遠くを見据えて、足をぶらつかせる。僕、月見としてもその答えを見出したいところだし、気の利いたセリフの一つでも口にしてみたいけど、思いつかないので褥ちゃんにゆだねてみる。褥ちゃんは愉快気に空になったリポビタンDをゴミ箱に捨てる。

「それはね。天使のイタズラよ。ひとえにね。天使もたまには悪いことをするの。退屈しのぎに。これは私の善悪共存論に通じるところもあるわ」

 褥ちゃんはちょっと小難しい話につなげて結構満足げだ。天使も悪いことをする。なぜだろう。天使も良い子ちゃんばかり演じるのがつまらないからか。それとも、と僕は考えて閃いた。やはり他愛がないが核心をつきそうなことを。天使がイタズラする理由。それはやはり魔王のせいなんだと。そうするとすべて辻褄が合う。毎日学校に通う僕らを時折襲う倦怠、言葉で言い尽くせない魔術めいた退屈。それらも含めてすべて魔王のせいだと。そうすると説明がつく。そう。そうだ、すべて魔王のせいにしてしまおう。何やら結論めいたものが出た僕と褥ちゃんはふと思い立つ。カンナ先生が振られた現場を見に行くことにしようと。唐突だがそう思い立った。

 カンナ先生の失恋がわかったのは、僕と褥ちゃんが月曜日を10数回経験した頃だった。カンナ先生随分と思いつめていたらしい。年下の男性教師、神月湊先生と付き合っていたのだけれど、理科室の実験室で湊先生と言い合いになって、別れ話になっちゃったというわけさ。これはこれで相当な悲劇だけど、終わらない月曜日を何度もループしていながら、更にはそれが魔王の仕業だと知っていながら、魔王を倒しに行かない僕と褥ちゃんも悲劇の真っ只中だね。この世はとにかく悲しいことばかり。いつも陽気で楽しいのは魔王くらいじゃないのか。そんなことを考えながら、迎えた23度目の月曜日、二人は湊先生に別れを切り出されたカンナ先生を見に行った。ああ、カンナ先生泣いているよ。どうして好き合っていたのにこんな悲しいことが起こるのか。それがわかっていながら不幸せを止めようともしない僕と褥ちゃんもおかしいんだろうか。すると「それね」と褥ちゃんは人差し指を立てる。

「狂っているのは世の中、世界の方かもしれないわよ。私たちはいつだってノーマル。すべては魔王のせいかもしれない」

 泣いているカンナ先生はそれは可哀想だけど僕らには手出ししようがない。僕らは世の悲しみ、世の不幸せを魔王のせいにして、今日も生きながらえる。要するにすべては魔王の仕業ってことで、今日も終わらない月曜日が終わろうとしている。

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