気配を探る方法と、己自身の力




 よく晴れた日の午前中。

 俺は、初めて村の外へと出ていた。村から東に向かうと広がっている、大きな草原。名前は無いけれど、ものすごく広い。

 

 それと同時に、かなり綺麗。豊かな自然の風景と、喉かな風が頬を撫でて、眠気を誘ってくる。


「んー、気持ち良いね」

「うんっ!」


 ちなみに、リリナも居る。

 先日の一件以来、懐かれたのかリリナは俺に付いてくるようになった。まあ、満更でもないから俺は黙認している。


 村の外に出て大丈夫なのか、と聞かれるかもしれないが、此処ならかなり安全。

 なにせ、この草原で魔物が確認されたことは無いからだ。村の老人も良く来るらしく、子供達も6歳からは自由に来ても良い場所になっているらしい。


 それくらい、此処は安全。ということで、俺はある事が出来ないかを考えるために此処まで来た。


「それじゃあ、リリナには悪いけど見てるだけになるよ?」

「べつにいいよ」


 ちょっと舌足らずのリリナが喋ると、それはもう可愛らしい。あと10年もすれば、美少女になるのは間違いないと思う。絶対。


(っと、意識を切り替えないとな)


 自分で叱咤して、俺は意識を外へ向けた。何が在るのかを探るように、神経を集中させていく。

 深く、深く――


 そよ風の音が流れ、草花の揺れ、擦れる音が響いていた。その中に雑音を発するものは何1つとして無く、自然そのもののオーケストラのように音が鳴る。


――しかし。


(ダメ、だな)


 問題の解決には至らなかった。今、俺がしているのは気配を探ること。

 先日のリリナの件で、あれが別にリリナじゃない場合の危険性について考えた結果として、俺は周囲を警戒する能力を身につけようと思った。

 まずは、適当にやってみたのだが、進展は皆無。


(何か無いかな・・・・・・・・・ん?なら、地球での知識を使ってみるか)


 確か、軍か何かでは特殊なエネルギー波を周囲に向けて飛ばし、反射したエネルギー波を感知してその場所を測っていたはず。

 この世界に於ける特殊なエネルギー波。


(魔力だな)


 そう。なら、その魔力をどう扱うのか、という問題に関しては解決済みだ。

 俺は、この世界の書物に載っていない、無属性魔法の真価に辿り付けたのだから。

 純粋な魔力の扱いで、俺は同年代には負けないと思う。大人の世界?比べたらダメだろ。


(魔力を・・・・・・・・・・っと)


 魔力を操り始めた時点で、俺はすぐに失敗に気付いた。そうだ。


(魔力の全方位発射って、どうするんだ?)


 分からなかった。いつもは、掌から圧縮した魔力弾を発射させるだけで、範囲、それも全方位の練習はしたことが無かった。


(こりゃ、とんだ出鼻を挫かれたな)


 魔力の扱いは上手い自信があるけれど、確かにまだまだ魔力に関しては無知だ。

 早々とプライドが砕かれた気分。まあ、そんなプライド存在しないけど。


(っと、まあじゃあ、練習からするか)


 そういえば、と近くを見ればリリナは花を摘んで楽しそうにしていた。これなら大丈夫だろう、と考えて俺は意識を戻す。


 魔力とは、想像力と感覚が命だ。

 魔力の流れを直に感じ取り、それを感覚だけで動かす。その難易度は、適正と比べると遥かに高い。

 魔力を、しかも等間隔で同速度で全方位へと放出し、しかも跳ね返ってきた魔力を感じ取って位置を計算する。


(これは、1年くらい掛かるかもなぁ)


 そんな予想を立てながら、俺は魔力を練り始めた。




 形は魔力を腰周辺に円を描くように並べて、それを同速度で放出していく。けれど、集める時点で困難だった。


(いまいち、感覚が掴めない)


 正直、それこそが問題。腰の周りに、波の魔力を円状で集めるって言葉で言えば簡単だが、実際にそれを想像して、血をその形に流す感覚がわからない。

 

(・・・・・・・・)


 集中すると、僅かだが前方と、あとは後ろに少しだけ魔力が集まってきているのはわかった。ただし、それもぐちゃぐちゃで、ただ集まっただけという感じ。

 厳しいなぁ、なんて考えながら、俺はもう一度試していた。







 丁度太陽が真上に昇った頃になるまで、俺は休憩せずに試行錯誤を繰り返したが、ついぞ成功することは無かった。

 幾つかの案も全てが無意味となり、万策尽きた、という雰囲気になった頃が今だ。


「それじゃあ、お昼だし帰るか」

「うんっ!」


 素直で可愛らしい返事を聞いてから、俺はリリナを連れて村に戻る。普通に戻れば怒られてしまうから、こっそりとだ。

 途中、俺でも見分けが付く簡単な薬草を見つけたので、お土産として収穫した。


(今日は、ここまでかな)


 その言葉通り、午後からは別のする事で時間が無くなり、その日はもうそれで寝た。そうやって、少しずつ時は経っていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る