勇気を出した日

小笠原 以久男

プロローグ

「ごめんなさい。こういうのは直接言いたかったので……」


 桜井さんは、扉を開けて少し離れたところにいる俺と目が合うとすぐに言った。走ってきてくれたのか息を切らしながら、腰を直角に曲げていた。


顔と地面が平行の状態で「ごめんなさい」と、桜井さんはそう言ったんだ。




 高校生活二度目の春を迎え、桜のつぼみが膨らみ始めた三月の放課後の屋上。


俺、秋山温人は人生で初めてした告白の返事を聞いた。ずっと好きだった桜井さんに告白しようと決心するのに十一ヶ月、告白の返事を待って二週間が経っていた。


 告白した後の二週間なんてのは、十六年間の人生の中で一番長く感じた。


何度妄想しただろう、晴れて彼女ができた妄想を。何度しただろう、フラれて落ち込んで泣いている自分の姿を。


 早く聞きたい、まだかな。いや聞きたくない、怖い。


 テスト勉強なんて手につかず、二週間ずっと告白のことばかり考えて過ごしていた。




 桜井さんは、何度も謝っていた。


 そんなに何度も言わないでくれ……俺の心が張り裂けそうになる。


 その「ごめんなさい」なんだ? 告白の返事がごめんなさいなのか? それともごめんなさいって言ってごめんなさいってことなのか? 


 それなら大丈夫だよ……もう。そんなに謝られるとこっちが惨めになるじゃないか。



 ――あぁ……好きだったのになぁ。



「そっか……。ありがとう」


 今にもあふれそうな涙を抑え、かすれている声を絞り出して言った。

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