南の国の魔法使い

Etsuko

前編

昔むかし、アフリカのある南の国にある、深い深い森の奥に、魔法使いが住んでいました。

その魔法使いは、いろんな魔法が使えましたが、中でも一番得意な魔法は、不思議な薬を作る魔法でした。

魔法使いは、病人や怪我人を治す、お医者さんのような仕事をしていたので、薬の知識には誰よりも詳しかったのです。

病気やケガを治す薬はもちろん、寿命を延ばす薬や姿を変える薬、頭を良くする薬など様々な薬を作る事が出来ました。


ある日、魔法使いが薬を売りに小さな町に来てみると、そこにはいろいろな物が売られていました。

その中で、お菓子屋さんの前を通りかかると、可愛い娘さんがたくさんのお菓子を売って、お客さんの相手をしてました。

「あの、その売っているお菓子、美味しそうですね。」

魔法使いは娘さんにこう声を掛けました。

娘さんは「あ!気に入られました?試食用に一つあげますよ!良かったら買っていって下さいね。」と言って、焼き菓子を一つあげました。

それを食べた魔法使いは、そのお菓子を気に入り、一袋買いました。

その日以来、魔法使いはその町で薬を売る度に、薬を売る合間にその娘さんの店に立ち寄ってはお菓子を買うようになりました。

それからというもの、魔法使いはすっかりその娘さんの事で夢中になり、好きな夕食の蒸したバナナや、蒸したヤムイモ、美味しい野菜がたくさん入ったシチューもなかなか喉を通りませんでした。

そして、魔法使いは「魔法の薬であの娘に、自分の事を好きになってもらおう。」と思い、魔法の惚れ薬を作る準備に取り掛かりました。

魔法使いは、色々な薬草や水、様々なキノコや苔を鍋に入れ、呪文を唱えながら魔法の惚れ薬を作りました。

そして、お菓子屋の娘さんに会いに、町へとやって来たのです。

魔法使いは、思い切って娘さんを誘おうとしました。

その時です。

魔法使いの近くに、年老いたお婆さんが声をかけてきました。

「お前さん、これから何をしようとしてるのかい?」

すると魔法使いは

「これからお菓子屋さんの娘さんに会いに行く所です。」と答えました。

お婆さんは、魔法使いの持つ薬の瓶を見て、

「この瓶には何が入っているのだい?」と問いかけました。

魔法使いは、慌てながら

「この薬瓶は何も関係ないよ。」とごまかそうとしました。

するとお婆さんは、

「それは惚れ薬だろ?そしてお前さんは魔法使いだね?」とまた問いかけました。

魔法使いはお婆さんに、

「どうして私が魔法使いだとわかったのか?」と問い返しました。

するとお婆さんは、いつの間にか美しい女神の姿になっていました。

女神様は、魔法使いにこう言いました。

「例え魔法の薬を使って想い人と結ばれても、本当に幸せとは限りません。好きな人に想いを伝えるなら、心を込めて伝えるべきです。」

そう言って、女神様は姿を消しました。

その時魔法使いは思い悩んで自信を無くして引っ込み思案になってしまい、結局その日は想いを伝える事は出来ませんでした。 


【後編に続く】

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