熱暴走系鈍感女子VS不憫系鈍感男子~両想いになった途端意思疎通が成り立たない告白戦~

木元宗

第1話 一花さんと貴尋くんはびっくりするぐらいテンポが合わない。


 十二月の寒さは変わらないけれど、退屈は吹き飛ぶ。


 いつも一緒に登校してるクラスメートの咲綾さあやに寝坊され一人で歩いていると、人混みの中に、見慣れた男子の背中を見つけたから。


 でも人違いだったら大変だ。一応確認しよう。あの黒のショートヘア、よーし……。提げてる鞄のデザイン、よーし……。


 徐々ににやにやしながら足早になっていて、背中の正体を確信すると走り出す。ポニーテールと肩から提げた鞄を揺らして、狙い定めた背中に飛び付いた。


「おい貴尋たかひろお!」


「っとお!?」


 驚いた男子、貴尋は、肩を竦めながら立ち止まると振り返った。


「……びっくりした、一花いちか……!?」


 やっぱり貴尋だ。暇じゃなくなった上に、暖も取れるぞ。


「んあー寒いなあ今日はぁー」


 貴尋の胴に腕を回すと、暖を取ろうと貴尋の背へぐりぐり額をこすり付ける。


「ちょ、ちょっと一花……!」


 パッと顔を離すと、貴尋を見上げた。


「いつも遅刻ギリギリまで寝てるくせに、今日は早いんだな! 登校中に会うなんて思ってなかったぞ! へへ」


 笑いかけると、貴尋はおろおろ目を泳がせている。


「ああ、あの一花、周りの人が見てるから……!」


「別に見られたって死なないだろ」


「いや死にはしないけれど……!」


 寒いんだろうな。顔が赤い。私も寒い。


 でも最近妙だなと思う。いつもならくっついたぐらいで、慌てたりしないんだけれど。


 まあよく分からないが身を離すと、並んで歩き出す。


「何で今日は早いんだ?」


 背の高い貴尋を見上げながら身を寄せると、ガッと貴尋の足を踏んでしまった。


「ん痛っ」


 貴尋の顔が、痛みでしわしわになる。


「あっ、悪い」


「ああいや、平気……。きょ、今日はね! 一花に会えたら嬉しいなあって、ちょっと早く出たんだよ」


「学校で会えるのに?」


「会えっ……るけども! でも今日は」


 おかしくなって、ぱっと笑う。


「へえ! 変な奴だな! クラスもおんなじなのに!」


「あの聞いてくれる?」


「無視はしてないだろ」


「えっと、食い気味に喋んないでね? 傷付くから」


「そうか? 悪い。で、何で私に会えたら嬉しいんだ!?」


 再び勢いよく貴尋へ向いた拍子に、今度は鞄が貴尋の脇腹に激突した。


「ぐぇ」


 痛そうに声を漏らす貴尋。


「おお、ごめん」


 慌てて鞄を提げ直す。置き勉はしない派だから、重みのある一撃になってしまった。


「い、いえ、お構い無く……」


 脇腹を押さえたまま、明らかに苦しそうな貴尋。かと思えば口元に拳を当て、咳払いし出す。


「ンンッ。ウォッホン。……あのね一花?」


「コンビニ寄ってもいいか? あんまん食べたい」


「う、うん……。あのね? 今日はちょっと、大事な話があるんだ」


「ほお」


 ピザまんにでもして欲しいんだろうか。


 目前に迫っていた踏切が鳴り始め、無理に渡るものでもないかと、私達は立ち止まる。


 慌てて小走りで渡っていく人達を眺めていると、貴尋は鞄を開けながら切り出した。


「えっと、今日一花、誕生日でしょ? だから……。はい!」


 にこにこになった貴尋が、鞄から出したものを差し出す。何やら丁寧に包装されている、柔らかそうな物体だ。


 目を丸くして尋ねる。


「何だこれ?」


「マフラーだよ。新しいの欲しいって言ってたでしょ? 破っちゃったとか言って」


「言ってた、けど……」


 私はぽかんとしながら、遠慮がちにマフラーへ手を伸ばした。


「……くれるのか?」


 貴尋は、にこっと笑う。


「うん! 誕生日プレゼントだよ!」


 何だか急に恥ずかしくなって、渡されたマフラーを胸に抱える。


「あ……。ありがとう」


 自分の誕生日がいつかなんて分かってるけれど、プレゼントを貰えるなんて思ってなかった。


 嬉しさが驚きを押し退けて、胸がいっぱいになる。自然と頬が緩んで、抱えたマフラーを見下ろして呟いた。


「……へへ。嬉しいな」


「そ、そう?」


 自信が無さそうな貴尋を見上げて、ぱっと笑ってみせる。


「うん。嬉しいぞ。一緒に巻こう!」


 ばりばり包装を破ると、丸めてブレザーのポケットに突っ込み、マフラーの片側を貴尋の顔へ投げた。


「ちょっと一……。めっちゃ痛い!」


 おっと。マフラーが目に入ったらしい。


 申し訳無いとは思いつつ爪先立つまさきだちになると、マフラーを巻いてやる。


「身長差があるからなあ……。ちょっと屈めよ。巻けない」


「いやそもそも長さが足りな……。いやちょっと待って!」


 貴尋は痛そうに目をこすると、マフラーを巻こうとする私の手を掴んだ。


「伝えたい事があるんだ」


 真剣になっている貴尋に気付いて、ちょっとどきっとして黙り込む。


 跳ね上がった心臓の音が、踏切の音に追い付いた。


 貴尋は、私を見据えると口を開く。


「ぼっ、僕、ずっと一花の事好きだったんだ! 付き合って下さい!」

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