クリスマスの話をしよう

みりあむ

第1話 クリスマス前の出会い

「くそっ。むかつく」


 マキノはひとりごちた。十二月一日からこっち、あっちでもこっちでもクリスマスソングのオンパレード。街はイルミネーションだらけ、チラシも広告もクリスマスの話題でもちきり。友人の千夏は突然彼氏を作りやがった。


「だってもうすぐクリスマスじゃん?」


 なんてことだ。千夏だけは、そんなドラマに出てくるOLみたいなセリフは吐かないと思っていたのに。文化祭でひょっとこ踊りをして男子にドン引きされていたあの子はどこへ行ってしまったのか。それともマキノが異常だとでも言うつもりか。このお祭り騒ぎを素直に楽しめないほうが人としておかしい?


「んなわけあるか」


 マキノは「おはようございまーす」と言ってバイト先のコンビニに入っていく。「あれっ」と店長が目を丸くする。あれっとマキノも目をしばたいた。相澤さんと篠田さんが来ている。あれ、バイトが一人多くないか?


「ごめん、マキノちゃん!」


 相澤さんがぴゅっと駆け寄ってきて、マキノの肩をつかむ。それをひゅっと避ける。何、軽々しく触ってんだこの男。


「今日、おれ、シフト代わってあげたんだよ。ごめんごめん、連絡すんの忘れてた」


 ……はい?


 相澤さんが早口にまくし立てる言葉をつなぎ合わせると、つまりはクリスマスデートのために早急に稼がねばならないらしく、どうせ彼氏のいないマキノは「はやく帰りたい」が口癖なのだから、「シフトを代わってやった」のだという。


「だから今日は帰っていいよ。わざわざごめんね? おつかれさん」


 待て。ちょっと待て。店長。なぜ何も言わない。どう考えてもおかしいだろこれ。


 ふつふつと脳みそが怒りで煮えくり返りそうになりつつも、「そうですか、では」ときびすを返して歩き出す。行き交う人々、ごちゃついたイルミネーションの街。そして、ああ、またクリスマスソング。


 くそっ。どいつもこいつも浮かれやがって。


「サンタクロースなんか、いやしねえよっ!」


 マフラーの中に吐き捨てた途端、だれかとぶつかった。


 思ったより衝撃が強く、子どもみたいに転んでしりもちをついてしまった。いたた、とうめいていると、相手が「ごめん、大丈夫?」とマキノにかがみこんできた。


 どきっとした。

 びっくりするくらいの、イケメン。


 髪も目も真っ黒だけど、鼻筋が通ってて彫りが深くてまつげがくるっくる。ちょっと前に話題になった、どこぞの国でイケメン過ぎて入国拒否されたモデル、あの写真よりカッコイイかもしれない。髪は長くて、ゆるくうねっている。


 こんなイケメンが、マキノにかがみこんで、にっこり微笑みかけているなんて。


「立てる?」


 手を差し伸べられて、マキノは赤面した。これは仕方ない。人間は自分とちがう種類の人間といきなり打ち解けるようにはできていない。フリーズするのは本能だ。


「は、い」


 それでもなんとか答えて立ち上がろうとする。そして諦める。おかしい。足に力が入らない。どこも怪我なぞしていないはずなのに……。


 男は笑う。そして言う。


「腰が抜けちゃったのかな。おいで、そこのカフェに入ろう。お詫びに奢らせてよ」


 この人……日本語、上手だな。

 マキノはぼんやりと、そんなことを思った。

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