三忍の年越し・正月

影宮

到着

 こたつで丸くなる猫…否、猫耳を頭に生やした忍が、目をチラと向けた先、そこには旦那である無愛想な忍があぐらをかいている。

「遅いね。」

「いっそ、来なくていいんだが。」

「二人きりの年越しなんて寂しいんですけど。」

「去年、そうだったか?」

「少なくとも、こちとらだけは大変だったね。どっかの旦那さんのせいで。」

 クスクスと笑いながらそう言うこの忍、霧ヶ峰キリガミネ 夜影ヨカゲという。

 過去は忍隊のおさとして、一時いっときは伝説を名乗り、また長であった頃は日ノ本一の忍と名乗り。

 書物に残されるくらいには、墨幸忍隊十勇士すみゆきしのびたいじゅうゆうしかしらとしても暗躍した者である。

 だが、それは戦国時代の頃だった。

 そして、その旦那である霧ヶ峰キリガミネ 才造サイゾウという忍は、同じ忍隊に所属、そしてその副長をしていた。

 薬を作るのが得意、だという他には霧を起こす術が得意という。

 この忍もまた、墨幸忍隊十勇士で二番手の腕だった。

 それもまた、戦国時代の話であるが。

 現在、平成も終わりを告げるに近い時代で、忍ということを隠しつつ一般人に紛れている。

 子供らはみな巣立ち、そして丁度 死地しちにてあの世。

「あぁ、来た来た。」

 その耳は、ここに訪れる風の唸り声を聞き取った。

 風は、室内に入り込む。

 風の正体は、またも忍であった。

 この忍は、一時の戦国時代で夜影ののちに伝説と名乗った忍。

 敵軍の忍であったし、夜影の義兄である。

 無口であり、喋ることはない。

「お疲れさん!」

 笑顔でこたつから抜け出し、その上着を受け取った。

 ハンガーにかけて、振り向く。

 暖かい室内では、上着は不要なのであった。

「遠かったでしょ?」

 首を振るこの無口の忍の名は、風牙フウガ 虎太コタという。

 風を唸らせる虎太の到着を、風の唸りが告げ、それを夜影が聞き取れば、もうそこに壁も扉も関係はない。

 忍は、何処からでも忍び込んでしまう。

 霧さえそこに漂うのならば才造が忍び込める。

 影さえ落とせれば夜影は忍び込める。

 風さえ通れる隙間があるのなら虎太も忍び込める。

 それぞれの得意、特徴がそれぞれの到着を告げるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る