エピローグ



 展望台で起きた事故。老朽化して、脆くなっていた柵に体を預けて落ちてしまった観光客は、重症ではあったが、なんとか一命をとりとめた。


 ――バタフライ効果。西条大翔の一言によって、久我政輝が加えた一撃は、あらかじめ予想されていた威力よりも弱く終わった。そのため、柵がきしむ音が聞こえてから実際に壊れるまで、わずかにだが時間が生まれた。音を聞いた観光客は、壊れるかもしれない予感から受け身をとり、命を失わずに済んだのだ。


 西条大翔の行動は、久我政輝の行動に確実に影響を及ぼしていた。


 その事実に彼が気付くのは、もう少し先の話だった。



 ◆



 俺たちは全知全能ではない。

 知っていても、どうにもならないことだってある。

 止めようと思っても、止められないことがある。

 そして、救えることと救えないことがある。

 救えなかった、止められなかった後悔を味わわずにいることが不可能であるのならば。


 ――それなら、知らないままでいた方がきっといい。


 俺はそう思ったから、自らの意思で政輝の後を追って行動を共にすることにしたのだ。

 もし政輝の行動で誰かが死んでしまっても、一緒にいる俺のせいだと考えてくれるだろうから。

 それでも、カバーできない部分がいずれ出てくる。

 いつかは知られてしまうのだろう。

 それでも、今だけは、まだ。

 もう少しだけ、このまま。



 君はまだ何も、知らないでいて。




 ―了―


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