蝶が羽ばたく、

そばあきな

蝶が羽ばたく、(本編)

プロローグ


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バタフライこうか 【バタフライ効果】


初期条件の僅かな差が、その結果に大きな違いを生むこと。チョウがはねを動かすだけで遠くの気象が変化するという意味の気象学の用語を、カオス理論に引用した。

『三省堂 大辞林 第三版』より

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 ブラジルにいた蝶の僅かな羽ばたきによる風が、アメリカのテキサスでハリケーンが起きるきっかけを生み出しているらしい。蝶の僅かな羽ばたきでさえ、その後にどこかで影響を及ぼすとされているのだ。

何気なく起こした行動が、後に大きな意味を持つ。

 彼らはそれを、十分に理解しているつもりだった。



二人の少年が、小さな小屋の中で向き合っている。一人は長椅子に座り、もう一人は長椅子に座っている少年の前で膝を落として屈んでいた。屈んでいる少年の手には、湿布が握られている。それを、座っている少年の手首に貼って微笑んだ。


「……もう、これで三件目かな」

座っている方の少年が、屈んでいる方の少年に声をかけた。腰を落として屈んでいた少年が、顔を上げて座っている少年の顔を見て、口を開く。

「あはは、そうだね。さすがにこれだけ続くと、不気味だよね……。さすが、死神なんて言われてるだけあるでしょ」

「……そんなこと言うなよ」

「でも、実際そう思ってるんでしょ?」


すぐさま屈んでいた少年が言葉を被せ、自嘲気味に笑う。座っていた少年は、諦めたように目を背けた。


今日も彼らの行動が、誰かを不幸にしている。


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