第7話 乙子城
置塩城が陥落した後も周囲を捜索し、井戸の抜け穴の出口も丹念に調べられたが、赤松晴政を見つけられはしなかった。
山の周囲に幾重にも防衛戦が張り巡らされていたにもかかわらず、誰にも見つからずに姿を消すなど不可能だと思われたが、まだ見つかっていない抜け道があったのだろうか。
考えられる限りの周到な用意と迅速な判断で攻めたのだ。
それでも大将を捕らえられなかったと、合戦の、山城を攻める難しさを改めて痛感して、置塩城の戦いは終わった。
浦上家の勝利に終わった戦いで、直家も勝手も分からぬまま走り回っていた合戦であったが、初陣とは思えないほどの手柄を立てたといえよう。だが手柄に見合った責任は決して小さくない。
小さな城であるが乙子城を浦上家より与えられて一城の主となったため、多くの仕事が山積みとなっていたのだった。
「直家様、材木を運び終えました」
「直家様、水路はここを真っすぐで、よろしいのですか?」
「ああ、それはそっちで……。ふぅ……」
鍬で土を掘る手を止めて汗をぬぐった。
配下となった足軽の他に各地に散っていた祖父・宇喜多能家の時代に仕えていた家臣の者たちも集まり、人数が増えた分、浦上家からの俸禄だけでは足らずに直家も畑を耕し働かなければ食っていけない。合戦のない間も槍を鍬に持ち替えて日々を忙しく過ごしていた。
「……砥石城に入れていれば、直家様にこんな苦労を掛けずに済んだのですが」
「なに、乙子城も児島湾に抑えるには重要な城だ。それに、この城を拠点にすれば、水軍の調練もできるからな」
「水軍ですか。しかし、船を揃えるとなると大金が必要ですよね」
「まだ先の事だがな……」
水軍を編成するなら船も必要だが兵の数もまだまだ足りない。それこそ何十年もかかるだろう。今は畑を増やし、城の周りに住める人の数を増やして行く所からだ。
そのために、まずは乙子城まで水路を引いて城の周りの堀をため池の代わりにし、田畑への灌漑用水路を伸ばす。行く行くは船を走らせられるような水路にしたかったが、今はまだ田んぼの間を流れる小川でしかなかった。それでも逆茂木で柵を作り堀に水が張られると、小高い丘に建てられた小城も随分立派な城に見えるようになっていた。
しかし、平穏に暮らせる時間など戦国の世ではわずかでしかなく、次の戦の足音が迫っていたのだった。
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