第2話 モンスターの大群

「……つまり、いまここの砦に魔物の大群が向かっているから

 それを倒すべく、神龍を召喚しようとしたら、間違って自分が召喚された……そういうわけか?」


 私がゲームキャラの男声のまま質問する。

 どうやらゲーム中と同じで声も口調も勝手に男キャラに変換してくれるらしい。

 ここらへんはマジ助かる。一応長身、イケメン黒髪キャラなのだ。

 これで女口調で女声とか死ねる。主に私が。


「は、はい……」

「失敗してしまいました。ごめんなさい」

「わ、わざとじゃなかったんです!!すみませんっ!!」


 と、三人が土下座した。


 三人をタライで黙らせたあと、目の前に座らせて、状況説明させれば、大体の事はわかってきた。


 まず、本来召喚しようとしたのは神龍で私は召喚魔法の失敗で呼び出された単なる手違いだった事。

 そしてこの世界はどうやら私がやっていたVRMMOゲーム、グラニクルオンラインの中っぽい。

 地名もゲームそのままだし、なんとレベルまであるらしい。

 だが、彼らにゲームの世界という認識はないという事。

 そしてこの世界では「プレイヤー」と呼ばれる、召喚術で間違って呼ばれたレベルの高い者達が、国をのっとったりハーレムをつくったり好き放題している事。



 そして……一番の問題は……いま私たちがいるこの砦。トルネリアの砦が危機的状況にあるという。

 エルフが、何故かこの国の王と対立しており、たくさんのモンスターをけしかけてきたらしいのだ。


「なんでそんな危機的状況な所に人を呼び出すかな」


 私が憮然とした顔で言えば


「すすす、すみませんお願いですから、拷問だけは勘弁してください!」

「性奴隷もお願いですから、勘弁してください」

「赤ちゃんの格好もできれば嫌です」


 と、土下座をしながら言う。

 うん。こっちの世界に召喚された他プレイヤーは一体どんな悪行を繰り返してるのだろう。

 プレイヤーのイメージが単なるド変態じゃないか。

 私は魔導士、ベガ、デネブ、アルの三人を見つめ、ため息をついた。

 最初はローブを目深にかぶっていたせいで気付かなかったが、この三人、少年といっても差し支えない年齢だ。

 聞けば魔導士見習いで、召喚儀式も初めてだったらしい。

 本来異世界に転移しちゃいました✩などと聞けばもう少し慌てふためきそうなものだが、この三人が必要以上に慌ていたせいで私の方は妙に冷静になってしまった。


「うん。間違いなのはわかった。


 ……で、私を元の世界に戻せるのか?」


 と、聞けば、三人はにこやかに笑い、無理だと答える。


 ……うん。一度こいつらシバイてもいいだろうか?




 △▲△



 ザッザッザッ。


 物凄い数のモンスターの大群が、この砦に向かって行進をしていた。

 よくモンスターなのにこんな統率がとれているなと思うほどの大量のモンスターが、お行儀良くこちらに向かってきている。

 砦の上から見渡せば、砦の中にはいかにも子供や女性、年寄りなどしかおらず、いかにも農民な格好をした男達が鍬をもって、砦の門の前で構えていた。


「ベガ、城の兵士達は一体どこにいるんだ?」


「逃げましたよ、僕たちを置いてまっ先に。

 酷い話でしょう!?足でまといと全員置いて騎士だけ逃げたんです!

 だから神龍召喚を試みたんです」


 今にも泣きそうな顔で言う茶髪の青年ベガ。

 そりゃこれだけの大群のモンスターを見せつけられれば泣きたくもなるよね。

 てか、確かに酷い話だな。普通騎士って村人守りながら逃げたりするもんじゃないか?

 ここの砦の兵士達は薄情すぎる。


 ……まぁ、ある意味現実的な考えではあるのだろうけど。

 全滅するよりは騎士だけでも……というのは間違いではないのだろう。

 でもさぁ。こー平和の中でヌクヌクと育ってきた私的にはやっぱり納得できないっていうか。

 冷たいと感じてしまう。


 私は見える範囲でモンスターのレベルをスキル【鑑定】で鑑定してみた、このスキルは相手のレベルやステータスなどが見れるのだがどれもモンスターのレベルは20〜60。

 対して砦にいるのはレベル1〜5の一般人に、私を呼び出した魔導士たち三人のレベル10が最高なのだ。

 そりゃ勝てるわけがない。


 まぁ、私はレベルが200なのだから、あれくらいのモンスター苦でもない。

 どうやらゲームの世界の身体そのままで転移してきたようで、私のレベルはゲーム時と同じカンストレベルの200。

 アイテムなどもゲームと同じように使え、ステータス画面まで確認できる。

 ただ、さすがにログアウトはできないらしく、ログアウトと課金アイテム購入ボタンは何度押しても反応しなかった。


 問題はなぜゲーム上では平和主義者だったエルフがこのような大量のモンスターを人間の領土に攻め込ませてきたかということ。

 ゲームの設定のエルフはみな温厚で世界の平和に尽くしていた。

 こんな一般人しかいない砦で大量虐殺をやるような種族だったはずじゃなかったはずだ。


 ……まぁ、ゲームと現実は違うと言われればそれまでなのだが。

 でもなぁ、地名も一緒、文化も一緒、魔法もアイテムも普通に使えて「ゲームの世界じゃない(キリッ)」というのも変な話で。

 

 けれどまぁ、この状況放っておくことはできないよなぁ。

 私は頭をぽりぽりとかく。

 砦の中では赤ちゃんを抱えた女性が守るように棒切れをもち、子供達も母親を守るかのように木の板をもって構えている。

 こんな光景を見せられて、ハイ。私関係ありません!サヨウナラ!と立ちされる神経は持ち合わせいない。


 とりあえず、エルフ側の話を聴くにしてもこのモンスターの群れをなんとかする必要があるだろう。 


「んじゃ!いっちょやりますか!」


 私がボキボキと指をならせば


「やるって何をです?」


 と、赤髪のデネブが聞いてくる。


「もちろん。モンスター退治」


「へ、まさか猫さん、このモンスターを一人で全部相手をするつもりですか!?」


 青い髪のアルが驚いた感じで問いかける。


「ちゃちゃと片付けてくるから、ちょっと待ってろ!」


 言って、私はスキルを行使した。

 目視できる場所まで瞬時に移動できるスキル【瞬間移動】を。

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