第41話
「生存者は女性冒険者1名
男性冒険者2名と女性冒険者1名は死亡。認識票は回収した」
ナナシは軽く肩を竦めながら話題を反らす様に、そう説明した。
その口調は淡々としていて、特に感情らしいモノが籠っていなかった
まるで、今日の天気を話しているかのようだった。
そんなどこか事務的な口調で話すナナシに、ゴンザレスは眼瞑り黙祷した
「・・・気が滅入るのは、この『異世界』でも同じだな」
ゴンザレスがポツリとそう呟くと、ナナシも頷いた。
「ゴブリン退治で駆け出しの冒険者パーティーが、丸っと全滅する事は
良くある日常茶判事だ」
そう声をかけてきたのは、嫌悪感を現した表情を浮かべつつ近づいてきた
冒険者ルーカスだった。
先ほどまでナナシに同行していた冒険者アンデリックと、何か
会話していた様だったが、いつの間にかナナシ達の
近くまで来ていたらしい
「なんともはや……」
ナナシは呆れたように溜息をつくが、ゴンザレスは無言だった
「アンデリックとギルド職員の嬢ちゃんから聞いたが、ゴブリンに捕らわれると
噂以上の地獄絵図になるそうだな」
ルーカスは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
相当、ゴブリン嫌いになったのか、表情には嫌悪感が出ていた。
「『ゴブリンの狂軍』で、その糞ゴブリンに襲撃され蹂躙された地域では、
好き勝手に殺戮や略奪を欲しいままにされていた
―――これからは安易にゴブリン討伐を引き受けようとする
駆け出し冒険者には、ギルドは注意して伝えるべきだな
あと眼を光らせておけよ?」
ナナシがそう言って、ルーカスの肩をポンと叩く
ルーカスは少し微笑んだが、すぐに真剣な表情に戻ると頷いた
『ふぅ』と短く息を吐き手を挙げつつぶらぶらと歩きながら、立ち去っていく
その先には、アンデリックとギルド職員がいる
「ルーカス、アンデリック、そしてジュリジットは、『ゴブリンの狂軍』を経験して
しぶとく生き残った、数少ない『白金』級冒険者だ
特にジュリジットはユニオン『闇を司る死霊魔術師』内でも
トップクラスに優秀な『死霊魔術師』として知られている
ユニオン内でも発言力が高い冒険者が、ラノベなんかで書かれている以上に
糞安い『異世界』ゴブリン討伐なぞ
本来なら引き受ける事は、まず無いからな」
ゴンザレスがそう呟く
「 俺達の『事情』を知っていて、尚且つ口の堅い『金級』や
『黒級』、『ユニオン』連中は『ゴブリンの狂軍』で腕のある
冒険者が多数死亡した影響もあって、『冒険者ギルド』から山の様に溜まっていた
指名依頼をこなす為に既に出払っていたんだぜ?
たまたま偶然にも『冒険者ギルド』内に最も口の堅そうなヤツらは、
あいつらしか居なかったんだ
それとも何か、わざわざ『銀級』以下の駆け出しを数だけでも
揃えて集めた方が良かったか?」
ナナシはニヤリとした笑みを浮かべつつ、ポケットに手を突っ込んで
何かを取り出しながら、そうゴンザレスに質問する
「そんな事をやらかしたら、後々面倒なことになったぞ
それでお前は、何を『異世界』に『現世界』物を持ち込んだ?
あんまり面倒なモノを持ち込むな」
ゴンザレスは数回咳をしつつ、呆れた様に言う
口からは金貨を吐き出す
ゴンザレスはナナシが取り出した小さな『何か』を見て、思わず貌を
引きつらせた
「ゴブリンの塒の1つや2つに爆薬を仕掛ける事は、俺達の腕にかかれば
造作もない事だ」
そう言うとナナシは口角を上げてニヒルに笑う。
そして小さな『何か』をゆっくりと押した
―――――そのとたんにゴブリンの塒がある方角から、耳を聾する
凄まじい轟音が響いてきた。
数秒後、塒を一帯の空気が震えるような大爆発が起こり
巨大な太い火柱が立った
爆発の衝撃で、内部にいた思われるゴブリン達は閃光と爆発音と
共に一瞬にして木っ端微塵に吹き飛ばされた。
爆風の余波により、周囲の木々が激しく揺れ動くが、ナナシ達がいる場所まで
爆風は届かなかった
ものも、あまりの衝撃にナナシ達以外は驚愕し茫然自失した
炎と煙で塒付近を覆っていた黒い影が晴れると、そこには先ほどまで
無かったはずの大きなクレーターが出来上がっていた
死体など炭となって全て消し飛んだのか、ゴブリンの骨や 武器防具の
残骸すら残っていなかった。
「・・・何を持ち込んだ?」
ゴンザレスは咳き込みつつ、口から金貨を吐き出しながら
ナナシに質問した
「何処で手に入れたのか、野暮な事は聞くなよ?
コンポジション C-4プラスチック爆薬だ」
ナナシはそう応えながら、小さな何かをポケットにしまって
そう答えた。
「・・・・」
ゴンザレスは何か言いたそうな表情を浮かべたが、溜め息をつき
肩を竦めた。
下手な事を言って面倒ごとに巻き込まれるのは御免だという事だろう
コンポジション C-4プラスチック爆薬といった危険な爆薬物など、
『現世界』の派遣される現場で、容易に入手できるからだ
ルーカス達はあんぐりと口を開け、呆然とした表情のまま
立ちすくんでいいたが、すぐに我に返った ジュリジットが
慌ててナナシ達の所へやってくるのが見えた
その後ろからギルド職員が慌てた様子で追いかけてくるのが見える。
ゴンザレスは溜息を吐くのを堪えて、『さて、どう説明したものか』と
思案した
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