第7話











 ――――ナナシは、ゴンザレスを置いていく事にして、

 城壁をくぐり街に入った。

 視界に広がる光景は、『』の街であることが証明されていた。

 石畳の広い道路と市街地の活気あふれる住民たちの動きで、非常に

 賑やかだった。

 街を南北に走る大通りは、商人達の荷馬車や買い物客でごった返し、脇にずらりと露店が置かれさまざまな商品が並べられており、道行く人々を楽しませて

 いる。

 家や商店、宿屋、酒場、武器屋に防具屋―――――そして行きかう人々の姿の中には、『』にしか存在しない、の姿も少数混じっていた。

 ナナシはそんな異世界情緒を感じながらも、その瞳は街の様子にさり気なく視線を向けている。

 一見平和そうに見える光景でも、何かしらの違和感や異変がないかを観察して

 いるのだ。

』での、些細な事でも見逃すと取り返しの付かない経験を幾度もしているためだ。

 ―――しばらくし、街の喧騒を後にして『ある場所』へと向かっていく。

 その途中で、『異世界』で顔見知りになった露店主や宿屋の看板娘らしい従業員などに声をかけ、特に他愛のない会話をして離れていく。



 緩やかな坂道を登り始めると、商店を練り歩いている人々の間には屈強な体格の者や、帯剣した女性の姿がちらほらと見えはじめた。

 ナナシが向かっている街の地区は、主に鍛冶屋、騎馬を留める厩舎などの

 危険地帯に赴く者たち向けの施設が集中している。

『ある場所』に近づくにつれて明らかに――――

 危険地帯に赴く業種に就き、屈強な体格に防具類を身に着けている集団と

 すれ違う頻度が多くなった。

 屈強な集団の中にも顔見知りがいるのか、幾つかの集団に挨拶をして、二言、三言言いながらすれ違っていく。

 その中でも特に親交がある者や集団には、気の利いたジョークでも言ってゲラゲラと笑わせていたり、何かしらの情報を聞いたりしている。



 ナナシが向かっている場所は、大きな石造りの建物だった。

 建造物の出入り口は両開きの押し戸となっている。

 ナナシは、両開きの押し戸を開けてゆっくりと内に入る。



 建物内は、明らかに一般市民ではない者達で混雑し、賑わっていた。

 正面の奥には受付があり、右には巨大な掲示板があった。

 また左手奥には、5~6人囲める木製のテーブルとイスが複数とバーカウンターがあるのが見える。

 テーブルにもカウンターにも先客で溢れ、壁にもたれて立ち飲みしている者も

 いた。

 その付近にいるだけで、酒の臭いと体臭で悪酔いしそうだ。

 そんな混雑した中には、『』にしか存在しない

 の姿も存在した。

 杖を持ち外套着込んだエルフ、斧を携えた髭面のドワーフ、小柄なノームや

 ホビットなど・・・。

 様々な武器、様々な種族、様々な年齢の男女が思い思いに談笑している。

 受付や巨大な掲示板付近には、ずらりとした長蛇の列が出来ている。



 バーカウンターがある方向で、木製のテーブル席で食事をしている集団が、

 ナナシの姿を見つけて、手を挙げた。

 ナナシもそれに気づいて、近づいていく。

「エールをあと二つ」

 食事をしている集団の中で、1人がお道化る様な声で言ってくる。

「お客さん、朝から飲みすぎですぜ? その前に俺は従業員じゃありませんよ」

 ナナシも同じようにお道化る様に応える。

「え、違ったのか?」

 エールを頼んだ1人が、わざとらしい驚きをする。

「そうですよ、俺は最近ど辺境な村から、冒険者になる前に出てきた駆け出し

 冒険者ですぜ」

 ナナシも、わざとらしく肩を竦めながら応えた。

 そのテーブル席に座っている者が、飲んでいたエールを噴き出す。

「冗談キツイぞっ!? 駆け出しというのは、あの掲示板とか、受付で

 一つ一つ真剣に聞いたり、キャッキャッとかウフフみたいな、見るからに

 始めて冒険者登録し、夢と希望を抱いている連中の事を言うんだぞ!!」

 別の者が、咳き込みながらそう告げる。

「・・・なんだ、若いのがへましないように様子を見ていたんだな。お前」

 ナナシが、何処か生暖かい眼で、咳き込みながら言ってきた者に応える。

「こいつは、そういう奴だ。見た目は、明らかに新人いびりが大好きな

 人間に見えるが・・・こないだも村から出てきて、泥と埃りで汚れた

 冒険者登録を希望した若いのに、何かといろいろとだな」

 エールを頼んだ1人がニヤニヤしながら言う。

「だーーっ黙れ!! 」

 その者が、恥ずかしいのか強引に遮る様に言う。

「本当にまぁ、明らかに山賊とか傭兵崩れの盗賊の親分みたいな貌と身体なのに、

 人は見かけによらないもんだなぁ・・・」

 ナナシは、生暖かい眼をしたまま応えた。





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