お前の望みを言え(補)

「なんで、魔法少女が二人に増えているんだ……」


 二人の魔法少女が現れた翌日の昼。

 なにも物のない殺風景なアパートの一室にて、新たに集まったデータを分析しながら漠然とつぶやく者があった。

 ほとんど銀に近い金髪の下に輝く、あどけなさの残る青い瞳。

 血液を感じさせないような白い肌と、その中で僅かな赤みを示す薄い唇。

 その姿は青い鳥ではなく、今は人間である。

 人間世界に溶けこむための仮の姿。仮の身分。仮の住まい。

 だが、今日は学生というその身分を放り出し、この部屋に籠もって集められた情報を見続けている。

 その眼に映るのは昨日の夕方撃破されたザリガニ型ボーゼッツ。

 まあ、撃破されるまでは予定通りだ。

 むしろ今はそれでいい。

 こちらの世界に橋頭堡を築くための準備期間だ。

 暴れすぎて悪目立ちしてしまってもそれはそれで問題になる。

 だから、魔法少女があっさりと倒すのも想定の範囲内だ。

 だが、その魔法少女が二人になるのは話が違う。

 対策を考え直さなければいけない。


「やっぱり、ボク自身が一度出ていく必要があるのかも知れない……。『』の可能性も考えておかないと、魔法少女には対抗しきれないかな……」


 魔法少女は一人でいい。

 昨日現れた魔法少女の片割れが口にした言葉だ。


「まったくだよ。魔法少女は一人でいいんだ……」


 ブツクサと愚痴を漏らしながら、様々な準備にとりかかる。

 こうしたイレギュラーに対応するために、一般ボーゼッツとは別に監視員として自分が派遣されているのだ。

 それはわかっていたが、まさかそんな例外が起こるとなどは思ってもみなかった。

 実際ここ最近の人間界への進出では、予定通りキーボンとの小競り合いを行って、予定調和的に痛み分けで双方エナジーを獲得するという流れが続いていたのである。

 典型的な閑職と陰口を叩く者もいた。

 それでよかった。

 平和の象徴だったのだから。

 そう聞いていたから自分もこの任務に志願したのだ。

 しかし、それはあっさり破られた。

 魔法少女が二人になった今は、あちら側に天秤が傾きすぎているのだ。


「うーん、シケルトンもいくつか手配しておいた方がいいかな……。あと、もし『緊急措置』を使うことになるなら、先に手続き申請も出しておいた方が楽だし……」


 いいながら幾つもの書類をまとめる。

 こういう事務処理はいつも気は進まない。


「……でもとりあえず、次には間に合いそうにないから様子見かな……」

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