第9話 ゴロゴロ宣言からの悪阻
妊娠の確定はまだでしたが、先に自分の親兄弟には妊娠を報告しました。家族からはおめでとうの後にこんなことを言われました。
今のうちにゴロゴロしといた方がいいよ。
なぜかというと、1人の体じゃないから体を大事に、とかそういうことではなく。
育児が始まったら自分の時間なんて全然取れない。だから今のうちに出来るだけゴロゴロしときなさい!
ってことでした。
三度の飯よりゴロゴロダラダラするのが好きな私はこの話に飛びつきました。そして夫に宣言します。
これから子を産むまでの間、存分にゴロゴロさせて頂きます!好きなことして10ヶ月間過ごさせて頂きます!!
こうしてポンコツ主婦のゴロゴロ妊婦生活が始まったのでした。
ウキウキしながら夫に宣言して始まったゴロゴロ生活。最初からつまづきました。
悪阻です。
はじめは胃のムカムカだけだった悪阻。それがだんだん重くなっていきます。
私は吐き悪阻でした。
朝、目覚めとともにトイレで吐く。夕方、夕飯作って食べて吐く。どっちかだけの日もあれば、両方な日もあって。
幸い? 私は吐くことには抵抗ないのです。子供の頃から乗り物酔いが激しく、家の車に乗っては酔い、バスに乗っては酔いでした。
さらにさらに、大人になってお酒に酔い。。
ちょっと話は逸れますが。
お酒嫌いな方には申し訳ない話なのですが、私はお酒と呑みの席が好きで、会社終わりに先輩について行って呑んだり、呼ばれてないけど上司達のいそうな立飲み屋を覗いてみて、いたら混ざる、みたいなことをやってました。
いや、たまたまその時の会社の上司が面白い人ばかりで、その人達と呑むのが好きだったのかもしれません。呑みに行ったからってべろんべろんになるほどお酒を呑むのは好きじゃありません。お酒大好きなんですがそんなに強くないので。自分の限界超えないように呑むのですが、ごく稀に、体調が悪かったのか、お酒が合わなかったのかで具合が悪くなってしまうことってありますよね。
ある冬のことでした。
その日も和やかにみんなと別れて電車で家まで帰るわけなんですが、1人になったら急に具合悪くなってしまったんですね。これははやく家に帰らねばと最寄りの駅について帰りを急ぐものの、途中で力尽きて家まで目前、私が住んでたアパートの隣にある小さな会社の前でうずくまりました。ううう気持ち悪い。どうしてこんなことに……。せっかくの楽しい時間から一気に苦行へと変わってしまった自分の体調を嘆きました。夜遅く、住宅街に人通りはありません。辛い。近くに知り合いもいない。大都会東京の寒空の下、私は1人ぼっち……。と、思ったら。
「おかえりなさい!」
どこからか声が聞こえます。元気な女性の声です。
酔っ払ってついに空耳まで聞こえるなんて……。私は一体なにをやってるんだ。
「今日も一日おつかれさま!」
あれ、また。ふと右側に目をやると、私の横には白く輝く自動販売機が佇んでいます。
「おかえりなさい」
なんと自動販売機が話しかけてくるじゃありませんか。
自動販売機、お前だったのか……! 酔っ払った私を労ってくれるのは……!
私はそっと自動販売機に寄りかかりました。真冬の自動販売機はほんのり温かかったとさ。
って言う自業自得な話なんですけども。
今もあるかどうかわかりませんが、家の隣の会社の前にある自動販売機は、人が前に立つとセンサーが反応して、朝ならおはよう、夜ならおつかれさま、と、人に話しかける自動販売機だったんですね。決して酔っ払った私の妄想ではないんです。
昼間はなんじゃこの自販機って思ってましたが、弱った心をすっと埋めてくれるなかなかいい奴でした。ありがとう自販機。
あ、それで、なんだっけ。吐くのが苦手じゃないって話ですね。
そんなわけで吐くことに抵抗のない私は吐き悪阻もどんとこい。吐いて楽になるならいくらでもってくらいの気持ちでした。でもそれは甘い考えでした。
乗り物やお酒に酔った時は、吐けば楽になりますが、悪阻は全く楽にならない。ずーっとなんか気持ち悪いって状態が続きます。喉から胃までがずーっとずーっとムカムカしたまんま。朝から寝るまでずーっと。
ご飯を食べた後吐くのはまだいいです。
胃の中に何も入っていないのに吐き気が止まらず、胃液しか出ないっていうのが結構しんどい。特に朝、吐き気で目覚めてトイレに直行。お腹が空いていて出てくるのは胃液だけなのに収まらない猛烈な吐き気。これはきつかったです〜。
食べ物もそんなに食べれません。味覚もころころ変わりました。酸っぱいもの、冷たいものならいけたので、蒟蒻ゼリーとか、ピクルスとか、アイス。かと思えば油っこいマックのポテトなんかを食べる生活でした。飲み物も、味のついた麦茶なんかは気持ち悪くて全然飲めなくて炭酸水を飲んでましたがだんだんそれもダメでレモン水飲んだりしてました。
しかし栄養取らねばと思い、アイスやゼリー以外でどんなご飯なら食べられるのか色々試しましたが、結局これなら食べられる!っていう食事は見つけられずに悪阻の期間は終わってしまいました。
そんな日々でしたが、悪阻があることでお腹で赤ちゃん元気に育ってるんだなぁと感じることができて前向きに過ごすことができたのでした。
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