陰陽学園物語
富士 ハヌラ
第1話 部活を探そう
「白河君、そろそろ部活は決まりましたか?」
「ほ、細川さん......」
今僕はプチピンチに陥っている。
「締め切り、今日までですよ?」
突然だけど、僕の名前は白河紅生。中学二年生。この陰陽学園に二週間前に転校してきたんだ。
「自己紹介はいいですから早く部活決めてください!」
もしかして心読まれた?さすが細川さん!僕と今話しているのがクラスメイトの細川紫苑。通称 細川さん。ぱっつんの前髪に白いリボンで腰まで緩くまとめた深く綺麗な青色の髪。
白くてすべすべしてそうな肌に抜群のスタイル!容姿端麗な細川さんなんだけどおまけに成績優秀、運動神経も抜群!そして生徒会の副会長!!!で、そんな細川さんと僕が喋っている理由はというと...
「今日中に入部届を提出しないと、先生が独断と偏見で白河君の部活、決めちゃうんですよ」
そう...どうやらこの学校、部活は全員参加が決まりらしいんだ...期限を過ぎてしまうと勝手に部活が決められてしまうらしく...
「そんな浮かない顔しないでください。今日も部活見学行きますよね?」
「行くけど...もう他に残ってるのかな?」
一応一通りの部活は見てきたんだけど、ピンとくるものがなかったんだ。なんか変な部活もたくさんあったし。勝手に決められたら青春中学時代、完璧に終わる。
実は前の学校ではサッカーやってたんだけどここではやらないって決めたんだ。
「うーん......あ!ありました!一つだけまだ見学していない部活がありましたよ!」
細川さんが生徒会で保存してあるという部活動のファイル食い入るように見てたなか、一つだけ見学していない部活を見つけた。
「どんな部活?」
「いんようけんきゅうぶって部活らしいです」
細川さんは眉を潜めてたどたどしく部活名を言う。
「細川さんも知らないの?」
「存在は知っているんですけど活動内容がよくわからなくて...」
そう言って細川さんは困ったような顔をしながら僕にファイリングされた一枚の紙を見してきた。
陰陽研究部
三年・・・3人
一年・・・2人
二年生がいません。二年生求む!
活動内容・・・陰と陽についての謎について研究しています。初心者大歓迎!
「......?」
細川さんは僕が意味がわからないという顔をしたのに気づきため息混じりに言った。
「そんな顔にもなりますよね...無理して行かなくてもいいんですよ、先生には私が体験入部期間を延ばしてくださいって頼んでおきますから」
「いいよ、僕行ってみる」
「え、でも...」
「細川さんには迷惑かけてばっかだったから、部活、ちゃんと今日中に決めるよ」
今日まで色々な部活を細川さんに紹介してもらったからね。グダグダしないでちゃんと決めるよ。
「白河君......あ、ありがとうございます!」
細川さんは笑顔になり、頰を赤らめた。そんなに僕のこと迷惑だったのかな......。
「そ、そんなことないですよ!は、早く行きましょ、ね?」
う、うん。でも細川さんも一緒に行くの?生徒会は大丈夫?最近僕に構いっきりで行けてなかったぽいし。
「陰陽研究部、ちょっと興味がありますから」
細川さんは少しニヤッと笑った。
と、いうことで僕と細川さんは陰陽研究部とやらの部室にやって来た。
「こんなところが本当に部室なんですかね?」
そう、陰陽研究部がある場所は学校の端の端の端。しかも木が生い茂っていてちょっとした隠れ家みたいな感じ。
でも建物自体は古そうなプレハブ小屋。こんなとこが部室って大丈夫なのかなあ。
「とりあえず入ってみましょうか、鍵は借りてきましたし。」
「そうだね......」
錆びついたドアノブに鍵を差し込み...あれ?鍵が入んない。角度や向きを変えても鍵はドアノブに入ろうとしない。
「あーそれちょっとだけコツがいるんですよ」
「誰!?」
いきなりの背後からの知らない声に僕と細川さんはとっさに振り返った。振り返った先には女の子が立っていた。
前髪はクルンとカールしていて、腰まであるサラサラの金髪を耳より下のところで二つにまとめている髪。金髪に映えるキラキラとしたピンク色の大きな瞳。細川さんが日本の美人ならこの子はヨーロッパ系の美人って感じ。リボンの色的に一年生かな?
「はい!一年三組十二番、橘 楓です。陰陽研究部に何か御用ですか?」
鈴のような声を鳴らし、楓と名乗る少女は僕たちを見つめた。
「部活見学がしたいんだけどいいかな?」
僕がそう言うと楓はピンク色の大きな瞳をより一層キラキラさせた。
「はい!もちろんです!」
楓は即座に鍵を奪い、慣れた手つきで錆びついた鍵を開けた。そしてようこそと言わんばかりの表情をしてギシギシとした扉を大きく開けた。
「私、部長を呼んできますので適当なところに座ってください!」
楓はそう僕たちに告げた後そくさくとどこかへ行ってしまった。しかもスキップで。
陰陽研究部の部室は少しカビ臭く、おばあちゃんの家のような安心感が身体中に染み渡った。壁には一面の本棚。
部屋の真ん中にはコタツより高い机に五脚のパイプ椅子。部屋の端に三脚ぐらい予備っぽいパイプ椅子がある。部屋は結構広くて教室よりも一回り小さい感じ。
ロッカーやティーセットとかもある。失礼だけど結構、中は整ってるんだね。
僕は目の前にあったパイプ椅子に座った。細川さんは本棚に興味深々なようでじっくりと本を見定めている。
「ふぅ...」
僕は腰を下ろした途端一息ついた。
ここまで来るのにだいぶ時間かかったなあ。陰陽学園ってこんなに広かったんだ。
陰陽学園はかなり古くからあるらしく、旧校舎が何個かあった。人気が全然なくて使われなくなってから誰も手入れをしていない感じで。
細川さん曰く昔は肝試しとかで入ってた人がいたけどある事件をきっかけに誰も出入りしなくなったらしい。多分古いから老朽化とかで床や壁が脆くなって怪我人が出たのかな?
でもなんでそんなところ学校は放置しているんだろう。普通は取り壊したりするけど。細川さんに聞こうとしたけど細川さんは少し暗い表情で僕を見ていてそれ以上喋りたくなさそうだったんだ。
「白河君、ここの本棚神話や昔話や民族学の本ばかりですよ」
細川さんは一冊の本を持ち、僕の向かい側の席についた。
「へー、そうなんだ。細川さんが持ってる本って何?」
「ギリシア神話です」
え、そんな難しい本読んでんの?
「小さい頃読んでたんで手に取っちゃいました」
ギリシア神話って色んな話があるんだよね。やっぱ全部読んだの?
「メデューサの話だけです」
「メデューサって見たものを石にするあの?」
「はい、髪がヘビなアイツです」
へー、なんか意外だなあ。神とかの話を読んでるかと思った。
「白河君はメデューサ、お嫌いですか?」
うーん、あんま知らないけど物語では悪役だよね。細川さんは好きなの?
細川さんは目を細めてなにかを思い出しているようだった。
「...どうでしょう、自分から聞いたのに答えられなくてごめんなさい」
べつにいいんだよ!僕だって答えになってないんだし!
細川さんは柔らかく微笑んだ。
「ありがとうございます。白河君は優しいんですね」
え?そんなこと言われると照れる...
「お待たせしました!」
楓が今までの雰囲気を壊すかのように扉を開けた。
「そんな勢いよく開けるとまた壊れるからやめろ」
「はーい、すみませーん」
呆れたような顔で楓に言ったのは部長?すっご...かっこいい...僕なんかより頭一つ、いや二つ、三つ?は大きいスラリとした身長。
シュッとした切れ長の赤い瞳。侍っぽくまとめたサッラサラの黒髪。制服のワイシャツを肘まで出してるから見えるいわゆる女子の萌えポイント、筋肉!僕が女だったら惚れる...いや男でも惚れる...。
「君は見学希望だったんだっけ、陰陽研究部部長の三年の真田勇一郎だ。よろしくな。」
な、名前までカッコいい...声も凛とした低い声で聞いているだけで安心する...はっ!真田先輩が手を差し出してる!
「ににに二年のしししし白河ここ紅生でしゅっ!」
「そんなに気を張らなくていい」
手汗でビチョビチョ、緊張でガチガチの手を先輩はとった。あ、握手しちゃった...。
「立ち話もなんだし、座って話そうか、橘、お茶を」
え?僕いつのまにか立ってたんだ...
「真田先輩が現れた瞬間パイプ椅子ひっくり返して立ち上がってましたよ」
細川さんが笑いながら言った。憧れの細川さんに恥ずかしいところを見られた......。僕と真田先輩がパイプ椅子に腰掛けると、楓がお茶を持ってきた。
「リラックス効果のあるカモミールティーです」
カモミールティーと言われ出された紅茶はふわっとしたりんごに似たような香りが身体中を包み込んだ。匂いを嗅いだ瞬間、緊張が少し揺らいだような気がした。楓は僕に気を使ってこのお茶を淹れてくれたのかな。
「ありがとう」
「どういたしましてです」
楓はお礼を言われて嬉しそうにしている。
「白河の緊張が解けたところで本題に入ろうか」
「は、はい」
「君はこの部活がどういったものか知ってるかい?」
「え、えーと、...えーと...」
「...おい橘、あいつに部活動紹介表、書かせたの間違いじゃなかったか?」
「そう、みたいですね...」
「まあ過ぎたことを気にしても仕方ないか。白河、この学校いつからあるか知っているか」
うーん、結構古いらしいよな。150年前とかかな?
「残念、正解は一千年以上前だ」
え!?それって...
「かぐや姫と同い年!?」
「ふふっ、まあそうなるな」
イケメンの笑い顔は破壊力が強い...ってそんな前から陰陽学園ってあったんだ。平安時代とかでしょ?
「こんなにも古くからあるこの学校の歴史はあまり明かされてない。というより資料が残ってないんだ。それで陰陽学園の歴史を解明していこうって部活が陰陽研究部なんだ」
おー、なんかおもしろそう!
「すみません、少し質問よろしいでしょうか」
あれ、細川さんどうしたの?
「活動の趣旨はわかりました。でもここにある本棚、関係ないギリシア神話とかありますよね。これも資料なんですか?」
「君は...生徒会副会長の細川紫苑だっけか、珍しいね生徒会役員がこんなところにいるなんて」
「別に、興味があるから来ただけです」
「さっきの質問だけど、君は答えを知っているはず、だよね?」
緊張が解けた部屋にふたたび二人だけの緊張が走る。え?どういうこと?細川さんがなんか違う人みたいに少し怖くなってる...。
僕は恐る恐る聞いてみた。
「あ、あのどういうこと、でございますか?...」
「君には関係ないよ」
「細川君には関係ないですよ」
ひょええええ、和風美男美女に同時に一刀両断されたああああ。
「しゅ、しゅみましぇん...」
「話は戻すけどこの部活は入部テストがあるんだ」
え!?嘘!?最後の希望なのにテストオオオ...。
「そんなに気落ちしないでいい、きっと君なら......合格するからさ...」
ん?きっと君ならあたりからよく聞こえなかったんでもう一度お願いできますか?
「白河君なら大丈夫ですよ、自信持ってください!」
細川さん...ありがとう!
「ここじゃ狭いから森の方に行こうか」
森?どうしてですか?
「入部テスト、さ」
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