第45話 静けさ

翌日から、早速出勤する。

少しくらい休暇が欲しいが、「向こうで休んできたろ」と言われ、

反論できなかった。


「お兄ちゃん、お弁当」

かすみに、お弁当を渡される。

「いつも悪いね」

「それは言わない約束でしょ」

和やかな会話をして、笑顔で見送られる。


この笑顔が活力源。


そして、会社に着く。

言い忘れたが、僕の勤めるデザイン会社は、「ドリム・デザインカンパニー」で、ドリムとはドリームの略。


社員はそんなに多くない、家庭的な会社。

そこが良くもあり、悪くもある。


まあ、僕にはぴったりだ。


出社してすぐに社長に呼ばれた。

「どうだった?フランスは?」

「あの事は、最初に言っておいて下さい」

「悪い。先方からの指示もあってな」

社長なんだが、貫禄があまりない。


いい意味でも悪い意味でも・・・


「で、本題なんだが・・・」

「はい」

「君の絵の事は知ってるね」

「はい。伺っています」

「なら、早い」

時々、真面目になる社長。

時々だが・・・


「で、君の画集なんだが、売り上げは全てうちがもらうことになってる」

「それは、構いませんが、それだけではないでしょ、社長」

「ああ」


社長は、しばらく考えていた。


「いや、これは妹さんとふたりがいいだろう」

妹?かすみの事か・・・


「明日、一緒に連れて来てくれ」

「でも、かすみは・・・」

言葉を飲み込んだ。


「頼む」

「わかりました」


社長の真剣な目に僕は、頷いた。


自分の仕事部屋に戻る。

鉛筆を握り、軽く走り書きをする。


だが、腑に落ちない。

「本当に、僕の絵が、未来を変える事が出来るのか?」


ひとりの心をとらえるのはたやすいが、大勢は難しい。


帰って、かすみに相談しよう。


その日は、早々に退社した。



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