第参話

「バイバ~イ!」

「またあしたねー!」

 手を振ってみんなと別れる。

「はぁー……」

 疲労が一気に襲ってきて、ランドセルの重さが背中にずっしりと伝わる。

『……?』

 いつも通る公園の遊歩道。

 お爺さんがベンチを支えにして、しゃがんでうずくまっていた。

 右手をベンチに置いて、体を支えてる。

 左側には……杖。

 あたしは駈け寄った――。

 近くまで来ると、ゆっくり横へ回り込み、顔を近づける。

「お爺さん、大丈夫?」

「ん? おぉ、心配させてしまったようじゃの。すまんすまん」

 お爺さんは、あたしが心配していることに気付いて元気な笑顔をくれた。

「なにしてるの?」

「アリを見ておった」

 そういうお爺さんの足元を見ると、ベンチの脚にはアリの巣が……。

 そこから出たり入ったりしているアリがたくさんいた。

 あたしも一緒になってそれを見る。

「アリさんお仕事中だね」

「そうじゃな」

 しばらくじっと見る。

 すると、お爺さんは態勢に疲れたようで、ベンチに腰かけた。

 あたしもならって、横にちょこんと座る。

 届かない足をブラブラさせながら、「お爺ちゃんは、お友達いる?」と、心配もなくなり聞いてみた。

「そうじゃなぁ……いるような、いないような、じゃな」

『死んじゃったのかな?』

 あたしは、見た目でお友達を想像した。

「お友達といると、疲れない?」

 あたしは、お爺ちゃんに悩みを自然と打ち明けていた。

「どぉかのぉ」

「……そっか」

「疲れるんか?」

 お爺ちゃんは聞く。

「……うん。あたしね、ほんとはお昼休みはお外でドッジボールしたり、鉄棒したりして遊びたいの」

「すればいいじゃろ?」

「でも、お友達みんな、そういうのは男子のすることって言って、教室から出ないの」

「お前さんは、出ればいいじゃろ?」

 お爺ちゃんは簡単に言う。

「一人でいっちゃったら、仲間はずれにされちゃう!」

 あたしは、口を尖らせた。

「それならば、我慢じゃのぉ」

「そしたらお外で遊べない!」

 口調が強くなっていく。

「お前さん、どうしたいんじゃ?」

「お外で遊びたいけど、仲間外れは嫌……」

「じゃが、選ばんとならんようじゃの?」

「選べないっ!」

 ムキになった。

「選べんのは、【今】のお前さんじゃろ?」

「……ん?」

 お爺ちゃんの言ってる意味がわからなかった。

「お前さんが選ばにゃならんもんは、その場面が来た時でも構わんのじゃないかな?」

「どういうこと?」

 あたしは何か、道を感じた。

「結局のところ、選ばにゃならんわけじゃ……じゃが、【今】のお前さんにそれはできん。じゃったら、その場面のお前さんに訊いてみたらいいじゃろ?」

 あたしは、『あ……』っと思った。

「毎回訊いて、毎回答えを貰ったらええ。そうすれば、体が決める」

 お爺ちゃんは微笑んでくれた。

 あたしは何か期待を感じて、明日からが楽しみになった!

 お爺ちゃんに、「バイバイ!」と元気よく手を振る。

 ――翌日から、あたしはあたしに訊いた。

 帰り道、その結果をお爺ちゃんに話す。

 お爺ちゃんは、「そうか」といって毎回微笑んでくれた。

 そんなことを繰り返していた、いつものお昼休み……

『お外で遊びたい?』

 あたしは訊く。

『うん!』

 あたしの中から、はっきりとした答えが返って来た!

「ごめん! お外で遊んでくる!」

 みんながポカンとしながら、嬉しそうに走っていくあたしを目で追いかけてくるのがわかった。

 ――そして、その日の帰り道。

 あたしはお爺ちゃんに会うために、急いでいつもの遊歩道へ向かった。

「……」

 お爺ちゃんは、いなかった。

 そして、あのベンチもなくなっていた。

 ベンチがあった場所へ行く……。

 アリの巣があった。

 あたしはしゃがんで、巣から出たり入ったりするアリさんを眺めることにした―――。

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