第3話 ぼっち童貞に大切なこと

 自分も霊が見える。来美はそう言った。

 

 俺は彼女の言葉の真偽を問いたかった。

 いや、是が非にでも問わねばならなかった。

 

 もしそれが本当なら、俺はようやく理解者を――

 初めての友人を得られるのかも知れないのだから。


 しかしながら、俺と来美は熾烈なベロチュー合戦の真っ最中なのだ!


 これでもか、これでもかと競うように舌を絡ませあっている。

 会話どころか、聞こえるのはお互いの鼻息くらいのものだ。

 

 いやー、この状態で問答とか無理っすよ。

 まじ無理。


 一応、来美が途切れ途切れに語ったところによれば、彼女は俺に霊感があるようだと気づき、興味を持った。

 

 そこでとりあえず『仲良く』なってみることにしたのだと言う。


 それでこの流れになるとか、すごいなー。

 今どきの子はどうなっているんだ。

 やばいな、条例とか大丈夫だろうか。やめる気ないけど。


 ベロチューから何度目かのボディチェックに移行する。

 すでに俺達の衣服は乱れきっていた。

 それも当然だ。

 もう三十分近く、お互いにいやらしいことをやり合っているのだから。


 どーれどれ、ここはどうなっているのかなー?

 あぶないものを隠してませんかな、ぐーふっふっふっふっ、みたいな感じだ。

 いや、本当に。


 ちなみに全部脱がさないのは俺のポリシーによるものである。

 半裸こそ至高。異論は認める。


 しかしこの娘、全身どこをとってもエロい。

 もうまんべんなくエロい。


 おっぱいはもちろんグレートな魔神級。

 すらりとした太ももの吸いつくような触り心地もまた絶品である。

 いくら触っても飽きないぜ。

 桜色に染まり、ほんのり汗がにじむ肌がなまめかしい。

 身体全体から甘いような不思議な香りがしていた。

 

 彼女をずっと傍に置いておきたい。

 いじり続けたい。


「はっ……もしかして、これが愛? 真実の愛って奴なのか?」


 俺のつぶやきを聞きとがめたのか、来美はけらけらと笑った。

 やらしい雰囲気が台無しである。


「違うっしょ。やりたいだけじゃん、うちらは」 

「そ、そうか? 俺、今なら永遠の愛を誓えそうだぞ。三ヶ月くらい有効の」

「期間限定じゃん、通学定期かよ! 正直だねー、たけるんは」

「でも更新とかできるし……」

「へぇ、してくれるの? 更新、ずっとぉ」

「いや、それはちょっとわかりませんね」

「あっはははは! うち、たけるん大好きかも!」


 何故か来美はえらく上機嫌うれしそうである。

 あの返しで好感度が上がるなんて、君フラグ設定おかしくない?


 それはともかく、お互い準備も万端ですし、そろそろいかがでしょうか。


 もうはちきれそうで、痛い位だ。

 霊が見える発言の追求や、愛だの恋だのは後回しですよ、当然。

 

 童貞にとって、脱童貞以上に重要なことなど、どの世界の片隅にも存在しないのだ!


「うふふっ。じゃあ、しよっか?」


 来美はぞくりとするような淫蕩な笑みを浮かべた。

 同じ笑顔でも先ほどとは大違い。まるで別人のようだ。


 学生にはあるまじきデザインのショーツは、とっくに脱ぎ捨てられていた。

 

 来美は俺を押し倒すと、そのまま馬乗りになった。

 あ、そうですね。初心者なんで、おまかせコースでお願いします。


「がっかりさせるとアレだから先に言っておくけど。うち、処女じゃないからね」


 それは予想通りだったし、むしろ俺はほっとした。

 合意の上なんだから別に気にすることはないはずだが、来美の初めてを俺が奪うのはやっぱり気が引けただろう。


「そっか、よかった。面倒なのは嫌だからな」

「もー、本当に正直だね。ま、こなれている分、具合はいいと思うよ」

「ほ、ほほう。そう言うものですかな?」

「あははは! なにそれ。うちのこと、いっぱいかわいがってくれたじゃん。まだ緊張してるの?」


 いや、余裕たっぷりにかわいがられていたのは明らかに俺の方だろう。

 とか思っているうちに、来美はついと腰を下げた。


 ぴと。


 おおおうっ!?

 ぬかるみが先っちょにタッチダウンしてますよ、お客さん!

 来美は接触を保ったまま、いらうように腰を振った。


「どお? こーんな感じで、ほーらほらぁ」

「ふっ、小賢しい真似を。だが、その動き……いつまで続くかな?」


 などと強キャラっぽい台詞をはいても、無駄無駄無駄である。

 そもそも経験値がまるで違う。

 俺はまさに翻弄されるがままだ。だが、それがいい!


「気持ち、いい……でしょ?」来美の息も少しばかり荒い。


「お、おう。まあまあかな」

「へー。じゃあ、やめちゃ――」

「すみません、めっちゃ気持ちいいです! 来美先輩、最高っす!!」


 しかし、女の子の腰ってどうなっているんだろう?

 まるで蝶番でもついているみたいに、ゆ~らゆら揺れるよな。

 男では真似のできないアクションだぜ。

 

 なんだか猫が獲物を狙って、突撃かます瞬間の動きに似てるな。

 猫と言えば、こないだ見た動画がすごく面白くて――


「あれ? たけるん、なに考えているの?」

「い、いや別に……」


 まだ入り口でこすられているだけなのに、もう出そうです!

 なので、気をそらす為に別のことを考えてました! とは言えない。

 こいつは男の意地って奴さ。


「わかったぁ。もう出そうなんでしょ?」


 光速でバレた。


「我慢しなくていいよ。出そうなんだったら、先に出しちゃおっか」

「あっ。すみません、握らないで頂けます? 今、ぎりぎりなんですけどっ!?」

「だから、いいって。こんな感じっしょ? えいえいえい♪」

「ちょ、ちょ、待て待て! ええい、しばし待たれよ!」

「やーだ。あんまりすぐ終わっちゃうと、つまらないじゃん。えいえいえい♪」

「おさ、おさわりは、おさわりは禁止なのにぃーっ!?」

「あははは、きたきた、きた!」来美は素早くキャッチの体勢に入り「ふぁい、いひほぉ(はい、いいよ)」


 なんとかこらえようと試みたのだが、無駄だった。

 まさにプロの手さばき口さばき。

 来美は、あっと言う間に問題をすっきり解決した。されてしまった。


 もちろんキャッチアンドリバースではなく、キャッチアンドドリンク。

 エクストラなおっぱいに恥じぬ、手練の技とおもてなしの心。

 実にブラボーだ。

 見栄を張ろうとした自分がちっぽけに見えるぜ。


 天上から差す神々しい光に包まれ、俺は賢者にジョブチェンジした。(イメージです)


「うむ……天晴れじゃ。見事な手並みであった。下がってよいぞ」

「それ殿様じゃん。っていうか、もういいの?」

「ごめん、嘘。ここでやめたら生殺しだよ! お願いします、来美先輩っ!!」

「はいはい。元気いっぱいみたいだし、休憩はいらないよね」


 来美はしかるべき状態をキープしているしかるべき部分を、軽くしごく。

 しかるべきゴム製品をさっと装備させると、再び俺にまたがってきた。


 うおおお、いよいよだぜ!

 

 今! この!

 世界がここにあるのは、二人でも一つになるためなのだっ!!

 

 古き時代が終わり、新しい時代がはじまろうとしているのだ。

 日本の夜明けなのだ。今日もいくぜよーっ、的な!


 期待は超絶盛り上がった。

 だが来美は動きを止め、眉をひそめる。


 オイオイオイオイ、ここまできてさらにじらしプレイか?

 それはないでしょ。

 泣くよ? 泣いちゃうよ、俺。


 それともあれか?

 対価として、びっくりするほどユートピア的な面白アクションでも求められているのだろうか。

 

 すぐやりますので、続きをお願いします!

 すぐやりますので!


「ね、ねぇ……なんか、寒くない?」


 来美がそう言った時――大気が渦を巻き、唸りを上げた。

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