アクセス戦隊アクセスマン
――平和を愛するアクセスシティ、今日もアクセス戦隊アクセスマンの5人は街の平和を守るためパソコンと向き合っていた。
「いいなあー美味しそう」
イエローこと黄川が嘆息を漏らす。見ているのはフードファイターの大食い動画だ。
「うわっ、きったねー」と覗き込んだグリーン緑山。
「お前ら、またそのサイト見てるのか、仕事中は無しだっていったろ?」
呆れたようにレッド赤羽が嘆息を吐く。
「あーあ、怒られたー」とからかい口調のピンク桃田。
「桃田も主婦の子育てブログ見るのは無しだ!」
「はーい」
その時、電子扉を開けてブルー青野が入ってきた。
「「「「どうだった?」」」」
4人の声が重なる。青野は青ざめた顔で空いていたイスへと腰かける。
「ダメだったー」
「これで21回目だろ? いい加減にしろよー」と緑山。
ますます、青野の顔が落ち込む。
「試験官にも言われたー、好きで落ちてんじゃねえよ」
青野は自動車学校の卒業検定を1年前から落ち続けている(という設定)。免許がないのでヒーローの必須アイテムビッグスクーターを乗り回すわけにもいかずそれがネックで怪人との戦闘も苦戦を強いられている(というやはり設定)。青野以外は免許を所持しており、一度4人がバイクに乗って登場し後からブルーが走って駆けつけるというシュールなシーンを放送したところ「どうしてブルーだけ徒歩なんだ?」との問い合わせが殺到した。以降バイクシーンは無し。ブルーが検定に受かる日までバイクはみんなお預け(というのが原作者の意向だ)。
「あっ」
桃田が声を上げた。
「どうした?」
赤羽が問いかける。
「今度中央公園で子供向けヒーローショーがあるわ。休日戦隊ヤスムンジャー? 聞いたことないわね」
「よし、みんなで見に行こう。もしかしたら何かあるかもしれない」
「まってくれ、オレはいけない」
青野が話に割って入る。
「卒業検定に……行ってくるわ」
「……」
土曜日、卒業検定のブルーを残し4人は人でごった返す中央公園へと出かけた。
「はっはっはっは、働くンジャー、どいつもこいつも働くンジャー」
仕事怪人働くンジャーが大きなメガホンを振り回しヒーローたちに洗脳の言葉を掛ける。
「うわああああ」
ヤスムンジャーの5人は耳を塞ぎ呻いている。
「やっぱり子供向けね」
桃田が呟く。「そうか?」と緑山。その時、全てのセリフを塞ぐかの如き高笑いが聞こえた。4人はパイプ椅子から立ち上がる。
「はーはっはっはっは、ヒーローショーをご覧の皆さんごきげんよう! 私は怪人ギガントラー。貴様たちのギガを貰うぞ!」
聴衆が逃げ惑い会場はパニックになる。演者のヤスムンジャーも働くンジャーも舞台を捨てて逃げ出す。今なら変身しても誰にも気づかれない。皆は右手を胸の前に掲げ4人一斉に「アクセスオン!」と声高らかに叫んだ。
「横暴はそこまでだ! ギガントラー」
「誰だ!」
煙の向こうから現れたのは4人のヒーロー。かっこよくポーズを決めて登場をキメる。
「平和を愛する正義のヒーロー、アクセス戦隊アクセスマン見参!」
「お前らがアクセスマンか。ファッファ、しかし今ごろ出て来ても遅い。ギガは既に俺の物」
聴衆の一人がスマホを見て大げさに声を張り上げる。
「ギガが無くなってる」
「俺のもだ!」
「私のも!」
騒然とする聴衆を見てアクセスマンたちは「おのれ!」と拳を握りしめる。怪人はさらに追い打ちをかけるように超音波を繰り出す。アクセスマンたちは頭を押さえ悶えた。
「ア、アクセスが出来なくなっていく!」
窮地に立たされたその時、ドゴーンという爆音とともにビッグスクーターが現れた。
「遅くなって済まない!」
颯爽と現れたのはブルーだった。ビッグスクーターには初心者マークが貼ってある。
「受かったのね!」
ピンクが声を上げた。
次第に仲間たちに勇気が戻る。レッドは背筋を伸ばして凛とした。いよいよ決め台詞だ。
「ギガはみんなの物。それを独り占めするなど笑止千万!」
言ってレッドはグリーンに合図する。グリーンが取り出したものは……
「Wi-Fiだと!」
怪人が焦りの声を出す。
「テレビの前のみんなアクセスするんだ!」
レッドのセリフとともにテレビの下画面にQRコードとサイト名が表示される。視聴者参加型のヒーロー番組とは乙なことをする。
「まだだ、まだアクセスが足りない!」
アクセスマンたちの体にうっすら青い光が灯り始める。
「みんなアクセスするんだ!」
青は緑になり最後赤になった。
「うおおおおお!」
アクセスレッドの体が金色に光る。
「アクセススティンガーーーーー!!!!!」
必殺技を受けて、ドゴーンという爆音とともに怪人は四方に散った。ギガは再び皆の元へ返り、こうして再び街に平和は訪れた。
――whowho、whowho、アックセス戦ー隊、アクセスマン~、
――whowho、whowho、アックセス戦ー隊、アクセスマン~、
正座して丁寧にエンディングを聞き終えた後、僕はテレビの電源を切った。
「決め台詞がいまいちだが。まあ、最近の物にしては良作だな」
腕を組んでうんうんと頷いた。
※検定に合格してもペーパー試験に通り免許を交付してもらうまでは車両を運転してはいけません。
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