第103話
水中呼吸薬が完成してからはや数日、他の研究に移っていたが今日に限っては海へと繰り出している、軍師殿にお金を預けて購入してもらった帆船、これがかなりの大きさ、今日は良い風が吹いてるのか順調そのもので、今は目的地にて停泊中だが。
「ほんとでかい船だなぁ、おいくら万Gかな、こいつ」
「伏龍のお嬢ちゃんが言うには規模としてはこれで中規模程度らしいぜ、ただ魔動エンジンが積んであって普通の帆船より値は張ったそうだ、魔道エンジンがありゃ緊急時にはMPを使えば動かせるらしい、燃費はすこぶる悪いみたいだが」
「さすが漁師さんですね、探検号のキャプテンはお任せしてよさそうです」
「今じゃ倅に任せてる元漁師だよ、本当ならお前さんが船長をするべきだってのに」
そんな船について説明してくれる隣に立つのは銀老団の一人ゲンさん、今は現役は退いているが、船を操ったことのある漁師さんだとか、帆船なので勝手は違うかもしれないが船での命令などは全てゲンさんに任せてしまっている。
残っていた遺跡のポイントに今回、ようやく到着するそうなので現地で調査報告を聞くべく乗船している。現在船には銀組の半数である、ゲンさん、かおるさん、ディオさんと金組からは芋焼酎さんとケリーちゃんとサリーちゃんが残っている。他のは自作水中呼吸薬を飲んでもらって探索に行ってもらってる。僕も行けばよかったかな
「ケリーちゃん、竿が引いてるよ、リール巻いて巻いて」
「むあー! なんだなんだ! って、まーたアジー」
「またお前かー!」
「子供たちは元気でいいねぇ、御婆の若いころを思い出すわねぇ」
「アジは味がいいから、そう呼ばれてるんだ捌いて美味しい料理にしちゃるけんな」
「「わーい」」
……留守番組の何とほのぼのした空気よ! いやまぁ、平和なのは良い事か。
っと、連絡が来たな、えっと何々、遺跡見つかったようだな、で、かたいっぽに意味深な英文発見、写真もついてるな。ふむふむ、ちょっと長いな、まぁ読めるけど。
「お、探索組からの連絡か? 英語は爺にゃさっぱりだ、なんてあるんだ?」
「『卑しき盗掘者に真珠を盗まれし時、時を経て真珠が失われた時、砂を集めよ、固めよ、清めよ、さすれば、真珠に代わる……』なるほど」
「いや、何がなるほどかさっぱりだぜ、切れ者坊主にゃわかっても」
「えっと返信するか『真珠の方はどうだった?』お、返信早いなもうか、あ、盗まれてるか、っと、どうやらかたいっぽは無事みたいだな、こっちはアイン達の組か」
とりあえず、真珠は回収せず安置、なるべく厳重にカギをかけたのち、帰還するように指示すれば、すぐに魔法によって船に集まりだしてくる。
「うぃー、お疲れさん、もうそろ夕飯の時間なんで、悪い先落ちるわ」
ソーヤーのこの言葉で他の人たちも用事があるや夕飯の仕込みをしないとでどんどんログアウトしていく、残ったのはサクと僕、他の人も残っていたが、アジを捌いて食べるということで、船内の食堂へ移動していった。
「ふぅ……薬の効果はどう? 問題なく使えてるかな?」
「ばっちりだったわ、味以外は皆渋い顔してるわよ」
「それは僕もどうにかしたかった、ただどうしようもなかったね」
「NPCの薬の味は普通なのにどうしてかしらね」
「ちょっと調べてみたけど、旨味草っていう薬草が入ってるっぽい」
NPCの作る薬を最近薬ばっかり触っていたから取得できたのか薬学というスキルで調べてみたところ、そのすべてに旨味草という薬草が入っていた、ちなみに発見は出来ていない、おそらく薬の苦みを抑える力があるのだと思う、手に入ればとは思うが、なくても薬の効果はほぼ変わらないので、まあ後回しにしている。
「イベントが終わったら、旨味草探してみる?」
「それもいいねぇ、しかし、いつになったら復活が解かれるか予測が出来ればな」
「お盆が過ぎて夏休みももうそろそろ終わりだし、何か起きそうな気はするのよね、それか全部の真珠が盗られたらかもしれないわ」
「だとすればすぐにでも封印が解かれそうだね、っと、ありゃ、絢姫の船だな……」
「コージィがそういう悪い事いったら、絶対に起きる気がするのよね、止める?」
「いや、まさか、封印がしばらく解けないってこともあるかもだろ」
僕のこの言葉はあっさりと打ち砕かれた、数分後、急に空が曇る。
船内の窓から見えたのかケリーちゃんとサリーちゃんが僕らに報告をしてくる。
ゲンさんが今すぐ錨を挙げて港まで帰航するとか、嵐が来るとか。
帆は嵐に煽られ転覆の恐れがあるから畳んだまま魔道エンジンで動かす友報告を受けた4人がかりで錨を挙げれば、船は大きく弧を描き港への航路に入る。
急旋回のせいで甲板を転げてしまうが、サクが手を取ってくれたため海に投げ出されずに済んだ、雲はどんどんと広がっていき、雨が降り始め雷の音もしてきた、向こうにいた絢姫の船も戻って来た船員達が慌ただしく船を操作している。海の方にも変化が起きる。方角は西、水中都市の真ん中にあたる部分だろうか、大きな渦が出来始めていた。巻き込まれ渦に飲まれる船も見受けられる、うわぁ、大損害だ。
そしてやがてそれは海から顔を出し始める。人型ではあるが、その頭部は蛸のようでいくつもの触手が蠢いていた、魚のような鱗に覆われた体、手には水かきがついておりそれの他に鋭い爪が不気味に輝いた気がする。背中には細長い翼がついていた。
緑色の体はゆっくりと起き上がり咆哮を挙げるさも平然と欠伸をするように、そう封印から解かれたのだ。恐ろしき魚を統べる王が、こんな遠くでありながらはっきりと見た目が判る大きさ。それはもはや山であった、あれと戦えってのか……
「何よあれ、そりゃ古代の人が封印したくなる代物ね、コージィ呆けてないで、船内に戻るわよ」
「あ、ああ、しかし、やっぱりというべきかクトゥルフを模してきたか」
「くとぅるふ?」
「そっちにはあんまり興味ないのかな、魚人と言えば僕の中じゃ有名なんだが」
クトゥルフ神話は齧りだが多少は読んでいたし、興味本位で調べたことがある。
その中のグレート・オールド・ワンだっただろうか、それにあたるのがクトゥルフ。
太平洋のどっかに沈んだ海底都市ルルイエで眠っており、いつかそのルルイエが復活した日には一緒に起きて世界を荒廃に導くとか言われてる。
クトゥルフは神様なので奉じてるやつもいる、大抵は気の狂ってしまった狂信者
そしてそれ以外は、僕らが戦っていた魚人達ディープワンと呼ばれるような存在に。
「クトゥルフがリアルで復活したら、ゲームオーバーだけど、この世界はファンタジーだ、気が狂うこともないし、戦う方法もある、封印する方法もあるしね」
「封印するにしたって、真珠はどうするの、絢姫から譲ってもらうの?」
「その必要はないかな、まあ、苦しいかもしれないけど、なんとかするっきゃない」
こうして夏のイベントがクライマックスを迎える。今持っているあれらで出来るかは怪しいが、まぁ、なんとかする他ないだろう。
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