第102話
「……もう無理 死ぬ 舌が 味覚が死ぬ」
お盆明け、本格的に攻略を始めようとする攻略組の為に僕は一人研究室で悶絶していた、水中呼吸薬開発の為に試薬を作ってはそれを飲み効果を探しているのだ、結果は見ての通り悶絶するレベルの激マズ謎液が出来る日々であった。
ちなみに研究室というのは先日永花に頼んでおき購入してきてくれたクランハウスの一画、すっかり僕専用となりクランリーダーの私室ともなってしまった一室だ薬棚籠や箱に入った薬草や鉱石の類、机には今までの薬草の配合を記したノートが置いてある。
「コージィ、探索会議の時間だけど、っちょ!? 大丈夫、青い顔してるけど」
「毒は飲んでない、ただ不味い今すぐリバースするレベルで不味いんだ」
「大丈夫、少し休んでから来たほうがいいんじゃないの」
「いや大丈夫だ今日の会議の出席者は?」
「金組からアイン、銀組はソーヤーが来てる」
基本的に金組は度々報告のメンバーが変わるが、銀組はソーヤーか軍師殿が来る。
二人の方が話しやすく発言も多いので僕としてはとても助かる報告役だ。
金組は今回は期待できそうもないな、これが芋焼酎さんやピコさんだったらなぁ。
アイン君は勢いはいいので牽引役や先頭を任せるには遺憾なくその力を発揮する。
のだが、事こう言った考える会議などは苦手な様子だ。
とにかく青い顔をそうそうになおさねばと口直しにインベントリからジュースを取り出し飲み干してから会議室代わりにしているリビングへ行く。
クランハウスはそこまで広くなく10数名が入れる程度のリビング、メンバーの部屋への転移ゲート(なんでも、見た目以上に部屋自体は別空間で管理されており、かなりの部屋数だそうだ、まぁ、僕の部屋など例外はあるが)後はそこそこ広めのキッチンや適当なガラクタなどをぶちこめる倉庫が外にあったり、外といえば庭には小さな花壇があったりする。これでもかなりのお値段がするクランハウスだそうだ。額にして1000万。
「っよ、今日も報告に来たぜ」
「同じく邪魔してるっすよ」
「よく来てくれたね、何か大きな発見は? それとも定例報告?」
「こっちは定例報告っすね、地図はまた書いてきましたんで、どぞっす」
アイン君がノートを広げて地図を見せてくる。リビングの壁には現在水中都市の全体図が描かれた地図を紙に書き貼り付けている。いつでも書き直したり訂正が出来るようにだ。広げてくれたノートを筆者スキルで一枚の紙に映してつながる場所に張る
「大分、探索した感じだけど、全然埋まる気がしねーな、先長すぎるわ」
「そっすねー、でもまぁ、今は続けるほかないっすよ、ソーヤーさんからは何か?」
「おう、こっちからは定例報告の地図と、地図だと……この地点だな、ここに魚人共が群れてる、今のところ被害は無いが何かありそうだと思ったから報告に来た」
「位置的に中央っぽいかしら?」
「そんな感じはする、地図が虫食い状態なのがなぁ、西側は埋まってきてるけど」
現在の地図は東西南北様々なところの地図が埋まっているがところどころ虫が食ったように空白が残ってしまっている。各々のチームが探索した場所の地図などを思い出して書いてもらったりしたためこうなったのだ、更に言えばうろ覚えの為、修正点だらけでかなり歪な地図になってしまっている。しかし、中央か……
「真珠の遺跡も3つ以降、見つからないんだよな、なんか法則とか無いもんか」
「真北に一つあと二つは西側に密集してるってところかしらね? 他の真珠の遺跡も西側とか、もしくは北の方かしらね?」
「だとしたら、もう見つかってもおかしくないっすよ、西側はほぼ埋まってるじゃないすか。イベントの終了が31日だとしてもう残り2週間くらいすよ」
西側に密集してるから他のも西側? それ以外の法則……これって封印的な意味で作られた物だったよな、だとしたらえっと……うん、多分これが正解かな?
「ソーヤー、アイン君、金組と銀組はこの地点とこの地点からまっすぐ行くように」
「うん? それがどうしたってんだ…………ああ! そういう事ね、おっけい」
「どういう事っすか? 説明よろっす」
「ペンタグラムさ」
ペンタグラムまたの名を五芒星、分かりやすく言うと漫画のお星さまの表現で使われるあの形だ。魔術の世界じゃ有名な封印や魔よけの印とされてきたものだ。この遺跡もそういった感じに配置されている……のだと思う。魚を統べる王とはそれほどの存在だったという事だろう、ようやく希望が見えてきたな。
「そんじゃ探索組はそっちから報告が無い限り、探索に戻るぜ」
「こちらからは呼吸薬の作成は芳しくない、有用な薬草も海産物も見つからなくてね試してないのは後は貝だけなんだけど、これが厄介でねぇ」
ここらの海域でとれる海藻や魚、果ては海老や蟹なんてものまで既に試しており、残すところは貝くらいと試そうとしたのだが、思わぬ障壁として、なんと観察をしてみたところ毒があると出たのだ。
とりあえず、熱処理すれば行けるはずだと思い火を通しても毒は消えることが無かった。実際に調べたところ毒性のプランクトンを摂取してその毒がたまった貝毒という奴らしい、加熱処理でも失われない毒成分を持つ。仮にこれらの中に呼吸薬の材料があっても飲むたびに下痢や嘔吐することになったらたまったもんじゃない。
ちなみに二枚貝だけだったので、巻貝については現在調査中だ今のところ失敗続き。
その事を説明すれば、全員で深いため息をつくことになった。
「という訳だ、もう少し兵士から呼吸薬を買うしかないね、それじゃ研究に戻る」
矢継ぎ早にそれだけ言い終えると、僕は研究室へと戻る、昼休憩まではまだ少しあるな。もう一つくらい作るとするか……えっと試してない巻貝はこれだっけかな?
「あだだだだだ、なんだなんだ!」
年甲斐もなく痛みで大声で叫んでしまう、まだクランハウス内にいたのか三人が一斉に扉を開き僕の方を見る、僕といえば、謎の痛みが走る巻貝をつかんだであろう手を見る。しかしそこには巻貝はおらず、代わりに巻貝の貝を宿にするある生物が入っていた。そうヤドカリである。そいつのハサミが指先を思い切り挟んでいたのだ。
これにはソーヤー達もあきれ顔をする、その程度に驚くなと言われてしまった。
しかしヤドカリかこいつは意外と盲点かもしれないぞ、こいつの観察をしてみるか。
…………!?!? 水中適応能力付与成分だって。はは、まさかこんな偶然に貝と間違って拾ってきたヤドカリが僕が追い求めていたものだなんて。
多くの発明や発見は偶然や予想外の出来事、セレンディピティが常だとこの時の僕は思った。ペニシリン、ダイナマイト、X線、偉大な化学もそうだった。
今回のこいつも僕が指を挟まれて気づかなければきっと発見はイベント期間の後まで遅れていた、もしかしたらいらない貝だと捨てて発見すら出来なかったかもしれない
セレンディピティの神様がいるかは知らんが、ありがとうと心の中で感謝を述べる。
まあ、ゲームの薬とノーベル賞ものの発明を天秤にかけるのはどうかと思うが。
僕にとっては、ゲロマズ試薬をこれ以上飲まなくてすむかもしれないという意味で、それと同等の感動が体を走っているのだ。さっそく、こいつと薬効成分が高い薬草を合わせてみよう、後はこのヤドカリがその成分を持つかヤドカリ全体がこの成分を持つか、調べなきゃ、クランメンバーに報告を飛ばして探して貰って、うおー! テンション上がって来たぁ! そして昼休憩が終わる前、水中呼吸薬の自作がとうとう成功したのであった、これで水中探索がうんとリーズナブルになるはずだ
ちなみに出来た水中呼吸薬だが、薬草の苦みとヤドカリの磯っぽさが混じった味であり結局のところゲロマズなのは変わらないのであった。
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