夏休みを楽しもう
第86話
皆大好き夏休みがとうとう始まった。例に漏れず僕もその夏季休暇の恩恵を大いに受ける事となる。おおよそ一月はあのクーラーの効きが悪い母校に通う必要がない。万歳三唱でもしたい気分だ、さてそんな夏休みに入ってすでに数日が経った。
そんな僕達がここ数日間で何をしていたかと言えば。
「……内山、夏っていったら、何があると思うよ?」
今日僕と供にいる一人田中君が藪から棒に尋ねてくる。
「そうだなぁ、夏祭り、花火、海水浴、あ、TFOの夏イベは8月からだね」
「ああそうだ、イベント盛りだくさん、青春の一ページを楽しい思い出で埋め尽くさなきゃ損だ、何せ高校一年生の夏は一度きりだからな、それなのによ……」
田中君は目の前のプリントにペンをはしらせるのをやめてそれを置く。
「なーにが悲しゅうて! 夏休みの宿題を真っ先に片付けようとしてるんだよ!」
そう、僕らは夏休み初日から集まって宿題をしていたのであった。
「うるさい、ただでさえ暑いのによけい暑苦しくなる、それに近所迷惑よ」
「だな、雪ここどうやるのか教えてくれるか?」
「あ、そこはね……」
大声に反論したのは小泉さん、それに同調したのは原山君、その原山君に勉強を教えているのは立華さん、僕がここ数日共にしている田中君以外の面子である。
「もうちょいで粗方片付くんだ、そしたら目一杯遊べばいいだろ、最初に終わらせた方が、学校始まる直前に慌てずに済むだろう」
「ま、そりゃそうだけどよ、もうちょい、こう、休憩にゲームとかなんかをさ」
「僕の部屋にはリアルギアしかないよ、ほら田中君手が止まってるよ」
「せやかて内山俺にゃここわかんねーのよ、どうするのよここ」
田中君が宿題のプリントをこちらへ見せる、数学の問題か、ここは確かこの公式だったかな、教科書の公式が載っているページを教えて後は自力で解かせる。
「内山君、理科のここなんだけど教科書のどこだっけ?」
小泉さんまで聞いてくる、ああこれかこのページだったけかな。大分小さいコラムだから見つからなかったんだろうな、小泉さんにそのページを教えればすぐに
わかってくれたようでプリントへと戻った。
「内山ー、ここさっきの公式ででけねーんだけど」
またしても田中君が躓いたのか、僕に聞いてくる。問題を見てそれは別の公式を使う事を説明、それと同時に自分で調べてはどうかと言えば。解る奴に聞いた方が早いし正確だと言った。このものぐさめ。
「内山、本棚の本借りていいか、読書感想文の本持ってなくてさ」
原山君は僕の部屋の本棚から有名な作家の本を一つ取っていた。
夏休み中に必ず返すと約束するので貸してあげることに。
「そんなもん、適当に通販のレビューとかブログの感想でええんでね」
「田中君うちの国語の先生はそう言うのはすぐにバレるわよ、あの先生、そういったレビューとかブログとか確認したり、自分で書くの大好きだから」
「めんどうだな、こんちくしょう! 内山俺も一冊借りて言っていいか」
嘆きながらも一番薄そうなそれでいて読みやすそうな本を借りていった。
真面目なのか真面目じゃないのか。まあ貸すのはやぶさかでないので許諾
「お腹すいた、もうお昼だよ」
立華さんがそう呟く、時計を確かめれば、既に12時は回っていた。田中君は外に食べに行こうと言ったが、すぐに思い出したのか金欠である事を宣言。一度、皆家に帰ってからまた集まり直すとするかと原山君が言った時。
僕の部屋へと闖入者が入ってくる。
「こーちゃん、お昼だけどお素麺茹でたよ、お友達もよかったら一緒にどう?」
「ああ、今日は素麺か、母さんもこう言ってるし、どう?」
「喜んでご相伴させていただきます! いやぁ、こんな若くて綺麗なお母さんがいるとか羨ましいわ、マジ何なの、姉ちゃんと言いお前と言い美形揃いか!」
「あらあら、こんなおばさん褒めてもお素麺しか出ないわよ」
お素麺が出るだけで十分褒める理由になりますと言いながら我先にと田中君は下へと降りる階段を踏みしめていく。原山君と立華さんもお言葉に甘えてと降りていく。
「さてと、あの勢いだと、田中君が全部食べ尽くしてしまう、僕もいくとするか、小泉さんも食べていくかい?」
「ええ、ご相伴に預かるわ、それにしても……ふふっ、可愛らしい呼ばれ方されてるのね……こーちゃんだって、ふふふッ」
「友達の前ではやめてくれと散々言って来たけど一向に直らないのでね、もう諦めてるのさ、じゃじゃ馬お転婆姫」
「その呼び方やめなさい」
「痴話喧嘩なら後で誰もいない所でやってくれ、内山が下りてこないと飯にありつけねーから、はよ下りてこい」
田中君が下から呼ぶ声がするので少々駆け足で降りていく。
田中君の文句へ小泉さんも痴話喧嘩なんかじゃないと言いながら降りてくる。
四角いテーブルには深皿に盛りつけられた素麺が人数分置かれていた。
田中君は家主を差し置いてなぜか誕生日席に陣取っている。まぁ、そういうのを気にする方では母さんも僕もないので放置、左側には立華さんと原山君が席についている、原山君は体格がいいので、あっちに座ると狭そうだし、母さんの隣に座るとする。小泉さんも同じように考えたのか僕の隣に座る。
「んじゃま、いただきまーす、うーん冷たくて最高、いくらでもいけそうだぜ」
田中君は手を合わせ終えればすぐに素麺を取れば絶賛しながらすする。
僕も幾ばくか箸でつかみつゆにくぐらせすする、うん美味い。
「すみません、わさびお借りします」
原山君がテーブルに置かれた山葵を取りつゆの入った皿に少しだけ入れる。
うちでは基本的に薬味は使っていない、母が薬味を嫌うのである。
しかし今日に限り、葱や七味、山葵や生姜と薬味が勢ぞろいしていた。
態々人がいるからと用意したのだろう、おもてなし精神の強い母である。
田中君も生姜をたっぷりと入れて素麺とすする、これがまた美味いとかなんとか。
立華さんと小泉さんは葱を入れて食べていた、僕と言えば、いつも通りの食べ方
詰まるところ特に何もいれずにすすっていた。
「いやぁ、こーちゃんが女の子のお友達連れてくるの珍しいなぁ」
母さんは食事もそこそこに話し始めてしまう、食べ終わったらすぐに勉強に戻ろうと思ったのに。話題に出したのは女性の友人を家に招くのは珍しいと言う話。
といっても7月の間に宿題を片付けようという事で数名に連絡してその一人でOKが出た原山君が立華さんも一緒にいいかと言われたのでOKを出しただけだし。
田中君ともTFOで連絡していたら、小泉さんも一緒させて欲しいというので、OKしたという女性陣が来た理由は割と成り行きとか偶然と言ってもいい感じだろう。
ちなみに他数名にも連絡・提案したがその気にならずや予定を組んでる等で都合がつかず僕合わせてこの5名と相成った
「へぇ、こいつ顔がいいのに中学の頃はそういうのなかったんすか?」
案の定田中君が食いつく、まあ休憩だと思ってしばらく話をすることにしよう。
「なかったわねぇ、彼女の一人や二人作って呼んでもいいのよーとは言ってきたんだけどねぇ」
「母よ、彼女を一人二人と作るのは浮気となってしまう、よろしくないのでは」
「いや論点そこじゃないだろ内山、まぁお前が彼女作らないのはあれだろ、必要性だったりを今感じてないからだろ、だがよ、いつまでもそんなこと言ってたら、欲しいと思ったころには周りのカワイ子ちゃんは取られた後でしたなんてあるぜ」
「そうだよー、若いんだから、もっと恋して愛してしなきゃだよ、こーちゃん」
僕が彼女作る作らないなんて僕の勝手じゃないか、まったく口うるさいというか
しつこいというか、ほっといてもらえはしないだろうか。
「僕には僕のペースがあるんだ、田中君だってそうだろ」
「俺はいつだって彼女募集中だよ、ちくしょう奥さんが結婚してなかったらなぁ」
「あらやだ、もう40近いおばさんを口説くつもり?」
「そこに美人がいたら口説き落とすのが男の性ってなもんですよ」
目の前で実の母を口説こうとする友人とか見たくないのでやめてほしい。
「田中君バカいってる暇があるのかしら。夏休みの宿題済ませましょ、高1の夏休みを一度きりにしたいならね、内山君のお母さん、お皿はこちらでいいですか?」
母と田中君が話している間に小泉さんは既に食事を終えたのかいつのまにか流しの方へと歩いていき皿はここに置けばいいのかを母に尋ねながら食器を片付けて宿題をしている部屋、まあ僕の部屋へと戻ろうとしていた。
ああそうか高1の夏休みは別段一度きりとは言い難い、勉強をおろそかにして留年すれば二度目もあるだろうそんな脅し文句に怯えた田中君もすぐに部屋へ戻ろうとする食器はそのまま放置であるせめて流しに持っていくくらいしても罰は当たらないだろうに、立華さんと原山君は食器を小泉さんに倣って流しへと持っていく。
さてと僕も部屋に戻る、田中君と僕の分の食器を片付けた後に。
この後5人がかりで夏休みの宿題を進めていき夕方ごろには感想文などを残して。ここ数日の間注力した結果夏休みの宿題はほぼすべてが終わったのでしたとさ。
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