第84話

 お昼休みも終わり、再びのウォレスである。

防具はどうしたもんか、また杏さんの所に行って考えよ。


「僕は杏さんの所に行くけれど、三人は?」

「俺は武器だね、初期武器とはおさらばしたいしな」

「同じく、ナガソネさんに会いに行ってみるわ」

「うーん、コージィ君についてく、盗み防止の為にもね」

「ありがとうございます、それじゃ、一時解散、集合は僕らがナガソネさんの店にお邪魔させてもらうよ、それじゃ」

 

 行動方針をざっくばらんに話し合ったら、それぞれの目的の為に出発。

防具どうしたものか、これと同じ感じのが置いてあったし、それでいいかな。

繕ってもらうのもいいかもしれないけど。


「コージィ君、ちょっといいかな」


 唐突にビアンカさんに声をかけられる、杏さんの店までは結構あるので、話を聞けば、ソーヤーについてであった、僕としては陽気で明るく友達として飽きない奴といった感じ、彼女の有無も尋ねられたので、募集中という事を言う。


「まぁ、アイツの事です、気に入った奴には積極的にアプローチしますし、今年の夏にでもいい人ができるんじゃないですかね、さーて、つきましたよっと」


 その言葉でとりあえずの締めとして、杏さんの店についたので入る。

しかし、そこに杏さんはおらず、代わりに昼前にいた筋骨隆々とした男の人が店先には立っていた、確か名前はガストンさん。軽く会釈をして店内を物色させていただくことに、ガストンさんは椅子に座って、こちらをたまに見るだけでステータス画面を開き、何やら作業をしている。


「なんだか、感じの悪い店員さんですね、愛想が無いというか」


 ビアンカさんは愛想のなさが気に入らないのか、少々不満げ、あまり長居せずにさっさと防具を選んで出るとしますかね、結局決まってないんだけど。

そんなふうに考えながら物色していると、店の奥から叫び声が聞こえた。


「出来たー!! 頑張った、がっちゃん、あたし頑張ったよ!」


 後ろから出て来たのは布らしきものを抱えた杏さんであった、何を頑張ったのだろうというかがっちゃんって、ガストンだからか、見た目とは不相応な随分と可愛らしい略称だ。


「そうか、お客が来てるぞ俺は作業に戻る、相手は任せた」


 がっちゃんことガストンさんは杏さんを一瞥してそう言うとさっさと店の奥へと戻ってしまう、仮の店番だったんだろう、あの愛想の無さじゃね。


「杏さん、何が出来たんですか、とっても笑顔ですけど、叫び声まで上げるんですからよっぽど素晴らしい物です」


 ビアンカさんが尋ねれば、杏さんは布らしきものを広げる、それは外套であった。

表は濃紺色をしており裏は深緑色、ほつれもなく表は少し光沢を持ってる感じ、観察スキルで観察したところ。魔物の糸を粘液などで固めた繊維などで破けた個所、破けそうな個所を補修。魔物の血や体液を合成して作った薬品を全体に塗り更に補強。

 杏さん曰く、自分が持つ一番高い高級素材をつぎ込んで作った逸品。

というか手直しされた作品、そう僕のかつてのあのボロボロの外套であった。


「…………原型が無いじゃないか!?」

「いやぁ、張り切って作ってたらこうなっていました、反省も後悔もしていませんちなみにお値段は70万、あ、ベンガルトラの皮で別の物も作ったよタイガーベルトつまりベルトだね、こっちはお代は要りませんよ、セットで売りませう」


 一応、買える値段だ、更に言えば高性能なこのマントを買わないという手はないだろう、だがここで買うと残る防具を買うお金が無くなる、性能は落ちる、さてどうするか。


 とりあえず、買うかは保留で他の装備を見て回る……見て回るが観察スキルも使って調べた結果、適当なシャツとズボンでいいんじゃないかとなった、他の防具の能力に照らし合わせ平均的に見てもあのマントだけでしばらくやっていけそうな性能だ、そうしよう。


「適当に手ごろで丈夫なシャツとズボン、それとブーツをいただきますね」


 そういって、それらがある場所で適当に選ばせていただく。

結果的に前の服装となんら変わらないが多少は丈夫なシャツとブーツにそして

メインとなるマントを頂く。マントの方は名前は決まっていないようで、名付けるといいとの事、ふむ……マジシャンマントと呼ぶかな、僕は魔法使いなわけだし。


 安直な名づけだと二人から笑われるが、気取った名前はどうも恥ずかしい。

そしてかつての強敵ベンガルトラの革から出来たベルトも締めれば完璧だ


「これ一枚で、ほぼほぼ散財か、だが、新しい相棒としては申し分ないな、ありがとうございました、また防具が入用になったら、こちらにお伺いします」

「はーい、いつでもいらっしゃってくださいねー」

そんな言葉を受け取り、この場を後にする。

「あいや待たれよ、そこの魔術師殿」


 さぁ合流だと歩こうとしたところをその一言で立ち止まることに。

声をかけた人物は坊主頭に胴着と袴つい先ほど、ソーヤーと決闘をしていた男だ。

戦うつもりはないらしくソーヤーに会いたいとの事、しかし付きまとわないという約束をした手前、どうしたものかと悩んでいたところにソーヤーのお仲間であろう僕を見つけて、もう一度会う橋渡しをしてもらいたいと。


「事情は分かりました、ですけど会って何を御話しなさるので? 再戦を申し込むなどでしたら、お断りさせていただきますよ、ソーヤーは望まないでしょうし」

「うむ、まずは話を聞いていただき感謝いたす、して目的であるが拙者ソーヤー殿の戦いへの姿勢やその在り方に感銘を受けた次第、ソーヤー殿と今しばらく行動を共にしたいと思い立ち、こうして魔術師殿に頭を下げているでござる」

「若干時代がかったお人ですね、RPと言う奴でしょうか、大丈夫そうですけど」

「まぁ、いいんじゃないか? 今から合流なのでついてきていただければ、ソーヤーと会えますが、お時間はよろしいでしょうか?」

「拙者、今日は非番ゆえ時間は平気でござる、魔術師殿、此度は誠に感謝いたす」


 そういうわけで、男改め斬鉄さんを伴って、ナガソネさんの所へと足を運ぶことに

その際、魔術師殿では収まりが悪いのでお互いに自己紹介も済ましておく。

さて、ナガソネさんの店の前に来れば店は閉まっていたのであった。

しかし斬鉄さんが言うには勝手に入ってもいいとの事。

なんでもこの店とは懇意にしているそうで勝手に入ってもいいと言われている。

そういう事なので早速入ってみれば、店の奥から声がする


「いやー、ナガソネさん、美人なうえに鍛冶姿も素敵っすね! 何かそういう仕事とかしてるんすか?」

「いや、見様見真似だよ、一応調べたりはしてるけどね」

「それでここまで出来るってのはいわゆる天才って奴っすね! 俺ますます惚れちゃいそっすよ」

「あたしに惚れたら火傷するよ、もっといい娘を探すんだね」

「美女と付き合えるなら、火傷だろうと何だろうと、もうなんのそのですよ」


 何やら魔物の素材を叩くナガソネさんとそれを見て質問したり褒めたりと忙しそうなソーヤーがいた、サクはそれを気にせず、新しい剣を貰いご満悦といった感じ。


「やぁ、じゃじゃ馬おてんば姫、新しい剣はよっぽど気に入ったご様子で」

「ひゃっ!? コージィねその呼び方はやめなさいって言ってるでしょう」

「はいはい、で、アレは何かな」

「見てのとおりよ、この店に来てからあんな感じ、気を引くのに夢中って感じ

それよりも、どうよこのブロードソード、前の剣とは段違いの威力よ」


 剣を振り回し自慢をするサク、うん、年頃の乙女が武器で喜ぶのはどうかと思う。

まぁ、本人がそれでいいならそれでいいか。


「ソーヤー殿もよもやナガソネ殿にお世話になっていたとは」

「げぇっ!? なんでこの坊主頭がここにいるんだ!」

「コージィ殿に頼みここに参った次第、拙者も盗賊を名乗る身、盗賊としての在り方を学ばせていただけぬだろうか、この通り!」


 斬鉄さんは見事な最敬礼でソーヤーと行動を共にしたいと願う。

野郎の仲間かと一瞬ソーヤーは渋ったが、斬鉄さんは膝をついて土下座を始めようとした。さすがにそこまでされたら仲間にしないとか言えない、すぐに辞めさせると結局仲間にすることを承諾するのだった、しかし本当に時代錯誤な人である。

どうしてなのか聞いてみた所、時代劇が好きだそうで、こうした言葉遣いを意図的にしてるという落ちであった。


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