第72話

 飯盒炊爨の説明生のだが、分からない事は聞きに来ること。

ケガをしないよう気を付けて調理する事、ケガをしたらすぐに報告。

そして出来た班から食べてよしといった感じ。


「というわけで任せた! 俺は食べる役だ」

「……僕も、食べる役でいいかなー、なんて」

「馬鹿言うなよ田中君も細川君も手伝ってくれ、じゃないと夕飯抜きだ」

「そうだよー、ただでさえ、桜ちゃん怪我してるんだから、働きなさーい」


田中君は予想してたが、細川君までごね始めた僕らの班。


「別に料理くらいなら平気よ、山登りじゃ迷惑かけたし、その分頑張るわよ」

「ほら、小泉さん、張り切ってるじゃん、俺達は邪魔になっちゃいけないのさ!」

「そうだねー、というか、僕、山登りで足がガクガクなんだよ、無理、休ませて」

「歩君、もう少しお外で遊ぶことを覚えようよ運動不足は健康の敵だよ」


なおも文句を口にして椅子に座ったままの二人を説得しようとする園田さん。


「…………お前らに分けるカレーはない、生野菜でも齧ってろ」


 そこについ刺々しく言い放ってしまった、さっきの事から大分気が立ってしまっているな、落ち着けよ、僕、こんな事言うのは僕のキャラじゃない。


「いつも優しい内山君が今日は不機嫌だね、うん働こう、今の内山君なら僕らの夕飯を作らないのも辞さないかもしれない。」

「ああ、俺も生野菜を齧る夕食は御免被りたい、すまんな内山、真面目に働くわ園田さんなんかやる事ある?」

「別に分かればいいさ、こちらこそ悪かったね少々気が立ってるみたいだ」

「謝り合戦はそれくらいにしよー、私と桜ちゃんはカレー作るから内山君は先に飯盒の火の準備してて、二人は野菜洗うのとお米研いでおいて、それが終わったら、お米は内山君に野菜は二人で切ってください」

「「ラジャー!」」


 二人は椅子から勢いよく立ち上がれば、野菜と米をを手に取りじゃぶじゃぶと洗い始めたり、研ぎ始めたりし始めた、幸い洗剤を使い始める事はなかった。

さて、僕は僕で園田さんが言った通り米を炊く準備なわけだが。


「焚火で飯を炊くのか……せめてアウトドア用ガスバーナーくらいプリーズ」


 目の前には、焚火用の薪と火付け用の古新聞紙とマッチ。

そして、よく使い古された飯盒があった。

まあ、学校行事の飯盒炊爨だしね。あるものでやるっきゃないか。

とりあえず着火、マッチを使い古新聞に火をつけ。一本の薪に火を移す。

最初は弱火でいいので数本だけ燃やす程度に納めておく


「おーい、内山、米研ぎ終わったぜー、飯盒に移せばいいのか?」


 田中君が研ぎ終わった米と共にこちらい合流、細川君はそのままサラダ作り。

田中君はこっちで面倒見てくれとの事、押し付けたな園田さん。


「それ、ちゃんと吸水させた?」

「すまん吸水ってなんだ?」

「という事はさせてないのね、水いれて30分程度放置させておくだけさ」

「へー、それやると、どうなるの?」

「美味しく炊きあがる」

「光の速さで水いれてくるわ」


 吸水について雑に説明を行う、やるとやらないで大違いらしいからね。

把握した田中君は米の入ったボウルを持って水道場に戻っていってしまう。

光の速さで行ったところで、30分は待たなきゃなんだけどね。


「いれてきたぜー、じゃ、後は待つだけか」

「そういう事だね。細川君は?」

「野菜にビビりながら、包丁いれてるべ、ほれ、俺はこっち手伝えってよ」


 田中君がテーブルの方を指さすと、細川君が包丁を手にもって、今、トマトにその刃をいれようとする直前で園田さんに止められていた。

多分、指がどうのこうのの話だろうかね。


「つか園田さんはなんで猫の真似をしてるんだ?」

「田中君、家庭科とかで包丁は使わなかったの?」

「あー、使ったかもしれないし、そうじゃないかもしれない」


これは使ってないな、そうじゃなくても覚えてないか。


「まぁいいや、包丁を持たない方の手はこう、指を曲げながら食材を抑えるようにするんだ、そうすることである程度の怪我の予防になるんだよ」

「猫の手っぽいな、そうか、それを教えるために、園田さんは猫の真似したんか」

「だろうね、基本的に誰かに教える時も、猫の手のようにするんだで通すしね」

「ふむふむ、まあどうせ忘れるんだろうけどな」

「おい」


僕の説明がまったくの無駄に終わる宣言がされてしまった。

そんな話をしながら30分程度が過ぎる。


「そろそろ時間じゃね? もういいだろ。早く炊こうぜ」

「はいはい、こいつは4号の飯盒だけど、米の量は……うん、大丈夫そう」


飯盒とボウルに入った米の量を確認しながら入れてけば、ぴったり4号だった。


「なんでいきなりブルムベア?」

「いや、そっちこそなんだよそれ、お米の数え方だよ、1号で350グラム」

「最初からそう言えばいいじゃん、ちなブルムベアはⅣ号突撃戦車の愛称な」

「いや、ご飯を作ってる最中なのに、いきなり戦車の話をするのはおかしい」

「まあ確かに、でも戦車は男の浪漫だぜ」


僕の可笑しい発言をよそに田中君が目を輝かせながら戦車について語るが

それで手を止めたりはせず、湯気が立つまで弱火で飯盒を温めていく。


「さいですか、まぁ格好よくはあるね、自衛隊に入れば乗れるかもよ」

「最近はVRで戦車に乗って戦うゲームもあるから結構手軽に追体験は出来るんだぜまあ、いかんせん同志が中々なー、それにVR買うにはバイト必須だわ」

「僕は今TFOに夢中だから当分付き合えないとだけ、あ、適当な石を重しにしたいから拾ってきておいて、蓋が浮いて開いちゃうといけないから」

「あ、そうなの。了解、石、石、水筒じゃダメ?」

「それでも構わないよ、っと湯気が出始めたか」


 田中君が水筒を投げ渡してくるので、それを受け取りつつ、横に置いておいた、薪を追加で投入、強火にするためだ、投入が終わったら、すぐに重し代わりの水筒をセット、水筒を用意してくれた田中君に感謝しながら炊いてやる。しばらくすれば


「お。おい、なんか吹き出してるぞ! これやべぇんじゃねぇの!? 御飯がダメになったりするんじゃねぇの? 火からおろした方がいいべ」

「いや、これで合ってるはずだよ、火からは下ろさくていい、まあ火の勢いは弱めるけどね。数本薪を出すから、消火してくれ」


 外に数本の薪を取り出せば、すぐに田中君がバケツで水をかける、火事は怖いからね、消火は大事だ。さて吹きだしたら中火で10~15分だったかな、あと少しだ。

テーブルの方からもいい匂いが漂い始めている。カレーの匂いはお腹が空くね。


「あー、腹減ってきた、なぁ、あとどんくらいよ?」

「こっから10分くらいかな、その後は5分蒸らせば完成だ」

「結構、時間食うのなー、炊飯器なら、パパーっと出来ちまうのにさ」

「まぁ、そういう趣旨の行事だしね」

「しっかしお前、飯盒での飯の炊き方なんてよく知ってたな、他の班の奴らは先生とかに聞きに行ったり、先生に見て貰ってたりしてるぜ」

「まぁ姉がキャンプに行きたい、飯盒炊爨したいとか言い出して父さんがよくやってたんだ、それで飯盒での御飯の炊き方くらいなら大体覚えてる、まぁうろ覚えが一番怖いから、林間学校前に一予習して来たんだけどね」

「うっわ真面目かよ、っと、なんか音してるけど。これも大丈夫な感じ?」

「うん、これはおこげができてるって音だね、ここで火からおろして、ひっくり返して5分蒸らす、これで完成だね」


地面に直に置かないよう残った新聞紙をしく、そうしないと熱が逃げるそうだ。


「おー、やっと出来たの内山君の御飯! こっちも煮込み終わってるよ、小泉君と細川君が待ってるよ、もー、お腹が空いて仕方ないよ」

「よっしゃ、ようやく夕飯だぜ! 内山はそうじゃないかもだが、山登りで

俺達はお腹ペコちゃんなんだぜ、いやー、ここまで長かった!」


ここまでくれば5分なんていう時間はすぐに過ぎるもので。

炊いた米の入った飯盒をテーブルに置けば、我先にとしゃもじを田中君がとり、ごっそりと盛り付けたっぷりとカレーをかけていく。後の人の事をと思ったがまあ大丈夫だろう。4号も炊いてるし。次に園田さん細川さんと普通に盛っていく。


「先いいわよ、内山君」

「ではお言葉に甘えて、ついでだし、小泉さんの分もご飯よそるよ」


 テーブルの真ん中にカレーと飯盒も置いてあり、少し中腰にならないとよそる事の出来ない微妙な位置にあるので、足を怪我してる小泉さんにはちょっときつかろう、まあ、飯盒もカレーも動かせばいいだけの話なのだが。


「あら、じゃあお願いするわ、ありがとう」


というわけで、小泉さんの分もよそってあげて。全員に行き届く。

そして、お決まりの言葉と共に食事を始める。


「「「「「いただきます!」」」」」


自分で苦労して作ったカレーはとっても美味しかった。












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