第56話

「失礼しまーすっと」


 そう一言いいながら喫茶店へと入っていく。路地裏に隠れるように誂えられたこの店の店内は少々薄暗く大通りからも離れているため静かなものだ。客はほとんどおらず、正直大丈夫なのだろうかと不安になる。そんな感じに店内を見渡していると既に外の3人は集まっており、サクが僕を手招きするので。隣に座らせてもらう。

喫茶店で何も頼まないわけにもいかないので適当に珈琲を頼んでおく。


「これで全員そろったわね、収支報告と行きましょうか。まず私だけど3箱全部売って1万2千Gってところね芋類が高値だったのが功を奏したわ。運搬スキルがあればもっと行けたんだろうけど。残念ね」

「こればかりは仕方ないだろう。ああ、私だけど30箱売って10万Gといった所だ

芋類もそこそこ持っていたが葉物野菜の方が多かったから伸びはそこそこ。だが今までの売り上げと比べたら大きな儲けになった所だ。」

「えっと、私ですね! 40箱売って14万Gです! まさかこんな高く売れるだなんて思いませんでしたよ!」

「二人が一番運搬スキル高いですもんね。さてと、僕ですけど20箱売って6万ですね。まあ、お二人の値段には追いつけなくてもそれなりの高値になりましたね。さて、分配ですけど、ここから野菜を作る為のタネの値段を差し引いたお値段を頂ければそれで僕らは構いません、サクもそれでいいよね?」

「ええ、元々は私たちがおこぼれにあずかろうとしただけだもの。私たちの運んだ分の全額寄越せってのは図々しいわね」

「え? 全額どころか。山道で守ってもらった分、売り上げを差し上げようかと思ってたんですけど……どうしよう、おじいちゃん」

「ふぅむ、今日の儲けは私たちが受け取り。そのGで転移のオーブを買ってあげよう。その代わりといっちゃなんだが、しばらく野菜を売るのを手伝ってくれるかい? まだ運びきれなかった在庫があるからね、取り分は応相談でどうだろうか?君達だってお金は入用だろう、今の王都の相場を考えれば在庫を売り切れば何百万はくだらないだろうし」


 確かに二人では運ぶのに時間がかかるが、僕らが転移の魔法を覚えて人手は2倍になる。数があり今は売りに出す市場に困らないなら人を増やして売っても十分な儲けが出るはずだろう。僕らにとっても悪くない提案である。受けてもいいな


「いいですね、それで行きましょう。サクも納得してくれるかな?」

「良いと思うわよ、Gはいくらあっても困らない者、そうと決まれば魔法屋に行きましょ。まだ時間はあるはずよ」


 サクは話が終わるとすぐに立ち上がり。外へと出ていってしまう。転移のオーブが売ってる店なんて知っているわけでもないのに……

 案の定、店の前で足を止めていた。


「遅い! まったく早く魔法屋に行くわよ!」

「遅いじゃなくて珈琲代払うべきじゃないかな?」

「あ……ごめんなさい」

「わかればいいよ今日は支払いしておいたよ、さてと魔法屋を教えてもらっても? おじいさん」

「うむ、こっちだよ、ついてきなさい」


 おじいさんの先導により僕らは大通りにある魔法屋に足を踏み入れる。

客はまばらといった感じだ。おじいさんがさっそく転移のオーブを僕らに買い与えてくれた。えっとメニュー画面で使用すればいいんだなっと、おお、特殊スキルに転移魔法が追加された、効果は……っと。


【転移魔法】

自分が行ったことのある街へ瞬時に移動できます


 回数制限なしとか普通に強スキルではないだろうか?


「これ、結構凄いスキルよね、特に今回の使い方をする際には」


サクさんもすぐに気づいたようだ。


「だね、転移で野菜運びをする方法を考慮した魔法じゃないんだと思う。」

「すぐに規制されるでしょうね、その前に出来るだけ稼がせてもらいましょ」

「なんか悪いことしてるみたいで気が引けてしまいます」

「僕も……」

「私もそう思うと気が進まないねぇ」

「三人ともモラリストすぎない!? ちょっとくらいなら私たちだってGに困ってるんだし、NPCも食糧難に困ってるんだから人助けもしてお金も稼げる、一石二鳥でしょ」

「まぁ、そういう事にしようか、さっそく、セルカンドに皆で戻って残ってる野菜を回収して運び出していこうか」

 

 サクの勢いに押されながら4人でさっそく野菜の運搬および売却を行っていく。

さすがに何度も1箱3000とはいかなかったが、それでも沢山稼がせてもらった。

昼休憩の後もまだまだ残っているというのでとにかく売っては戻っての繰り返し。

そうして夕方にさしかかるギリギリまでで稼いだ額はなんと……


「全部売れましたね、種芋と苗を除いた収穫物が全部空っぽになるなんて初めて」

「前までは私一人が細々と売りさばいてたからねぇ、1日作業で売りさばいたのは初めてだよ、重ね重ねありがとう、コージィ君、サク君」

「いえいえ、こちらこそ、さっそくで悪いけど、どれくらいになったか、さっそく収支報告と行こうか、どれだけ運んだのか……うわぁ、30万って」


 僕は自分のメニュー画面を開きGの記載がある場所を確認する、そこには凛然と輝く30万Gの文字が並んでいた。


「私は50万と少しね、これだけ稼げるって凄いわね、もう少しやりたくなるわ」

「食料というのは人間が生きるために直結しているからね、それが飢饉でなくなる時にケチって買わないなんて馬鹿はいないのさ、私は50万だね」

「私のお野菜が役に立ってくれるといいなぁ、あ、私はコージィさんよりも少し多いくらいでおよそ40万ですねー」


 途中から運搬スキルを習得してもともと他の高い筋力が上げるスキルを持ったサクの方がねるさんよりも稼いだみたいだな。


「総売り上げは端数数えないで170万か、取り分ですけど。そちらは今後も畑の拡張や苗や種の購入にお金が入用になりますよね、畑って一段階大きくするのにどれほどかかるので?」

「えっと、私の今の畑の大きさだと1段階大きくするのに5万Gかかりますね、それを10回やるごとに5万ずつ上がります。でも、私と使役魔物二人だけしか人手がないのであまり拡張しても手が回らないかも。頑張って後10回くらい?」

「じゃあ、100万はねるさんに。拡張の代金と今回の立役者という意味で、それとおじいさんに50万、今回の話を持ち掛けてくれなければ無かったし。僕らは20万でどうでしょう?」

「ここまで時間をかけてもらったのに、それだけでいいのかい?なんだったら、私の分も持っていっていいんだよ」

「いえいえ、これだけぼろ儲けさせてもらったあげく。取り分をもっと寄越せだなんて卑しい男にはなりたくないですから、引け目を感じるのでしたら今度また同じ事をするときの人手として雇っていただいておこぼれがもらえたらと」

「コージィ、そっちの方が逆に狡い気がするわよ」

「あはは……でもまぁ、探索者たるものどうせなら遺跡を探索してそれで儲けたいですからね。幾ばくかの活動資金で十分だよそれともなんだ? このまま農家でもするかい? 僕らも」

「冗談よしてよ。農家をするために王都まで来たわけでもなし、こっからが面白くなる頃合いよ」


サクならそういうと思っていたよ。


「ふむ、そういう事ならよしとしよう、ねるもいいかい?」

「う、うん! また何かあったら二人に連絡しますね! 絶対に!」

「そういうわけだ。今日は本当に助かったよ、ありがとう。私とねるはセルカンドを拠点にしてる、何かあったらいつでも頼ってくれて構わないからね、それじゃあ夕飯も近いしログアウトさせてもらうね」

「今日は楽しかったですよ、何かありましたら頼りにしますので、その日まで」

そうしておじいさんとねるさんとはここでお別れとなった。

「さてと、私たちもログアウトね。しかしようやくここまで来れたわねぇ」

「そうだね、来月からはここを拠点に探索者としていろいろ調べていきたいね」

「え? なんで来月からなのよ?」

「来週からはテスト一週間前です、勉強をしましょう」

「それにテスト開けには林間学校もあるからね、しばらくゲームはお休みだ」

「ほんとあんた真面目ね、私も怒られるのは嫌だからするけどさ」

「まあ、後二日だけなら休日残ってるし。それくらいなら遊べるかな」

「はぁ……それじゃログアウトするわ。また明日」

「うん、また明日」


 そうして僕らもログアウトをする。とうとう王都への進出を果たすことに成ったか

GWは終わったが後2日だけ時間が残っている。姉たちと連絡を取ってみるのもいいし。魔法のオーブは何も転移だけじゃないかもしれない。探してみてもいいな


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