第35話
リアルで食事を食べ終わり風呂などを済ませてログインすれば。
ウォレスは丁度朝日が昇り切った頃合いであった。まあ長居はしないでおくとして。その辺をぶらぶらしてからログインすることにしよう。
セルカンドの街は大きな川を隔てて二つの区画に分かれているようだ。
ファウスト側は農業区画。畑や水田がずっと続くかと思えるほどに広がっていた。
そしてサファード側は居住区として民家が立ち並んでいる。
今も自分の畑に向かうのか農具片手に歩く姿が見受けられる。
そうだアイテムの売買はしておこうかな。ここまで狩った魔物の素材がいい値段になればいいなぁ。それとここで食材アイテムを買いたい。原産地なのだし。米や野菜は安くなってる可能性が高い。後は馬具が欲しい所だな。情報だけでも見つけられればいいが。
そうこうして荷物が軽くなる。さすがに二日程度の狩りじゃそこまでのお値段になるわけもなかった。格安で買えるところ探さないとかな。
さて。次は何をしようか。魔導書の解読でもしようかな?
そう思いながらインベントリをスクロールしていくと。前に買って少しだけ使った虫網や籠と水槽が出てくる。あ~暇つぶしに川でも見てみるか。観察スキルもあがるかもだし。そんなわけで。のんびり生き物探しに土手をえっちらおっちら歩くことに。川の反対側の畑の方も見てみれば鍬を振り下ろす農家さんの姿がなんとものんびりした雰囲気を醸し出す。そうして歩いていると。釣りをしている男性を見受ける。隣にメイスが置かれている。僕と同じ探索者だろうか?
「おはようございます。釣れますか?」
意を決して話しかけてみれば。手で制されてしまう。釣竿を見てみれば動いていた魚が食いついてる証拠だ…………かかった! 男の人はかかった瞬間に竿を引き上げ魚を見事に吊り上げる。
「よっし! これで6匹目。悪かったな。でもおかげで成功できたよ。さんきゅ」
「いえいえ。こちらもいいもの見せてもらいましたから。」
「えっと。俺と同じプレイヤー? 田舎の少年みたいなスタイルしてっけど」
今の僕は虫網に虫かご。服も防具を装備せず布の服スタイルだ。
「ええ。そうですよ。お兄さんもそのメイスからして探索者で?」
「おう。そうだぜ! 俺は『牡蠣フライ』って言うんだ。あんたは?」
「僕はコージィって言います。今は王都への旅道中といっても相方がログアウトしてるので。今日はここまでですけど」
「お。なら今って暇なのかな? いっちょ狩りにでも行く?」
「すみませんちょっと旅道中。プレイヤーとトラブルがあって今日はもうゆっくりしたいかなって」
「それならいいわ。でもトラブル? 本気で困ってるなら通報したほうがいいぜ」
「通報?」
「おっとMMOが初めてなのかな? ま。説明するよ」
通報について説明を受ければ。どうやら運営に対してこういう人がこういう理由で迷惑行為を行っているという報告を行う行為の事を指して通報と言う。運営=警察と言う意味合いで使われてきたのだろう。だが問題がある。
「僕。その人の名前知らないんですよね。もっと強く聞けばよかった。いや。だからこそ名乗らなかったのかもしれないな」
「あ~。初心者狩りに慣れてるやつだわ。それもVR系の。一応。姿格好での通報もできっから。しておくといいよ。多分対策してるんだろうけどな」
「ありがとうございます。早速しておいてみます」
メニューを開いて。ヘルプの部分を選択すれば運営への報告という項目があった。
迷惑プレイヤーの通報の旨を伝え報告しておく。これで諦めてくれるといいが。
「そういや。虫取り網持ってるってことは虫捕まえてたりする? スクショに取ってたりは? 俺子供のころから虫が好きでさ。そういうのってある?」
話題を変えてきた。虫の写真は前に取っていたので。いくらでもある。
「ありますよ。ヤゴとか芋虫。後はオオクワガタとか」
「え!? マジかよ! っちょっと見せてくんねーかな!」
興奮して僕に写真を見せるように詰め寄ってくるのでメニューを開き見せる。
それを見て。牡蠣フライさんはうおーとかすっげーとか感嘆の声をあげるのだった
「いや。マジでさんきゅーだわ。どこで撮ったんだろ?」
「良ければ教えましょうか? 虫が本当に好きみたいですし。悪い様にはしないと思うので」
「うんにゃ。それには及ばないぜ。探索者たるもの自分の欲しいものは自分で探す物だろ!」
「いい心構えと思いますよ」
「だろ! そうだ。いいもん見せてもらった礼がしたいな。今日そこで釣った魚でもいいか? ここの川魚は中々いけるぜ」
「いえいえ。写真見せただけで受け取れませんって」
「んな遠慮すんなって。それとフレンド登録もしようぜ! 今後お互いになんかいい虫の画像が手に入ったら連絡しあおうぜ!」
牡蠣フライさんは少々強引に僕に川魚を渡してきてくれた。それを断り切れずに受け取ってしまう。本当にいいのだろうか? 更にはフレンド登録までしてもらった
「それじゃ。俺は別の所で釣りするわ! また会ったらよろしくなー」
矢継ぎ早にそれだけ告げると。自分の得物たるメイスを持って。何処へと走り去っていってしまった。ちょっと強引な人だったが。悪い人ではないかな。さて次はどうしよう。まあ。のんびり歩いていよう。何かしら起きるだろうて。あ。いなごゲット
道中いなごやらを虫かごに入れる。ちなみに食材アイテムだった。いや食べる地域もあるけどさぁ。まぁサクさんは女の子だしあまり好きそうじゃないだろうから観察をほどほどにして逃がしてやることにしよう。
「あのぉ? そのイナゴ逃がしちゃいます?」
後ろから声が聞こえる。女の子の声だったな。振り返れば。やはり女性だった。
麦わら帽子に素朴な布の服。背は低く中学生くらいだろうか? そばかすが目立つその少女はいうなれば田舎娘といった感じだ。武器は携えてないから探索者ではないのだろうか。
「ええ。食材アイテムみたいですけど。僕は使う事はないですしね。ほどほどに捕まえて観察し終わったら逃がしてやります」
「そ、それでしたら! 私に譲ってもらいませんか? えっとお礼はしますよ」
少女はイナゴを譲ってほしいと言って来た。イナゴなんてどうするんだ?
「おじいちゃんがイナゴの佃煮好きで作ってあげれたらなと思いまして」
「なるほど。お礼はいりませんよ。全部差し上げます。元々逃がす予定でしたし」
「ええ!? で、でも。それだとちょっと。お兄さんに悪いですし……そうだ。お時間ありましたら。お昼一緒にどうですか?」
「お昼を? ああもうそんな時間でしたか。それが礼になるのでしたらそうさせていただきます。僕はコージィ。あなたのお名前は?」
「あ。私は『ねる』っていいます、こんな姿ですけど探索者つまりプレイヤーです。あ、フレンド登録します?」
「ああ。てっきり何かのイベントNPCだと思ったよ。フレンド登録なら喜んで」
それを言うと。僕の姿も虫取りしてるNPCに見えますよとの事。うん言えてる。
ねるさんとフレンド登録をしてから。ついてくるように言われたのでついていく事に。到着した場所はこぢんまりとした家であった。ねるさんは扉を自分の家だと言わんばかりに開ける。事実自分の家なのだろう。家を買う事も出来るのは前に見たことがある。相当お高いが。借家だとしても毎月数万Gはかかるはず。
「ただいまー。おじいちゃん帰ってきてる?」
「おかえりねる今しがた帰ってきたよ。うむ? 隣の青年はどちら様で」
「あ。どうも。僕はコージィって言います旅の探索者です。ねるさんにお昼をご一緒にと誘われまして」
「おお。プレイヤーさんかい。私は『G.G』と言うよ。おじいさんでもじーさんでも好きに呼んでくれて構わないよ。よろしく」
G.Gと名乗ったご老人は頭髪は白く皴の数が相当の歳を重ねたのだろうとうかがえた。しかし背筋はしっかりとしており。何とも言えない威厳を漂わせていた。しかしその出で立ちと違って口調は優しく丁寧に僕を迎えてくれたのだった。
「おじいちゃんとコージィさんはちょっとだけ待っててね。ご飯は今作るから」
「うむ。今日は何をつくってくれるんだい?」
「コージィさんから譲ってもらったイナゴの佃煮ー」
「ほほう。この世界でもイナゴの佃煮が食べれるとは思わなんだ。楽しみにしているよ。ささ。コージィ君だったかな?座りなさいな」
椅子などは無く床の座布団を進められるのでそこに座ることに。
「おじいさんは。お孫さんと一緒にこのゲームを?」
この事を聞くとおじいさんは話してくれる。元々はお孫さんへのプレゼントとして買ったようで。自分がやる気はなかったのだが。面白そうにゲームの話をするお孫さんに老後の趣味の一つといったノリで始めたらがっつりハマったらしい。
お孫さはんここの雰囲気が気に入ったので。ここで家を買ってのんびりしており
おじいさんの方は魔物と闘うのが楽しいのか野良チームに交じって方々戦闘しに行ったりしているようだ。今日もそこから帰ってきたばかりだとか。
「へぇ。凄いですね。お体とかなんともないので?」
「はっはっは。言われるほどじゃないよ。体に関してはむしろこちらの世界の方がよく動けるものさ。」
そして全てを聞き終わるころには。お孫さんたるねるさんが料理を持ってくる。
白米に味噌汁、お漬物にイナゴの佃煮。佃煮にさえ目を向けなければ実に日本らしい食卓だ。いやイナゴだって日本のどこだったかは忘れたが郷土料理だから。完全なる日本食には間違いないのだがね。やはり見慣れない物が置かれた食卓というものはたじろいでしまうな。おじいさんは静かに頂きますと唱えてから早速佃煮に箸を伸ばしていた。本当に好きなんだな。ねるさんもイナゴをつまむ、女の子にして中々に豪胆な精神の持ち主の様だ。
僕もとりあえず。みそ汁をすすれば。味噌の味が口いっぱいに広がる。中身は豆腐とねぎというシンプルな具。それだからこそ味噌の優しい味が口に広がるというものだ。次に漬物に手を付ける。ポリポリと子気味良い音と絶妙な塩加減が最高。
ここで白米をかきこみ。またみそ汁。そして漬物と繰り返せばすぐに茶碗の中身は空になってしまった。
「いやー。美味かった。最高でしたよ。これぞ日本の食卓って感じで」
「ありがとうございます! お漬物はおじいちゃんが漬けてるんですよ」
「口に合ったのなら少し持っていくかい? まだまだ余裕はあるしね」
おじいさんは台所にある床からいくつか漬物を取り出し。袋に入れて僕に差し出してくれた。遠慮するのも悪いので頂くことにした。今度何かお礼をしたいものだ。
「ありがとうございます。このお礼はいつか返しますね。今日の所はここら辺で失礼します」
「そうかい。また会う日を楽しみにしてるよ。連絡を取りやすいようにフレンド登録もしておくかい?」
おじいさんとはフレンド登録をしてから二人とお別れ。
そのあとは宿屋に戻りログアウト。明日に備えてさっさと寝てしまう。
ナンパ野郎の襲撃と嫌な事もあったが。牡蠣フライさんやねるさんにG.Gさんなど
やさしい人とも会えた。決して悪い人だけではない。そう思えば今後も頑張ろうと思う気になるのであった。
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