第36話

 日をまたいで日曜日の朝である。既にサクさんはログインして僕を待っていた。


「今日はGを稼ぎたいわ! 馬具の為にも」


開口一番これである。まぁ分かっていた事なので。昨日の夜に事前に用意した物を出す。いくつかの依頼が書かれたた物で今日来て欲しいという依頼のものばかりだ


「そういうと思ったよ。というわけでこれらをこなしていこうか。」

「用意がいいわね。どんな依頼かしら…………って、何よこれ」


怪訝そうな顔をサクさんはするのだった。まぁ探索者の仕事ではないからね。


「耕作、収穫の手伝い。家畜の見張り。極めつけには荷物の引っ越し。なによ! 魔物の討伐とかはないの!?」

「あるにはあるよ。でも今は活動を自粛せざるを得ないと思うんだ。あいつらの実力はこの前見て知ってると思うけど。確実に王都に行くレベルだと思う。そんでもってそれに対して恨みを買ってしまっている今は安全圏たる村から外に出ずにGを稼ぐほかない。かといってその間に対策を練ろと言われたら。練りようがないんだけどね」

「なんであんな探索者くずれのナンパ野郎に私達が足止めされなきゃいけないのよ!」

「通報はしておいた。まぁ対策はしてるだろうけど。しないよりかはまし」

「はぁ。そういう事ならしょうがないわね。手分けしてこの中の依頼を受けてGを稼ぎましょ。私はこっちの引っ越しと家畜の見張りをしに行くわ。コージィは残ったのをお願い。それと対策は私の方でも考えるからコージィも考えておきなさいよ」

「わかっているよ。それじゃぁ。依頼が終わり次第また集会所に戻って別の依頼を受けるでいいかな?」

「それでいいわよ。それじゃお先」


 そういうとサクさんは早速と言わんばかりに依頼書を持って受付に行ってから。出発する。僕もそれに倣い早速依頼をこなすべく出発だ。


「いんやー探索者さん助かったよ。あそこの大きな岩どうにもどかせないからあきらめてたのにあんたのあのでっかいの凄いねぇ。畑耕すのも上手いし」

「お役に立てたのであれば何より」


 僕は農家のおじさんと一緒に畑の一画に立っていた。目の前には大きな岩を抱えこんでいるカーレッジ。それを邪魔にならない所に置けば。再び鍬を持って耕作を再開させる。元々カーレッジは農業用のゴーレムだ。戦闘よりもこっちの方が性に合っているのだろう。心なしか嬉しそうに仕事をしているようにも見える。


「この後予定とかあるかい?無いならいい野菜が獲れたんだ食っていかないか?」

「知り合いと別の場所で手伝いを受ける予定ですので。お気持ちだけ受け取ります」

「そうかい。でもお気持ちだけってのは忍びない。野菜だけでも持っていきな」


 農家のおじさんがいくらか袋に野菜を詰めて渡してくれる。既にここに来るまでに3度目である。依頼の報酬金の他にこんなに貰ってもよいものだろうか。

ちなみにこうして会話していたら『礼儀』スキルと言うものが手に入った。

おそらくは丁寧な口調でしゃべることを意識すれば手に入るのかもしれない。


「にいちゃんあのでっかいの止めていいよ。ここまでやってくれたらもういいよ」


 そういうのでカーレッジを使役状態から契約状態にして。野菜と依頼の報酬金の礼を言ってからこの場を去る。これで受けた依頼は全部かな?そろそろ集会所に戻ろっかな。戻った先ではいざこざが起きていた。サクさんとこの前のナンパの人だ。


「だーかーらー! 何度も言ったでしょう! 私はコージィを裏切るつもりはないし。あんたとは絶対にチームは組まない!」

「下手に出てりゃいい気になりやがって……あん? 見せもんじゃねぇぞ! どっかいけや!」


周りにも怒鳴りつけており。それを聞いた周りの人たちはそそくさと逃げていく。


「大体ねぇ。初心者狩りなんて恥ずかしくないの? 別にこのゲームはPK全面禁止とかないからそこは咎めないわよ。でもどうせやるなら自分と同じくらいのか強いのを狙わない?」

「言うに事欠いて説教か? やられる方が悪いんだろうが。あの魔法使いは一回殺さないと気がすまないんだよ」

「あんたの足りないオツムじゃあの切れ者は倒せないわね。現に逃げられてたし」

「アレは様子見しただけだ。王都にも行けてねぇガキに俺が負けるかよ。次はぶっ殺す」

うーんやっぱり衝突しちゃったかぁ。サクさん結構最初はおとなしく見えたけど。

こうして行動しているとわかったが。結構短気な人だ。

「おまたせ。サクさん。それとえっとどちらさまでしたっけ?」

「覚えてないのか!? p……おっと。いけないいけない。魔法使いまた会ったな」


 っち。名前を言ってくれれば通報で運営に捕まえて貰ったのに。結構ガード高いな


「ええ。またお会いしましたね。ご気分を悪くして申し訳ありませんでした。周りの方にご迷惑になりますし。お暇させていただきますね。サクさん行こう」

すぐにサクさんの手を引いてこの場を去ることに。町中でわざわざ争う必要はないからね。サクさんは不満そうにしてはいるものの。引っ張られてくれる。


「おう待てよ。話は終わったみたいに逃げようとしやがって。こっちは終わってねーぞ。あ?」


そう簡単には逃がしてくれませんよね。はぁ


「お話とは何でしょうか?」

「魔法使い。今すぐその女とのチーム解散しな。女を渡してくれたらもう魔法使いには何もしねーからよ」


そんな事か。こればかりは僕の一存では決められないね。


「サクさんはどうしたい? サクさん次第でチーム解散させるけど?」

「コージィが解散したいって言わない限りはついていくわよ」

「との事です」

「っち! 次フィールドであったら。逃がさねぇからな。ゼッテー潰す」


 はぁ。あんまりしつこい男は嫌われると思うよ僕は。そんな捨て台詞を聞きながら

集会所から出てから農業区の方に向かい。適当な土手に座る。サクさんはそこら辺に転がる石を川に投げて。いらただしげに揺れる水面を見ていた。


「ああ~! あのナンパ男。本当ムカつく! 何よ!『俺のチームは王都にも行ったことがあるから強い~』って。自慢するなら腕を振るいなさいよ!」

「腕ならつい最近見せて貰ったろ。朝にもいったけど彼らの実力は本物だ。しかしやっぱりと言うか案の定王都組か。なんで戻ってきたんだろ」

「大方初心者狩りよ。それにあの男自身直結厨だし。初心者の女の子に格好いい所見せたいだけよ! ったくゲームの中でリアルの出会い求めないで出会い系でも調べればいいのよ!」


 荒れてるなぁ。しかし初心者狩りか牡蠣フライさんも言ってたよなぁ。正直に言えばそういう行いを僕はとてもよろしく思わない人間だ。腹にくるものがあるといって過言ではない。


「弱い物虐めして人の気分害して何が楽しいんだか。その考えが分からないし知りたくもないね」


僕も毒づいてしまう。あまり強い口調は使わない僕も少々苛立ってるようだ。


「以外……コージィってそういう事も言うのね。怒らない人だと思ってた」

「僕は人並みに怒るときは怒るよ。しっかしどうにかして倒せたらいいんだが。スキルが圧倒的に足りないんだよなぁ」

「武器の方もね。あいつらは王都でいい武器と防具を装備しているでしょうし」

「はぁ。どうしたもんか…………」

「やっぱチーム解散する?」


 サクさんがぽつりとつぶやいた。正直に言えば最善はそれだ。サクさんがナンパ男の指示通りにチームを抜けてあいつらの下につけばいい。だが。


「それはサクさんの望む事ではないんだろう。だとしたら僕は別の最善の為に策を練るだけさ」

「諦めが悪いのね。コージィは」

「肝が据わっていると言いなおして欲しいかな。まあ現状は小遣い稼ぎと突破口探しだね。自由に動いてくれて構わないよ」

「了解。なんかいい算段がついたら連絡寄越しなさいよ。あいつらには一度煮え湯を飲まさないと気が済まないしね」


 そう言ってからサクさんは僕の元を離れ何処かへ行く。現在ウォレスは15時。依頼を受けようにもきっと彼がいる事から近づけないし。手詰まりかなぁ。

敵は見えてるだけでも3名。僕らはカーレッジ合わせて3名。

そのカーレッジに対しても奴さんら対策を練るだろうし死に駒だ。

おまけに相手には更に駒が残ってる。さてはて………

サクさんの情報をもとに作った羊皮紙を広げて。適当に拾った石を置く。


「襲撃をしかけるなら僕なら。一本道のラストル大橋? ……いや流れの弱い所を渡るのを予見して下流の森の中? 狙うとして相手はどの時間に襲撃してくる? この前はリアルでは14時くらいだったか。今後もその時間帯だとすると……いやあれはあくまで土曜日の襲撃であって平日ならどうだ……くそっ不確定状況ばかりでどうにもならないな」


しばし頭の中で今の状況から出来る事を必死に考えてみても。


「…………駄目だ。突破口が見えない」


結局出来ない。これは相手の言いなりになって全面降伏しかないか?


「へぇ……面白い盤面ジャン。ちょっと貸すジャン」


 横から声がする。特徴的な語尾をしてるそれは非常に高い音域で子供が喋っているような声だった。


「ふぅん。お兄さんのコマはこっち? だとしたら少なすぎるジャン」

「だから困ってるのさ。このまま泣き寝入りなんてしたかないが。如何せん僕のチームは2人だけでね」

「突破する相手の数は不明ジャン?」

「うんにゃ3名は確定。後は不明。というか君は誰だい? 僕はコージィ」


 横を振り向けばゴスロリ衣装に身を包んだ少女が立っていた。

フリフリのレースには細かい刺繍がなされている。どこで売ってるんだ?


「僕は『伏龍鳳雛』ジャン。稀代の天才軍師様ジャン」

「諸葛亮か龐統のどちらかに絞ってはどうだろうか」

「僕にはどっちかなんて決められないジャン。それはそうとこの盤面。こうすればいいジャン」

そういうと一つ二つと石を用意すると盤面に置き始める。

「それは僕も考えたよ。でもこれは僕のチームのトラブルで誰かを巻き込むような事は出来ないさ。しょーもないプレイヤー同士の争いなんかにね」

「つまらないプライドで出来うる策をみすみす潰す方がしょーもないジャン」

「言ってくれるねぇ軍師殿。しかし急に話しかけてきて何の用なんだか?」

「いやいや。面白そうな盤面を見てつい軍師魂が炸裂しちゃったジャン。

ねぇねぇ。この盤面。僕も一緒に打たせて欲しいジャン」


 意外な提案だ……ふむ。僕の安いプライドであいつらに煮え湯を飲ませられるなら捨ててもいいか。


「いいよ軍師殿。一緒に打とうじゃないか。指しあったってはキミの案を採用だ人の伝手はあるのかい?」

「あるわけないジャン。僕このゲーム始めたばっかジャン」

「じゃあなんであんな提案をしたんだよ!?」

「あんたは人がいいから手伝ってくれって言ったら。在野の士は集まりそうだと思ったジャン! いうなれば劉備とかジャン!」

「はぁ……まぁ。決めたからにはやってみるほかないか。頼る伝手なら。まぁ一番はあそこかな?」

「なんだ! あるんジャン。で、どこなんジャン?」

「紅蓮傭兵団」


僕は軍師殿にそう言ってからフレンドリストを操作して姉へ連絡するのであった。

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