第31話
時間は進んで放課後。僕は一度家に帰る。そして着替えてから徒歩で駅前へ向かう事にする。幸いにして僕の家は駅前に近いのだ。それに母にこの事を伝えないと遅くなった時にまた玄関の前で泣かせることになる。それだけは避けねば。
ちなみに服の方は姉が買ってきた男性用ファッション雑誌の服をそのまま買ったというファッションだ。何せ僕は服というものがわからない。なので全部母と姉に任せたらこうなったのだ。顔もスタイルもいいから悪くないと言われている。
既に数名の参加者が集まっている、僕と同じように服を着替えに家に戻ったものもいるのか私服の者も。とりあえず手持ち無沙汰だし誰かと話すとしようかな。
「内山君も参加者なんだ。こっちこっち」
声をかけたのはクラスでは僕の前に座っている。
僕と同じように眼鏡をかけて授業に熱心に取り組む優等生といった感じ。
「ああ、伊藤君。君も参加なんだね。他参加するのは誰か知ってたりは?」
「まぁね。僕の知る限りでは田中君や冴島さん後は小泉さんとかかな。他にも来てるみたいだけどね」
ふむふむ。まぁ田中君は僕といた時に誘われてたし。小泉さんは僕が誘ったから知ってる。えっと冴島さんはクラスでも声の大きいグループに属してる人だね。
あまり使いたくない言い方ではあるけど。所謂ギャルという奴だ。
となると、冴島さんグループ数名。男は目の前にいる伊藤君や田中君他個人的な感じのが数名。ふむ、少々辺りを見渡せば。一人の男を中心にしたグループを見つける。確かあれは橋本君だ。スポーツ系の爽やかイケメン男子である。そしてその友人数名だ。後は小泉さんや渡辺さんの女子グループと半数が集まってるんじゃないか?
いないのは割愛させてもらおう。渡辺さんが点呼を取り。集まったのを確認して全員カラオケ屋を目指して歩く。その間は僕は伊藤君に田中君を交えて会話をすることに。仮眠をとっていたが。昼から眠たげだった小泉さんが心配だが。女子は女子同士の方が気楽だろうと思い。話しかけないでおく。
やがてカラオケ屋につき。部屋を借りて全員入店。早速橋本君のグループの一人が曲を入れて歌い始めるのだった。正直僕は歌がまったくと言って出来ない。なぜなら音楽を普段聞かないからだ。たまにテレビで流れた曲を知っている程度だ。まぁ、姉に言われて友達に誘われたときに歌えるようにしとけと言われたので数曲は歌えるが。そしてそんな僕に出番が来るのだった。
「次。内山君歌ってみてよ! 何が歌えるか聞きたいな」
渡してきたのは橋本さんグループの一人。まぁひとつ歌ってみるとしよう。入れる曲は定番とされる曲だ。というかこれと後指で数える程度の数しか歌えない。
歌いきってマイクを置けば拍手が貰える。どうやら場を白けさせるという事はなかった。次の人にマイクを手渡し適当な場所に座る。すると橋本さんグループの一人が近付き話してくる。ぼくにマイクを渡してくれた人だ。
「内山君って歌上手なんだねー。意外な一面みちゃった」
甲高い女性特有の声だ。制服をやや気崩しており目のやり場に困る。えっと彼女の名前はなんだったっけか……ああ、そうだ
「ありがと。まぁ歌えるのはアレ合わせて数曲だけ。あまり音楽は聴かないから」
「へー。じゃあさじゃあさ普段放課後って何してるの? 内山君って頭よさそうだし読書とか」
野村さんは僕のプライベートを聞こうとする。まあこの程度はさして問題は無いな
「まあ、読書かな。後は勉強とか休日なら早朝はジョギング。ああ最近はゲーム始めたね。これが結構面白い」
「うわ~勉強とかするんだ~。私勉強苦手なんだよね~どこをやればいいのかとかまったくわからないの。ねぇ。今度教えてくれない?」
どうやら彼女は勉強が苦手の様だ。まぁ勉強が得意という学生は少数派だろう。
「それくらいなら。別に構わないけど。僕も勉強が特別得意な訳じゃないからね」
「やた! じゃあ今度。学校近くの喫茶店とかでお願いね。メアドも頂戴」
いわれるがままにメアドを交換。女子とメアドの交換は初めてかもしれない。
「次私に歌わせてー。じゃね! 勉強の約束破んないでよねー」
野村さんはそれだけ言うと。歌を歌うがために前に出る。歌の内容は聞いたこともないが。最近のラブソングか何かだろうか? さてと。一人でいるのは手持ち無沙汰だな。田中君も伊藤君も別のと話してるか、さてさて。
「ウッチー。カラオケ楽しんでる? もっとテンション上げてこー!」
入れ替わりでまたも女性が隣に座る。冴島さんだ。下の名前は
まあ何かしら疑問点を。今ならウッチーと呼ばれた理由を聞くとする。
「まあ、楽しんでるよ。それでウッチーって?」
「ウチヤマだからウッチー。私の事もみやちゃんでいいよー」
「ふむふむ把握したよ。冴島さんも渡辺さんに呼ばれた感じなのかな?」
僕は普通に上の名前で呼ばせてもらう。ニックネームというのは慣れないのだ。
「違うよ。最初はうちも仲のいいの集めてカラオケ行こうってなって。わっさんも同じこと考えてて。じゃあどうせならって。まとめちゃった感じ」
わっさんとは渡辺さんの事か。この計画は渡辺さんと冴島さんの合同計画だったのか。道理でまだそれほど固まってるわけじゃないが。少々毛色の違うグループの人も混じって集まっているわけだ。親睦を深めるという意味では中々いい趣向かな
「それでさー。ちょっと聞いてる? もしもーし。ねえったらー」
おっと、どうやら僕はまた思考の渦に飲まれそうになっていたようだ。
「ごめん考え事してた。それで何の話だっけ」
「ウッチーの好みの女の子のタイプってどんなのって話ー」
思わず咳き込んでしまう。しまったジュースが器官にきっつ。これはきっつい。
「っちょ!? 急にむせてダイジョブ?」
冴島さんが背を撫でて何とか息を整える。格好こそ派手だが細やかな気遣いのできる女性の様だ。
「えっと。好みの女性だったっけ? 急に聞かれてもなぁ。どうだろ」
「ウッチー顔もいいし頭もいいから結構うちのグループじゃモテモテなんだよー。さっきあやちんが来てたじゃん。あれ勉強にかこつけて狙ってるよー」
どうやら。僕はいつの間にモテモテだったらしい。知らなかった。
「今は高校生活も始まったばかりだからそういうの考えた事もなかったよ。」
「高校生活3年間なんてあっという間だよー。もっとガツガツいかなきゃ」
「ガツガツ行き過ぎるのもどうかと思うよ。ま、強いて言うなら。料理が得意な子かなぁ。僕自身もそこそこ作るけど。家庭的な女性と言うのは魅力的だと思う」
「お、ウッチーはそういうのがタイプなんだー。私も料理できるんだよ。ウッチーの事狙っちゃおっかなー」
「冗談でもよしておくれよ。」
僕は冴島さんの言動に少々げんなりしてしまう。僕はこういう積極的な女性は苦手なのだ。姉を思い出すし。何より気疲れする。
「あははー振られちゃったー。ま、いいや。興味が湧いたらいつでも告白は受け付けるよー。それじゃ私も一曲歌うんでよかったら聞いてねー」
冴島さんはそれだけ言うと。マイクを持ち歌い始める。意外にもロックだった。
はぁ。疲れた、もう話すのも嫌だ。このままジュース飲んで食事して大人しくしていよう。そう思い。近くのピザに手を伸ばすと誰かの手に触れる。
「「あ……」」
手が触れた女性を見れば、そこには長髪を一つに結った凛々しい顔つきをしている女性。小泉さんだった。いや若干眠たげにも見える。寝不足は癒えてない様で。
「どうぞ。僕は別のを取るとするよ」
手早く手を戻し。別の物に手をつける。まあどれでもよかったんだ譲っても構わない。小泉さんはどうもと小さくお礼をしてピザを口に運んでいた。チーズが伸びて落ちそうになるのを慌てて手で抑える姿は小動物を思い出させる仕草だ。
「なによ。またじろじろ見て。人を見るのが好きなの? あなた」
またも入学式と同じような事を指摘される。
「当たらずも遠からずかな。見てて飽きないしね。今の君の姿は面白かったよ」
「あんた変な性格してるって言われないかしら?」
「よくわかったね。よく言われる」
「はぁ……ふわ……ん」
あくびをして目をこする。仮眠をとってもまだ寝たり無いといった所か。
「小泉さん。眠いなら今日は先に帰った方がいいと思うよ」
「うん……そうする。渡辺さんに伝えてくれる」
「僕も帰らないとだ母が待っているだろうからね。それのついでに送っていくよ。寝ぼけ眼の女の子一人に夜道は危ないだろうしね」
「お言葉に甘えるわ」
僕は席を立ち。渡辺さんに小泉さんが帰る事と。僕も帰る事を伝える。
渡辺さんは気をつけて帰るようにと言った後に僕らを見送ってくれた。
「さてと、帰ろうか。帰り道はどっち?」
「あっち」
なんとか眠い目を擦りながら歩き始める。転んだりしないか心配だ。
そして、案の定。躓きかける。
「はぁ。昨日いつまで寝てなかったのさ?」
「うんと…………2時くらい」
「そりゃ寝不足になるよ!? 大丈夫? 親御さん呼んだら?」
そら誰だって寝不足になるよ。そもそんな状態でなぜカラオケに行こうとした。早く帰ってお風呂入って歯磨いて寝るべきである。
「大丈夫。もう躓いたりしない」
その大丈夫は信じられないんですが……。その後も何どか石ころに躓きかけながらも家の前に到着。礼を言われてから僕も帰路につく
しかし。夜を徹してまで遊びたくなるゲームか。正直そこまで夢中になれるものがあるのを少々羨ましくも思う。僕もそれほど熱中できるものができるといいのだが。そして家についたら。お風呂に入り歯を磨き。ゲームをせず(サーバー調整? と言う奴で出来ない)寝てしまうのだった。
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