第19話
とびかかるベンガルトラに最初の反応はできずにマウントを取られてしまう。
前足で押さえつけられ、大口を開けたベンガルトラは僕にかみつく。頭は拙い!そう咄嗟に判断した僕はなんとか盾を持つ手の方で防ぐ。
突如激痛が走る、ベンガルトラはいともたやすく盾を噛み砕いてしまうのであった、咬合力どんだけあるんだよ!?これが頭じゃなくてよかった。まぁ、確かにここ数日は酷使し続けてきたが、補強もされた盾が一瞬で砕けるとは予想だにしない展開である、やっばいなぁ。
だが、あきらめるわけにはいかない、このベンガルトラを倒さない限り、先にはきっと進めないだろうから。腕に噛みつかれながらもストームを唱える、僕を中心に風が巻き起こるもその竜巻をベンガルトラは察知し飛び退いてしまう、それでも範囲内には捉えた、逃がしてなるものか
しかし中心から外れればこの魔法、途端に威力が弱体化する。それでもスキルの差で狼程度は吹き飛ばせるが、今回のベンガルトラは大物だスキルでは勝っているやもしれないが吹き飛ばされることはなく、観察スキルでHPを見ても、そのHPは少し減った程度で健在だ。
対して僕のHPは一度盾越しに噛まれただけだというのに半分まで減ってしまっている。盾で防御出来たからこれで済んだとすれば次は無いだろう、その前に治癒魔法で回復する。しかし治癒魔法をかけている途中にご丁寧に待ってくれるようならあの竜巻で倒せてる。再びの跳躍で僕を押し倒そうと襲いかかる、それを治癒魔法を唱えながら、地面を転がり避ける。
なんとかHPは回復、相手のベンガルトラはまだまだ健在、綺麗な着地で地面を踏みしめ、続けざまに三度目の跳躍攻撃を仕掛けてくる。これを避けるべく僕は魔法を使う、こんなやつ相手に真正面から挑むなんてのは愚考も愚考、ナンセンスだ、だがこれがうまくいけば倒せるはず!
「ウィンドジャンプ!」
お決まりの気合の一声で魔法を発動させた後、思い切り地面を蹴り空へと跳ぶ、並みの人間では到底飛ぶことのできない高さまで跳躍する。
ウィンドジャンプはウィンドダッシュと同じで強化魔法、その効果は単純で跳躍力を上げるというものだ。だが、これで三度目の跳躍攻撃を避けれたとしてもベンガルトラはいまだ健在である、ただ跳んだだけで勝てるわけがないので当然である。
なので、また新しい魔法を放つ、杖先はもちろんベンガルトラ、いつものように気合を入れろ!
「ウィンドランス!」
杖先から放たれたのは一本の槍、今までの矢とは比べようもない大きな槍である。貫通力に優れており、これならばベンガルトラだろうがなんだろうがひとたまりもないはずだ。それをとにかく撃ちまくる、避けようのないレベルでひたすらにMPの許す限り乱射だ。
ベンガルトラは必至で避けようとするも避けた先に放たれる槍を受けるなどしてどんどんダメージを蓄積していった。僕は自由落下しながらもとにかくベンガルトラへと槍を撃ちまくる、距離が近くなれば当たるのも多くなる。もはや地面まで数メートルという所で態勢を整えて、ベンガルトラに向かって足から落ちる。ベンガルトラは無数の槍に撃ち抜かれた消耗で僕の踏み付けを避けることができず、胴体へともろに受けた。そしてベンガルトラに着地すると、ベンガルトラは力を失い、崩れ落ちる、そして粒子となって消えた。
やったのだ、僕はベンガルトラとの死闘に打ち勝ち、生存競争に勝ったのである。
「いよっしゃあ!!!」
森の中に僕の雄たけびが響き渡る。その叫びに驚いたのか鳥が一斉に飛び立つ
姉がこの姿を見たら僕らしくもない叫びを上げて、何事だと思う事だろう。
だが、僕はこの気持ちの衝動を抑えられないほどに歓喜そして興奮していたのだ。
これはゲームの中である、だがゲームの中でもあのベンガルトラは僕の前に対峙し襲い掛かってきた。
最初に感じたのは恐怖以外の何物でもない、子供の頃に動物園で見たベンガルトラが襲い掛かってくるなんて想像したことなどないのだから。威嚇の為の唸り声、のしかかってきた時の鼻息、腕に食い込んだ牙の痛み、どれもが本物に思えた。
そして、そんな凶暴な存在を僕は独りで知恵と工夫で倒してしまったのだ。
つい先日までゴブリンに怯えてこそこそと隠れ闘っていた僕がだ、これは大きな前進じゃなかろうか? さて、ベンガルトラのドロップアイテムを確認するとしよう、折角苦労して倒したんだ、何かしら手に入れたいところだ。
そういいながら、ベンガルトラの倒れたあたりというか足元なのだがを調べてみれば、皮と牙そして爪が落ちていた。この戦利品は売り払うのではなく何かしらに加工してせっかくなら武器なり防具なりにしてやりたい。あの神々しさすらも感じた、この森の王者とでも呼ぶべき彼(もしかしたら彼女)に対しての最大限の敬意を表して。
さぁ、森の探索も予定していた部分は終わる、ついぞ財宝は見つからなかったが、ベンガルトラの撃破で大分満足した。そう、満足していたのだが、僕の前には更に予想していなかったが期待していた物があったのだ。
目の前に広がるのは廃村だった、家屋の跡地なのか、苔むした柱だけの残骸や
まだ、形は残したままであるが古ぼけてしまった家屋なども点在する。
村の中央というべき場所には井戸もあり、間違いなくここはかつて人間が生きていた場所だ。おそらくだが前時代の人間の村だ、これは前時代の遺跡と広義的な意味では言えるだろう。更には石造りのしっかりした家が形状を保ったまま残っている。
きっと何かあるぞ。どうやらベンガルトラからの戦利品以外にも財宝に期待を持てそうだ、さっそく調査を始めよう。
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