揉み過ぎて腫れる木曜日【中】
「あ、先輩。お風呂どうでした?」
「…………」
「先輩?」
「いや普通だったけど。マジでローショ……潤滑油あったけど」
「ちゃんと浸かったんです? 思ったより早くてビックリしましたよ。いっつもあれくらい早いんですねぇ」
「なんかそのセリフがついカチンと来てしまった俺は今日ホント調子悪いわ」
「どれどれ……すんすん」
「匂い嗅ぐなやバカ犬」
「うーんジャスミーン……先輩、早苗とおんなじ匂い出してますよ先輩! どうですこれ、ドキッとしましたか?」
「うん、その手の中にあるカンペっぽいメモ用紙は後で回収するとして、だ。早苗。そろそろ俺ツッコミ入れていいか?」
「おおっ、自らツッコミの予告とは……ハードル上がっちゃいますけどいいんですかいいんですかぁ?」
「いやもうお前ね、そういう茶々いれてる場合じゃないじゃん。俺さ、飯食う前にお前に着替えろって言ったじゃん」
「あ、そうですそうです。先輩のご飯ちょー美味しかったですよ! 唐揚げとかサクサクで……そういえば早苗のイナバウアー食いはどうでした!? あれけっこう出来るまで長かったんですけども」
「妖怪にしか見えなかった。マジで学校とかでやんなよアレ……って違う。話ずれた。んで、お前割と素直に着替えてくれたし、その、風呂から上がった後も……まぁ、うん、まだ普通だったじゃん」
「む、なんですかその歯に衣着せた感じ。唐揚げだけにですかおもしろくないです」
「なんで俺が寒いこと言ったみたいになってんだ! つうかお前、ショートパンツはまだ普通でよかったけど何あのTシャツ。裏に『熊出没注意』って書いてあったし、前に至っては『燃えないゴミ』って何あれ? なんのメッセージ性があんの」
「強いて言うならラブ&ピースの願いを込めましたけど?」
「えっあれ自作かよ! っ、いかんまた脱線……で、それで、だ! 早苗、なんでお前……また水着きてんの?! ていうかこれだけ聞くのになんでこんな寄り道しなくちゃいけないんだよアホ!」
「キャッチ&リリースでも良いですよ!」
「いや意味分から……あぁ、川の近くの看板か、なるほどてそうじゃねーっつってんだろ!! なんで水着なんだよ、なんでマット敷いてんだよ、そんでなんでそんな看板持って後は先輩待ちですよみたいな雰囲気だしてんだ!! 『生感マッサージ』って書いてあんだけど看板にィ!?」
「……や、ママがこれでいけって。あ、あと、誤字だけど元の正しい形はご想像にお任せって言ってました。どういう意味なんですかね?」
「知るかァァァ!!! 料金は後払いです(意味深)ってもう露骨に据え膳じゃんかァァァアア!!」
◆◇◆◇
大人って汚い。
これみよがしに仕込みまくってるし、その仕込みの畳み掛けが半端じゃないし。
ていうかそもそもカレンダーにハートで囲って結婚記念日!って書いてある日、明後日なんだけど。
もう両親公認してっから遠慮なくいってまえってメッセージを自ずと悟らせる感じじゃん。
ホント汚いよそういうとこ。
「汚いわホント……」
「失礼ですねぇ、さっきお風呂入ったときにちゃんと綺麗にしてますってば。なんならもういっそお風呂でします?」
「そうなったらいよいよそういうサービスになっちゃうだろうが!」
つーかね、水着姿っていってもそこはホラ、大人しいパレオとかフリルついた可愛いやつとかあるじゃん。
いやもういっそ学校指定のスクール水着でもいいわ。
それならイロモノ扱いとしてギャグ的な雰囲気出来るし、ネタとして流せる。
けどさ。
黒のビキニって……ガチ過ぎませんかそのチョイス。
高校生のビキニ姿て。
笑えねぇんだよ。
ムッチリムッツリがただのムッチリしか見えないんだよ深刻な事態なんだよこれは。
そらもう自主的にうつ伏せになるよね、マットに倒れ込むよね、生理現象隠す為に。
「んしょ……あ、先輩。ふくらはぎパンパンですよ、溜まってるんですか?」
「もうちょい別の聞き方してくれよ……んでパンパンなのは大体お前のせいだよ畜生。スーパーの買い物の途中で一体何度寄り道したと思ってんだこら」
「あ、脛毛一本だけ長いのある。プチっとな」
「そういうとこだっつってんだよ万年少年ハートが!!」
「はい先輩、足終わったんで、次は腰いきますね」
そういうなり腰にヒップを乗せるマイペースぶりにイラっとしつつも、同時にヤバいと気付いた。
先輩をいたわり隊!とかいって始まったマッサージだが、さすがにこの季節に水着、しかもビキニはバカでも風邪をひく。
だからなんとか俺のカッターシャツ無理矢理着せたんだよ、ここ俺もどうかしてたけど、ビキニのままよりは良いと思ったから。
でも、上は良くても下は……ほとんど薄い布切れ
一枚。
あぁうん、まずい。
「プッチンプリンとムッチリムッツリって響き似てません?」
「なんでよりによって今そんな事言うんだこのバカァァァア!!」
まずい、まずいぞこの状況。
俺今上はインナー1枚だけしか着てないから尻の感触ほとんどモロだし背中マッサージされると早苗の腰も動くから嫌でも感触が感触が感触がぁぁ……
「な、なにか気を紛らわせんとこれは……」
「あ、先輩。ちょっと聞いて欲しいんですけど」
「え、あっ、なに?(しめた! まさか早苗から会話を振ってくるとは!!)」
「実は最近、兄ちゃんがタバコ吸いはじめてですね。ホント部屋とかくちゃいんですよ、ベランダで吸ってってお願いしても面倒くさいとか言い出すし」
「あーうん。まぁ20歳になったら解禁されるもんの代表だからね、仕方ないんじゃない。別に部屋入らなきゃ良い話なんでは?」
「…………うぉ、うおっほん! それでですね、ちょっと兄ちゃんの部屋からタバコをくすねまして、それをどっかよさげなとこに隠したいなと思いましてですね!!」
「なにそのあからさまな誤魔化しは……っていうか兄ちゃんのモンくすねんなよ、ひっでぇな。そんで隠そうとするとかお前マジで犬か何かかよ」
「ワンワン! ハッハッハッ」
「くっそ似ててビビるわ……」
「でへへ……スンスン……わふ」
「………………いやいや、待てやコラおい。スンスンとか擬音出しとけば匂い嗅いでるみたいに誤魔化せるとか思ってんの? 今むしろペロペロだったよな? うなじ辺りペロってしたよな? 気付くに決まってんだろこのクソバカバカ!!」
「……ではここで問題のタバコ君に登場していただきまSHOW!! FOOOO!!!」
「勢いさえアレばなぁなぁに済ませれるとでも思ってんのか!! 絶対後で掘り返すからなこの案件! 絶対にだ!!」
「てわけで先輩、どこら辺に隠しましょうかね、これ」
「……いやどっから出したんだよ。ていうか普通に返してやれよ…………────ん?」
身体のどっかに四次元ポケットでもついてんのかって疑問も、ぶっ飛んだ。
差し出された真っ赤なラベルの……四角い箱。
「……0.03mm。おや、タールにしちゃ随分軽いぞ──ってこれコンドームじゃねぇかァァァ!! お、おまっ、おまおまっ、お前なァ!! よりにもよってこんなタイミングでっ、あぁぁもおぉォォ!!!!」
「『うすうすイチゴ味』……早苗、イチゴよりバナナ派なんですよねー。兄ちゃんは分かってないなぁ……」
「分かってないのはお前だアホ!! お前これ、兄ちゃんのいざって時の勝負アイテムだよこれ!! なにちょろまかしてんの?! ヤニ臭くなるんじゃなくてイカ臭くなるやつだろがい!!」
「そういえば先輩の作ってくれたイカそーめん、美味しかったですけど、ちょっと季節外れじゃないです?」
「安かったんだもぉぉぉぉん!!! 季節云々思ったけど! ていうか食ってる時に言ってくれやそれは!!」
「でもイカをムキムキするのちょー楽しかったですね。またやりたいなぁ」
「ここぞとばかりにィィ!! でもこれ戦犯俺だわクッソォォォ!!」
「あ、先輩。背中オッケーでーす。次は肩いきますねー」
「ちっとは意に介して!」
「んー……凝ってますねぇ。カチカチで固いです。なんか疲れる事でもありましたぁ?」
「今まさにだよ! というかお前と出逢って今の今まで疲れっぱなしだよ!」
「めくるめく早苗との日々で、こんなに固く……ポッ」
「ホント今日下ネタ凄いぞお前! なんなん!? 今日のお前なんでそんなピンクに振り切ってんの!?」
「うーん……力が入りにくいなぁ……よっこらしょーいち」
「オッサンか!」
「あ、この態勢ならイケそう。ンッ……どですかね先輩、気持ち良い、ですか? んしょっと」
「……いや、うん。あのね。元陸上部だからさ、お前が意外とマッサージ上手いのも分からんでもないし、実際すげぇ上手いんだけどね」
「おおぅ、ついにデレましたね先輩!」
「純然たる評価だよ。だけどな、早苗……お前のことだから無意識なんだろうけど……そろそろ自覚してくんない?」
「ん~……ほっ、えいしょっ! ……え、何の話ですか?」
「いや、だから…………当たってるどころか、俺の後頭部挟んでないかこれ」
「ほえ?」
「だからっ……胸がっ! お前の胸が! 俺の後頭部! 気付けや!!」
「……………あっ」
あぁ、やっと気付いた。
というかもう顎の下から声がしてる時点でなぜ気付かんのかコイツは。
ビキニの巨乳がとんでもないことなってんだってば。
お前が寒い季節に風邪引きそうな格好してるせいで、俺のが熱出しそうなんだってば。
でも、まぁ……どうせまた、おっぱいくらい良いですとかほざくんだろとかタカをくくっていたら……
「……ぅ、あ、その、いやー……あはは、し、失礼しました……」
「……??」
ゆっくりと乗ってた生暖かい物体、つーか早苗が離れていく。
というか、なんかやけにしおらしい反応というか、ついこの前の喫茶店での真似はなんだったのかってなるけど。
「……早苗?」
「うっ……ちょ、ちょっと待って下さいね。いや別に、わざととかじゃないんですよ、ないない。そんな、挟む、とか……うん」
すわバカがまさか風邪をひいたのか、と思うほど顔を真っ赤にして、ついでに俺のカッターシャツの裾で顔を隠しつつ、なんか弁明っぽい事してる。
いやいや、なにそのリアクション。
え、頭でも打ったの?
そんな言葉が浮かんだ瞬間だった。
『パンツは一枚、靴下二枚までは許可します』
『ブラは…………ちょ、ちょっと恥ずかしいんで……見るだけでどうかご勘弁を』
『…………うぉ、うおっほん! それでですね、ちょっと兄ちゃんの部屋からタバコをくすねまして、それをどっかよさげなとこに隠したいなと思いましてですね!!』
『なにそのあからさまな誤魔化しは』
頭の中で、パズルのように組上がっていく、ひとつの推測。
そして思い出すのは、あの火曜日。
『うぅ……じ、実は……その、兄ちゃんの部屋にあるゲーム機借りようと思った時に、ベッドの下にあるのがチラッと見えまして……』
……まさか。
「早苗」
「うひゃい!? な、なんでしょか……」
「兄ちゃんの部屋で見つけたのは、このタバコだけか?」
「えっ…………いやいやいや何言ってるんですか先輩それ近藤さんって先輩が言ったんじゃないですかタバコって! タバコて! やだなぁもう先輩ったら切れ味の悪いボケなんて言って」
「『後輩』、もっぺん聞きます。貴方が見付けたのは、本当にこのタバコだけなのですか?」
「はぅあ!? こ、後輩呼びに敬語……やだやだ先輩! その感じすっごいヤです!! ほら早苗って呼んで下さい、ねっ?」
「『後輩』。質問に答えていただくのが先かと思いますが?」
「……えぅ」
「…………」
「…………」
「はい………兄ちゃんの部屋の、引き出しの中に……ありましたよ、エッチなその、ほ、本が……」
「……やっぱりかよ」
で、多分内容が……まぁ、胸を使った系特集とかそんなオチだろ。
だからあんなに胸関連の話題を避けていた、と。
……アホらし過ぎる。
「ちなみに聞く。今度はどこまで読んだ?」
「いやそれが先輩。なんとですね……身に付けるだけで仕事が上手くいったり身体が健康になったり頭が良くなったりする金のブレスレットがあるらしいんですよ!! なんでもそのブレスレットのお陰で彼女が出来たり内定決まったり夜の営みが上手くいったり……スナックでも繁盛したんですかね?」
「最後の広告までバッチリ読んでんじゃねえぇぇぇぇよぉぉぉぉォォォ!! 前ので少しも反省してねぇぇじゃんかこんのムッチリムッツリ保険室の淫乱ビッチがァァァ!!!」
「先輩先輩。今回はプールサイドです」
「やかましいわァァァ!!!!」
「ぐへっ、ちょ、ギブギブ!! 絞まってます絞まってますってば! だ、誰か角田さんレフェリーに呼んで!!」
もうね、ホント今更だけどね。
俺の後輩がおバカ過ぎるしムッツリ過ぎる……
けど、本当に大変なのがむしろこれからとか、そんなん分かる訳ないじゃん……
「早苗のアホォォ!!」
「ロープ! ロープ! おや、ロープしてはなんか固いような……」
「もうお前豆腐の角で頭打って死ねこのおバカ!」
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