涙とエメラルド -ある笛吹きと“少女”の邂逅-

八枝ひいろ

「お前は、何の為に生きている」

 覚えにないくらい昔、そう言われた気がする。わななく手を、わたしを害しようとしたそれを、命乞いに伸ばされながら。

「知らないわ」

「わからないなら、どうして殺す権利がある! 俺は、俺は、こんなにも……」

 生き残りたい。それを言わせる前に骸へと変えた。どぽり、と流れ落ちる血の塊が、かの者の遺言となった。

「なら、教えてよ。わたしはどうして生きているの」

 人影は、少女の形をして。

「わたしはどうして死にたくないのよ」

 闇の中で、エメラルドの瞳が瞬いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る