最強の傭兵団を抜けた男が反旗を翻す物語

アキラシンヤ

夢の中のモノローグ

 ――視界を埋め尽くす炎、身体が燃えているかのような灼熱。

 今でもはっきり憶えている。故郷を失った頃の記憶だ。他の事はほとんど憶えていない。

 ――突然に吹き荒れた、目も開けていられないほどの暴風。


『たまげたな、生きてるなんてよ』


 俺の頭を撫でて、アルフレッド――アルフはそう言った。そう言って笑った。

 身体より大きな両刃の斧、赤い髪、赤い無精髭。


『お前は運がいい。だがこの世界、運だけじゃ生きていけねえ』


 あの時俺は何か話しただろうか。アルフに手を引かれたのは憶えている。手を引かれてそのまま、今に至る。アルフのお蔭で今の俺がいる。


『アルフ、俺はここらで降りるよ。……もうこの生活に、疲れた』


 だからこの話を切り出すまで、随分と悩んだ。本当に長いあいだ悩んでいた。

 潜伏していた某国の酒場でたまたま二人きりになった時だ。アルフは目を丸くして驚いていた。


『何だって? 辞めてどうするんだ。どうやって生きていくつもりだ』

『武具屋をやりたい。どっかの国の隅っこで、ゆっくり生きていこうと思う』

『……武具屋か、そうか』


 反対されると思っていた。最悪――殺されると思っていた。戦う覚悟はできていた。

 だけどそうじゃなかった。アルフはまず俺の未来を心配してくれた。思っていたよりもずっと、アルフは仲間想いの男だった。

 あの時の快活な笑顔を、俺は決して忘れないだろう。


『だったらここでお別れだ。『赤い翼』に戦わねえやつは要らねえ。とっとと失せろ、目障りだ』


 最強の傭兵団、『赤い翼』。

 主義信条を捨て、ひたすらに戦争で金を稼ぐ真の目的は、誰も戦わないで済む平和な国を建てる事。

 その団長、アルフレッド・サージェント。

 巨大な斧で戦場に君臨する、最強の傭兵。そして、俺の育ての親。

 あいつらとはこうして別れた。別の道を歩む事にした。

 今でもよく思い出す。夢に見る。


 今も丁度――同じ夢を見ていた。

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