銀狼姫将軍はお義父さんと仲良くなりた過ぎて

西紀貫之

銀狼姫将軍はお義父さんと仲良くなりた過ぎて

第一回四天王他裏会議(緊急招集)

幕間1『ご褒美を与えねばならんな』

 戦争が終わった。


 死ぬ者が少なくなるにつれ兵士はそれを実感し、糧が目減りしなくなるにつれて民たちはそれを痛感するようになった。

 獣人国ケモフルールが異次元からの魔神軍を退け、実に二年が経過した頃合いだった。


「功労者である四天王には褒美を取らせねば成るまいな」


 ケモフルール女王フェンリ三世は、ようやく国庫が潤いを取り戻し始めたその時期に、祝賀の宴を念頭に、ふとそんなことを考えていた。四天王のことを考える女王の金の尻尾は迷うようにふるんふるんと揺れているが、執務机についた肘が上がり、ふとペンを執る。

 すぐさま脇に控えていた侍女が構想をまとめるための雑記帳を「ささ、女王さま」差し挟んでくる。


「炎将――大熊のブラベア」

「水将――神龍のティエン」

「陸将――豪猪のジレイン」

「空将――鳳凰のフェイニ」


 雑記帳の中央に四人の名前が書かれていく。

「ん~」


 ブラベアは大熊属の女傑で、額に三日月の傷跡を持つ歴戦の勇者。故郷の山が蹂躙されていたが、その復興と領地の権利を与えようと女王は追記する。


「壊したあとは」


 ティエンは沈着冷静な水の精霊を祖とする龍の末裔で、大いなる巫女。瘴気で汚れた水源の管理を任せたいが、それでは褒美にならぬのではと一考を余儀なくされる。


「なおさないとね~」


 ジレインは軍そのものをまとめ上げる気配りの将軍で、前線にも我先に立つ英傑。眼鏡がよく似合う美人でプライベートがやや大人しいので、ゆっくりできる余暇と金員でも大いに与えようかと考える。


「とはいえ」


 フェイニは空の覇者で、ともすれば大熊のブラベアと衝突するのは、同じく炎の素養を身に宿しているからだろう。皮肉屋だが流通と通信に多いな関心があるようで、その実権を与えるのも面白そうだ。


「彼女をどうするかだよねえ」


 そして四天王の名前を囲って、その上にペンを走らせる。


「姫将――銀狼のキャロライン。キャロにもご褒美を与えねばならんな」


 国の最奥、秘中の秘、四天王を束ねる影の番長が銀狼姫将軍キャロラインだった。魔を払い乱を治める絶対的な神格を発揮しうる、伝説の銀狼。その末裔たる若き女傑。

 異次元魔神に知られれば真っ先に命を狙われるであろう、魔に対する攻守の要。終戦の立役者たる彼女にも、褒美は与えねばならない。

 身分故、内密に。


「悩むなあ。彼女を招聘してこっち、戦うことしか教えてこなかったからなあ。……侍女よ、なにか妙案はあるかね。金や領地ではあの姫将軍は笑顔にならんだろう」

「そうですねえ」


 侍女が指立てて「妙案がございます」と進言するや、女王フェンリは膝を叩いて三度大きく頷く。


「実に妙案、それでいこう! 存分に計らえ」

「では」


 一礼して侍女は執務室を後にする。

 それを見送るや、フェンリは肩越しに窓の外を、遠き空の果てを見る。


「結界解除まで、あと二週間か」


 獣人国ケモフルールが魔神の侵入を許すも、近隣各国にこれを流入させまいと張った結界。入ることはできても出ること能わぬ、二十年前に先代銀狼の遺した超越の呪術だ。

 戦が終わり、結界の解除が決まり、やがてケモフルールにも他国のひとが行き交う活気が取り戻されるであろう。


「喜んでくれるだろうか、キャロのやつ。これで少しでも私を許してくれたらいいなあ……」


 これが実にキャロラインが褒美の内容を聞き、十年ぶりに舞い上がる気持ちになる二時間前の出来事やりとりであった。

 雑記帳に書かれた彼女の名前のそばには、ひとつ、『お義父さんと再会』と書かれている。

 平和になったケモフルールに於ける、影の大戦の、これが静かな始まりとも知らずに。

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