VOL.3

 俺はまず、彼女の通っていた大学の友人を当たってみた。

 彼女は都内にある某四年制の私立大学の2年生、大学としてはそれほど悪くはな い。

 まあ中くらいと言って良いだろう。

 友人たちの証言は皆どれも大差のないものだった。

『成績は上の中ほどくらい。大人しくて口数が少ないが、決して暗いというわけではない。ただ気になることがあるとすれば、最近妙に金に困っていた節があった』誰に聞いてもそんな答えが返ってきた。

 そんな時、或る一人の友人(男子である)から、彼女を新宿で見かけたという。

 それも、新宿は歌舞伎町の、お世辞にも『上等』とは言えない呑み屋の前でだという。

 しかも、彼女らしくない派手な服装に派手な化粧をしていたのだそうだ。

 新宿、といえば俺の庭のようなもんである。

 目と鼻の先にいながら存在に気が付かなかったというのは失格だな。

 そこまで分かれば、後はさほどの苦労はいらなかった。

 情報源を頼って、彼女の働いているという『店』を突き止めた。

 確かにそこは噂通り、

『上等』ではない類の店だった。

 見てくれは普通のバーなのだが、中にいるバーテンにある『合言葉』を告げ、それなりの『モノ』を渡せば、そこで好みの女の子を紹介してくれるという訳だ。

 え?

 どこで調べたかだって?

『情報源の秘匿』って言葉を知らんかね?

 まあいい。 

 そこまで分かったんだ。これは乗り込むより他はないだろう。


 3日後、その日も雪が降っていた。

 歌舞伎町の裏町といえば、凡そどんなところであるか、察しの良い方は直ぐに想像がつくと思う。

 俺は初めて来た客を装ってぶらついていると、案の定ネズミみたいな顔をした小男が俺に声をかけてきた。

(呑み代5千円ポッキリ、『今日は寒いねぇ』って合言葉を言って、余分に1万円出せば特別サービス付きですよ)

 彼は相言った。

 俺は如何にも鼻の下の長いスケベ親父を装い、店に入っていった。

 店はある古びた貸しビルの一階である。

 確かに見かけはただのバーだが・・・・中に入ると安っぽいイージーリスニングが流れ、間接照明ではっきりとは分からないが、内装もお世辞にもパッとしない。

 ゴキブリが這っていないのが不思議なくらいだ。

 俺はカウンターに座りながら、店の中を見回す。

 隅のボックス席に、ネズミ男と同じく人相のよろしくない三人連れが座っていて、俺が入ってくると、一斉に胡散臭そうな目つきを向けた。

 一人は頬に傷のある痩せた男。

 もう一人は小太りで無精ひげを生やしている。

 最後の一人はガタイだけはいい。

『何にします?』

『ビール』

 俺が答えると、ビンとコップを出してきて、目の前に置いた。

 手酌で一杯、コップに注いで軽く口を付けてから、

『兄さん、今日は寒いねぇ』

 俺はわざとらしくバーテンに囁いた。





 

 

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