第30話 検証?

                    by Sakura-shougen


 10分も走らない内にシンディが言った。


 「 あ、左手にモーテルがあるわ。

   あそこに入って。」


 「 え、あの、昼日中からモーテルなの?

   廻りから変な目で見られるよ。」


 「 ええ、大丈夫よ。

   この辺に私達を知っている人がいるとは思えないわ。」


 車は急激に速力を落とし道路を横断するようにして、モーテルの敷地内に走り込んだ。

 シンディは背後の座席からハーフコートとハンドバックを取り出し、ハンドバックから大きなサングラスを取り出して、掛けてから車を降りた。


 大きなトンボルックのサングラスであり、表面に特殊加工が施してあるため、外側からは銀色に見えるだけのレンズは、目の周囲のかなりの部分を隠してくれるので、顔を知られないためによく使われる小道具である。

 サムエルも運転中サングラスをかけていたのでそのままの格好で車を降りた。


 管理人室に行き、部屋を借りた。

 管理人の背後にあるキーボックスを見る限り、がらがらの様である。


 管理人は、3時間30レムル、泊まりで60レムルと事務的な口調で行った。

 サムエルが三時間と言って30レムルを出した。


 無愛想な管理人は、キーボックスから鍵を取り、107号室とだけ言った。

 宿帳に名前を書けとも言わない。


 随分と横着な管理人である。

 サムエルがキーを預かって管理人室を出た。


 二人揃って、107号室に入る。

 入った途端、サムエルは人差し指を唇に当てた。


 声を出すなということであろう。

 サムエルが部屋のあちらこちらを探していた。


 部屋には特大のベッドが一つ、丸テーブルに椅子が二つ、小さな冷蔵庫、DV装置に内線用電話機、壁は薄汚れており、余り綺麗な雰囲気ではない。

 それでもシーツと枕カバーなどベッド用品だけは綺麗にされている。


 所謂セックスだけのために借りる部屋なのであろう。

 シンディがこういったモーテルに入るのは勿論初めてである。

 ひょっとして、モーテルに誘うことで、サムエルに誤解され、ここで抱かれるような嵌めになるならそれでもいいと言う気持ちは少なからずあった。


 「 椅子にでも座って話をするかい。」


 シンディが腰を降ろしながら言った。


 「 一体何を探していたの?」


 「 あぁ、管理人の趣味だろうけれど、この部屋に盗聴器が4個、隠しカメラが2

  個有った。」


 「 あら、じゃぁ、ここも安心じゃないの。」


 「 いや、大丈夫だよ。

   全部壊しといたから機能はしない。」


 「 何だか、二人きりでこんな部屋にいると変な感じね。

   早いところ用事を済ましてしまいましょうね。

   サムの家の方が良かったわ。」


 「 まぁね、で、何をさせたいの?」


 「 うーん、そうね、三つ一度に言うわね。

   私が子供の頃、多分9歳の夏、両親に連れられて別荘に行ったの。

   別荘の近くにある他所の別荘にも家族で来ていたみたいで、そこの男の子と仲

  良くなって、ある場所で私のファーストキッスをしたの。

   恋と呼べるには程遠いただの幼い戯れだったと思う。

   でも、その男の子は今どうしているのかと言うことを調べてほしいの。

   それと私が中学生の頃かな?

   キャシー・ギャラガーさんと言う大学生の方に随分とお世話になった事が有る

  のだけれど、彼女が今どうしているのかを調べて欲しい。

   もう一つ、子供の頃可愛がっていた犬がいるの。

   マベリアルの白い犬よ。

   マーブと言う名をつけたの。

   できたらもう一度会わせて欲しい。

   この三つよ。

   どうできる?

   私の魔法使いさん。」


 向かい合った席に座ったサムエルが綺麗な青い瞳をシンディに向けている。

 その色合いがとても綺麗だった。

 まともに瞳を交わし合うのはこれが初めてかもしれない。


 「 シンディ、勘違いをしてはいけない。

   僕は神様じゃないからね。

   死んだものは生き返らせることはできないよ。

   だから、三つ目のマーブの話は無しだ。

   それと、二つ目の話は超能力に関係なくわかる。

   ゴアラ特殊製鋼に関わる前の事件が、キャシー・ギャラガーさんに関わる事件

  だった。

   君も探偵社の従業員の一人だから話す。

   但し、このことは個人の秘密にかかわることだから一切他言は無用だ。

   いいね。」


 サムエルはそう念を押してから話し始めた。


 「 彼女は、10年程前に大学から犯罪組織に拉致されて、人身売買でブラウダの

  王族に売られた。

   王宮のハーレムに捕われの身となって、王族の一員の妾にされたんだ。

   その後、身ごもって、女の子を産んだ。

   事務所を開設して初めての依頼がキャシーの両親の依頼だった。

   行方不明になった娘さんのキャシーを探して欲しいと言う依頼だった。

   で、僕が調査を始めてから10日ほど掛かって、キャシーと彼女の産んだ娘さ

  んをブラウダから無事に連れ戻したことがある。

   その間の出来事は、いずれ話せる日が有るかもしれないが、今の段階では君に

  も詳しい話はできない。

   いずれにせよ、彼女がブラウダのハーレムから合法的に抜け出してきたわけで

  はないし、ブラウダは未だに封建的な国家だから王族の恥を公表されることを恐

  れて闇の組織が動きだしても困る。

   だから、彼女の生還はマスコミには一切公表されていない。

   その辺の判断と措置は政府機関がキャシーの両親と協議しながら行っているの

  で僕には何もできない。

   ただ、キャシーはその娘さんと今は幸せに暮らしているよ。

   キャシーの娘さんには正式にアフォリアの国籍も与えられた。」


 「 そう、キャシーさん、無事にお帰りになったのですね。

   私も消息不明のことは知っていたけれど、無事に戻ったことは知らなかった

  わ。

   本当に良かったわ。

   でも、その救出にサムが関わっていたなんて、何も記録が無かったようだけれ

  ど?」


 「 ああ、まぁね。

   余り公表できる事件じゃないので、ファイルは全て暗号化したファイルになっ

  ている。

   僕以外には開けないファイルだよ。

   ハードコピーで残っているものはほとんどない筈だ。」


 「 サム、ひょっとして他にもそんな事件があるのかしら?」


 「 今のところは一件だけだね。

   その後は君の御父さんの依頼だから、その結末も知っているだろうし、もう一

  件の方も知っているね。」


 「 あ、カーマイケルの事件ね。」


 「 そういうこと。

   別に隠していたわけじゃないが依頼人の事情によっては秘密にせざるをえない

  ものもあるんだ。」


 シンディは頷いた。


 「 それと、君の依頼の一つ目の件だけれど、ちょっと時間をくれるかい。

   調べるのに時間がかかりそうだ。」


 サムエルは20分近くも目を瞑って瞑想しているようだった。

 やがて目を開いて言った。


 「 君とファーストキッスをした男の子かどうかはわからない。

   名前を確認したいんだが、レイノルズ・クラウドかい?」


 「 ええ、彼はレイノルズと呼ばれていたわ。」


 「 そうか・・・。

   残念だが、彼は2年前に交通事故で亡くなっている。

   フォーリン大学の三年生だった。」


 「 サム、どうして彼がレイノルズとわかったの。


 貴方にこの話をしたことはないわ。」


 「 あぁ、そうだね。

   僕も聞いた覚えはない。

   君の御父さんが持っていた別荘から探り当てた。

   その近隣の別荘で君と同じぐらいの男の子が一人だけいるのは、クラウド家だ

  けだった。

   それ以外にも、周辺の別荘の持ち主で君と同じぐらいの年齢の男の子がいる家

  を探ったが、ロベルト・バンターと言う男の子には君の記憶が無かった。

   だから該当するのはレイノルズだけだったんでね。

   だがレイノルズは既に死亡しているから、君とキスをした男の子かどうか確認

  が取れなかったんだ。」


 「 あの、・・・。

   今、君の記憶って言ったけれど、私の聞き違いかしら?」


 「 いや、間違いないよ。ロベルトという男性の意識を探って君の記憶がないかど

  うかを確認したと言ったんだ。」


 「 あの、・・・。ここに座ったままで、他所の場所にいる人の記憶を探ったと言

  うの?

   それに、サムがそのロベルトって言う人を知っているとは、到底思えないけれ

  ど・・・。」


 サムエルは頷いた。


 「 確かに、これまでに会った事のない人物だね。

   今後も合うことはないだろうと思うけれど・・・。」


 「 じゃ、私の意識や記憶も探れると言うこと?」


 「 いや、君の意識は探れない。

   君自身が心にバリアーを持っているからね。

   他の人の意識は読めても君の意識は読めないんだ。

   だから、君には超能力が有ると言った。」


 「 うーん、三つの依頼のうち、二つは意味をなさなかった。

   それに、貴方がどこかでレイノルズにあって、たまたまそれを聞いていたと言

  う万が一の偶然も有り得るわ。

   だから、サム。何でもいいから、絶対に普通の人ではできないことを二つ私に

  見せて。

   そうしたら貴方の言うことを信用する。」


 サムエルは肩をすくめて見せた。

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