プロヴィティ世界のサムエル
@Sakura-shougen
第一章 若き探偵
第1話 探偵事務所
新たにアルカンディア風雲録外伝-3の投稿を始めます。
他の外伝等は、「アルカンディア風雲録」で検索すれば見つけられると存じますので、宜しければご一読下されればさいわいです。
by Sakura-shougen
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プロヴィティ世界の北半球にあるゲール大陸は、最近の研究で人類発祥の地ではないかと言われている。
そのほぼ中央部に広い領域を持っている国がアフォリアである。
その、アフォリア国の首都、キレイン中心街に聳え立つ32階建ての高層オフィスビルの一室は、間取りが中途半端であった。
3階の奥まったところに在る部屋で、ビルの南西端に位置し、幅が7リム、奥行きが22リムほどの細長い形状をしている。
ビルの西側にはアフォリア王宮があるため、所管する役所から設計段階で3階以上の部屋には西側に窓や非常口を造ることは禁止されている。
アフォリアには象徴的存在として、かつてのような絶対王権を持たない国王がおり、国家の元首として未だにその威光は残っている。
その元首の住まいが王宮であり、王宮を上から覗き込むようなことは禁止されているのである。
従ってフライオン・ビル以外の高層ビルでも、王宮が臨める位置にあるビルは、その全てが王宮の方角には窓が無いのである。
但し、王宮には高い城壁が残っているために、2階あるいは高さが10リムまでは窓が許されている。
いずれにせよ、西側に窓が無いと言うことは高層ビルの眺望も売りの一つである以上、オーナーにとっては頭の痛い話ではあった。
この特殊事情により、このビルの西側には窓が無く、件の中途半端な間取りの部屋には、壁際に比較的容量の小さな4つの倉庫スペースが並んでいる。
従って、3階のこの部屋には、一番奥になる南側に窓があるだけで、細長い分どうしても内部への採光は十分とは言えない。
その南西端のオフィス・スペースには、無理に押し込めば30人分の机と椅子も入るであろうが、その場合はおそらく人の移動さえもままならなくなるだろう。
結局のところ、来客用のスペース、書棚その他の事務機器のスペースを考えると、精々10人分程度の事務室にしかならないのである。
或いは歯科医などの個人営業なら相応に使えそうなスペースではあるが、一方で採光が悪い分、そうした個人事業主は敬遠してしまう。
その結果、地下鉄やバス停に近いなどビルの地の利は良かったものの、この部屋だけは、このビルが開所以来3年も借り手が現れず、管理会社の倉庫代わりに使用されていた。
当初は、一般オフィス用にかなり広く設計され、現状の4倍近い幅で造られる予定であったのだが、最初の入居者である大手商社ヴェスト商事の注文で元々数倍の広さがあった部屋の仕切りが建設途中で変更され、非常に手狭な一室が出来上がってしまったのである。
家主は何とかヴェスト商事に対して、この狭隘な部屋までスペースを広げて貰えないかと賃貸料を下げてまで折衝したのだが、ヴェスト商事の担当者は、非常に四角定規の性格であり、必要以上の広さは不要と言って断ったのである。
ヴェスト商事は、フライオン・ビルの2階から7階、更に33階から最上階までも占有する上得意先であるため、ある意味で非情な要求にもオーナーは応えざるを得なかったのである。
かくして奇妙な細長いオフィス・スペースができ上がり、そのまま取り残されてしまっていた。
アフォリアでも名だたる有名会社がひしめくビルであり、これほど幅が狭く使いにくい部屋にテナントが入る筈もなかった。
ビルのオーナーは、半ばテナントの入居を諦めていた。
既に1年前から、それまで小規模ではあるが継続していた入居者募集の広告も止めている。
そこへ、何処で知ったのか、若い男が1階の管理事務所を訪れて、その空き室を借りたいと申し入れてきたのである。
管理会社としては、棚から牡丹餅の話であり、2割引きの値段でその申し出を受けたのである。
もっともキレイン中心街の一等地にある貸しビルであるから2割引きとは言っても、かなり割高である。
件の男は、二つ返事でその値段に応じ、1年分の賃貸料を即金で支払った。
男は、受付の若い女性が思わず見とれるほどハンサムでスタイルも抜群であった。
男は、サムエル・シュレイダーと名乗り、事務所の使用目的欄には「探偵社」と記入した。
こうして、キレインでもオフィスビルとしては有名なフライオン・ビルの3階の片隅に何となく場違いなシュレイダー探偵事務所が発足した。
契約から最初の五日は内装の手直しと若干の事務用機器の設置が行われた。
看板を掲げたからと言ってすぐにお客が来るわけではない。
通りに面した一階ならともかく、三階は目につきにくいからである。
ましてその探偵事務所はさして大きな看板を掲げているわけではない。
他の入居者と同様に正面ロビーの入居者の銘板以外には、ビルの角に比較的小さな入居者表示の看板が出ているだけであった。
その探偵事務所に初めての客が訪れたのは、実質的な事務所開設から3日後のことである。
フライオン・ビルの外側に出されている広告代わりの入居者表示を目ざとく見つけて訪れた客である。
身なりの良い初老の夫婦であった。
男はベンソン・ギャラガー、その妻はライラという。
ベンソンは、内側に大きく開いている扉をノックした。
扉の前にはパーティションがあって室内の視界を遮っている。
中から、「どうぞ中へお入りください。」という若々しい男の声が届いた。
パーティションの右手には、背丈の高いプランテーションが通路を遮っている。
パーティションの左手を回って中に入ると比較的大きな応接セットが二組在り、その奥に観葉植物のプランテーション棚が並べられ、更に奥に二つほど机があり、そのまた奥がパーティションで仕切られている。
机の上には、パソコンが置かれているだけで書類の類は一切置かれていない。
机の背後、パーティションの手前には、背丈の低い書類棚が並んでいるが、そのすべての蓋が閉じられており、探偵事務所というよりはどこかの会社の人事部を思い起こさせる雰囲気である。
一方の壁際に比較的大きな絵画が二枚かけられている。
美術商が見れば由緒ある絵画とわかるものだが、そうでない者が見ればただの風景画に過ぎないだろう。
ただ、その絵画が室内にあることで、周囲に優雅な落ち着きを与えていることがわかる。
いくつかのプランテーションが配置よく置かれているために、非常にすっきりとした清潔なイメージが浮かび上がってくるのだ。
ベンソンがこれまで訪れたことのある探偵事務所の雑然とした雰囲気とは随分と違っていた。
きちんとビジネス・スーツを着こなした若い男が応接セットのわきに立っていた。
その若い男が口を開いた。
「どのようなご用件でしょうか?
もし、内密な御用件でしたなら、奥に防音室がございますが、・・・。」
ベンソンが、その若い男の目を見ながら言った。
「あ、いえ、特に秘密を必要とするような要件ではありませんが、・・・。
それでも、調査結果によっては他人に知られないほうがいいかもしれません。」
「そうですか。では、どうぞこちらへ。」
若い男はそう言って、パーティションで区切られた奥の区画へ案内した。
パーティションで区切られた区画は、天井及び周囲の壁面を全てガラスで囲んだ特別な部屋であるようだ。
そうしてこの部屋のまだ奥があるようであり、通路の先にアコーディオン・カーテンがみえた。
これほど細長い部屋なのに窓が一つも無い随分とおかしな造りだとベンソンは感じていた。
それでもかなりの数の天井灯が明るい白色光を投げかけているので照明は十分にある。
奥に向かって左側にはドアが4つあり、或いはそちらには窓があるのかもしれないと考えていた。
ベンソンはこのビルの西側に窓が配置できない事情などつゆほども考えなかったのである。
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2019年1月1日です。
明けましておめでとうございます。
今回は第7話まで連続投稿です。
以後、毎日一話を目途に頑張ります。
by Sakura-shougen
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