小説家になろう!~美咲サイド~

ひとひら

綴られるページ、そして……

小学校の高学年になってから、苛めに遭った。

ある女子のグループに目をつけられてしまったことが始まり……。

理由は嫉妬。

リーダー格の女子が好意を寄せている男子と、私が仲良く話をしていたというのが原因。

からかわれる、物がなくなる、ゴミを机の中に入れられる……。

私は担任の先生に相談した。

「クラスに苛めなんてありません。小島さんの被害妄想は止めなさい」

突き放された。


私は嫉妬の原因から逃れようと、その男子と話すのを止めた。

でも苛めは続いた。

私は男子全員と話すのを止めた。

それでも苛めはエスカレートして、他の子達もそれに加わった。

私は女子全員と話すのも止めた。

この頃には、見えない所にあざができるようになった。

気付けば私は、【人】ではなく、【物】になっていた。


私は皆と目が合わないように、下を向くことにした。

私は視界を遮るように、前髪を伸ばした。

私は表情が伝わらないように、地味で不格好な黒縁のめがねに変えた。

そうして、私が【出来上がった】……と、思っていた――。


中学校に上がってからは、苛めはなくなった。

けど、人と関わるのが怖かった。

もう、あんな思いはしたくない……。

だから私は、【出来上がった】私を喜んで受け入れた。

クラスの皆から、たとえ気味悪がられても……。


小学校で一緒だった子達は、ヒソヒソと皆に話す。

『皆、大丈夫。すぐに慣れるよ。私はただの【物】だから……』

そして、その通りになった――。


ある日の放課後、廊下を歩いていると、男子の声が遠く後ろの方から聞こえてきた。

『私には関係ない』

そう、思っていた……。


「おい!」


『!?』


いきなり、真後ろから声がしたかと思ったら、右の肩を掴まれ、強引に振り向かされる!?

私は驚きのあまり声も出せずに、その男子としっかりと目を合わせてしまった――!


『いけない!』


また苛められる!

またあの辛い日々が始まる!


……そう、思っていたら……、


「ほい♪ 落としもん!」

男子は、屈託のない笑顔で私が落としていたハンカチを差し出す。

「……」

私は自分でも気づかないうちに、差し出されたハンカチを受け取っていた……。

「じゃあな!」と言って、その男子は駆け出して行く。

私は、その男子の清々しい笑顔に、一瞬で心を奪われてしまった――。


それから、私はあの男子のことが頭から離れなかった。

学校にいる時も

塾で勉強している時も

寝る時も……


そして、学校の休み時間、いつものように席に着いて恋愛小説を読んでいると、ハッ! となる。

『お礼……言ってない』

でも、声をかける勇気なんてあるわけない。

『どうしよう……』

それでも私は、とにかくクラスを見て回ることにした。

『ぁ!?……いた!』

誰かを見ることがなくなっていた私は、緊張で胸が高鳴る……。

『……』

その日は、気持ちだけをそこに残して、回れ右をした――。


『なんとかしなくちゃ……』

あれからずっとその思いが募ったある日、どうしてもお礼を伝えたくて、下駄箱で待つことにした。

『ぁ!?……』

あの男子が、私の方へ歩いて来た!

下を向いたまま、「あの」と、声をかけた……つもりだった。

声が……声が出てなかった。

喉がギュッ! と塞がって、声に通せんぼしてる。

胸の間を「あの」が行ったり来たりしている間に、男子は通り過ぎて行ってしまった……。

そんな私のことを、隣を一緒に歩いていた女子が振り返りチラッと見た。

『彼女さん……かな?』

そういえば、クラスの前をそれとなく通り過ぎると、よく一緒にお話しているのを見かける。

綺麗な子だなって思った……。

歩く度に、背中の辺りで遊ぶように流れる艶のある黒髪が、整った顔立ちを一層、映えさせていた。

それに、嫌な感じが全然しない。

『もしかして、私のこと、【物】じゃないように見えたのかな?』

そんなふうに思った――。


それからも、私はあの男子を見かける度に声をかけようとしたけど、結局、全然ダメだった。

待ち伏せしてもみたけど、声が出ないから素通りされてしまう…。

それでも、私はあの男子のことが気になってる……。


あの男子は、いつも誰かと仲良くお話してる。

いつしか、『私もあの男子とお話できるようになりたいな』って、思うようになってた。

でも実は、私の頭の中では、いつも楽しくあの男子とお話をしていた。

そう、いつも一緒にいる、あの【綺麗な子】が私って想像しながら――。


そして、名前を知る機会がやってきた!

いつものように下駄箱で待っていようとしたら、あの男子は、外履きに履き替えて帰って行くところだった。

私はその後姿を見送ったあと、少し罪悪感を覚えながら、その場所を覗き見た……

そこには、【桜井】と書かれてあった。

『さくらい君でいいんだよね!? でも、おうい君だったらどうしよう!? もしかして、もっと違う呼び方!?!?』

私は結局、さくらい君ということにしておこうと決める。

そして、心の中で呼びかけてみる――

『桜井君……』

頬が熱くなる…

心臓のドクドクという音が聞こえる……

桜井君が目の前にいる訳じゃないのに、どうしてだろう。

そしてその事よりも、『このままじゃ、お礼も言えない!』

そう思った――。


学年が上がり、クラスも変わった。

私に人生最大の幸運が訪れた!

生まれて来て良かった……

お父さん、お母さん、ありがとう…。


まるで夢のよう。

そう!

桜井君と同じクラスになれた!!

そして、一緒にいるところをよく見かける、あの【綺麗な子】もいた。

明るく皆と楽しそうに話す【綺麗な子】。

私とは大違いの素敵な子。

『あんなふうになれたら……』

私は心の中が憧れで一杯になった。

『あの【綺麗な子】と仲良くなれたら、お礼、言えるチャンス来るかな?』


『…』


『……』


『………!』


私は席を立ちあがり、震える足を前に引きずり出しながら向かう…

数人の女子に囲まれながら、席に座って楽しそうにお喋りしている、あの【綺麗な子】のところに……。


【綺麗な子】は、私に気付くと「?」という表情で私を見上げた。

周りの女子は気味悪がって、一歩、後ずさる。

『また、あの頃に戻ったらどうしよう……』

私は、気付けば全身も震えていた。


小学校の記憶が、まるで昨日の事のように鮮明に蘇る――


「何あのブス。自分がカワイイとか思ってんじゃないの!?」

私に聞こえるように話す、女子の声――

「クラスに苛めなんてありません。小島さんの被害妄想は止めなさい」

耳元で、先生の声が大きくなっていく――

「次、俺にもやらせろよ!」

ぶたれてもいないのに、体中に痛みが走る――

皆が私の事をどうやって苛めようか、楽しそうに歪んだ顔で迫って来る!


コワイ!

コワイ!!

コワイ!!!


――走って逃げ出そうと、私は片方の足を浮かせた。


すると、


――あの男子の笑顔が浮かんできた――


そう、桜井君の笑顔が……。


『……!』


私は浮かせた足を無理やりに戻して、手の平に爪が食い込むほど強く握りしめながら、喉をこじ開けて声を絞り出す――!


そして、目の前にいる【綺麗な子】に、お願いをした――


「ぁ…ぁの…と、友達になってくださぃ!」


けど――、


ぁぁ、情けなぃ。

声が、小さ過ぎる。

これじゃ、聞こえない…、

これじゃ、届かない……。


私は結局、ただの【物】。

【人】じゃないんだから声なんか出るわけない。

届くわけなんかない。

『もう、止めよう……』

そう思って諦めかけた、その時……、


「友達? うん! なろう!! あたし、長瀬千尋♪ あなたは?」


『!?』


驚いた。

私の言の葉が、【綺麗な子】に届いていた。

あんなひ弱で貧弱な声だったのに……

【綺麗な子】は、受け留めてくれた。

私が何を伝えようとしたのか、真剣に考えて答えてくれた!


――嬉しかった。


そして、同じ表情だった。

桜井君の、あの時の表情と同じ……。

皆から【物】として扱われた私なのに。

先生からも見放された私なのに。


私はこの後、精一杯、自己紹介をした――。


こうして【綺麗な子】、千尋ちゃんは友達になってくれた!

その後、千尋ちゃんと桜井君が幼馴染であるということを知った。

そして、千尋ちゃんは、桜井君のことが大好きなんだということに気付いた――。


高校に進学して、千尋ちゃんと桜井君とは別々の学校になった。

桜井君とは、結局、何度か千尋ちゃんを交えて数回言葉を交わしただけで終わっていた。

それでも、私にしては進歩したと思ってるし、あの日々は忘れられない。

だって、学校に行けば【お友達】の千尋ちゃんと会えるし、そして、同じクラスに桜井君がいて、いつでも姿が見れて声が聞こえる……。

それに、あれから前髪も切ることができた!

でも、まだお礼が言えてないのが、やっぱり心残りになってる……。

この一年ぐらい、『会えないかな?』と思って、商店街をウロウロしたり、二人の学校の前を通ったりもした。


そんな日曜日……。

いつものように無駄な期待も込めて、駅前のハンバーガーショップに来ていた。

そろそろ帰ろうと、トレーを片付けていた、その時、

『あ!?』

桜井君と千尋ちゃんがいた!

楽しそうにお喋りしてるところだった。


『…』


『……』


『………!』


覚悟を決めて二人のところへ!

私は、その素敵な空間に割って入り、「千尋ちゃん?」と、声をかけた。

千尋ちゃんと桜井君が同時に振り向く。

まだ千尋ちゃんとか、仲良くなった人としかまともに話せなかったので、桜井君がこちらを向いたことに、条件反射でつい下を向いてしまう……。


「美咲ちゃん! 久しぶり! 元気だった!? 今日はどうしたの? 誰かと一緒?」

「ぁ、ぅん。 お昼ついでに勉強しよっかなって思って……1人だよ」

「へー、そうなんだ! 偉いね!」

というやりとりから、

「とりあえずこっち座って♪」

「ぁ!? ぅ…ぅん」

千尋ちゃんが、フワッ♪と腰を浮かして、奥にずれてくれた。

そうすると、さっきまで顔の見えなかった座面が、「座るの?」という、ややふて腐れた感じで席が空く。

ここに腰かけると、桜井君が目の前……。

クラクラしていると、千尋ちゃんがスッと優しく私の腕に触れ、間違えようのない軌道で座らせてくれた――。


「桜井♪ 覚えてるでしょ? 美咲ちゃん!」

「お、覚えてるに決まってんじゃん♪(汗)」

『桜井君が、私のことを憶えてくれている!』

私はその言葉に、体重というものが何処かへ出かけていくのを感じた。

「美咲ちゃんも、覚えてるよね~?」

「!? ぅ…ぅん……」

出かけたはずの体重は、私よりインドア派だったようで、直ぐに「ただ今」と戻って来てしまう…。

その所為か、私はいつもより余計にオドオドした。

紅潮がとまらない――。


それから三人で少しお話した後、暫く千尋ちゃんとのやり取りを楽しんでいた。

その間も、桜井君が目の前にいることに胸の高鳴りが止まらなかった……。

私は二人と離れたからなのか、成長したからなのか分からなかったけれど、桜井君に対して、トラウマから緊張して顔が熱くなったり、心臓がドクドクする訳じゃないのかもしれないと思うようになっていた。

恋愛は、小説としてのただの読み物で、私には関係ないと思っていたから……。


そんな中、桜井君の視線が千尋ちゃんも気になったようで、桜井君の方をどちらからともなく向く…。

私の方は、直ぐに下を向いてしまったけれど……顔がアツイ……。


「なによ?」

千尋ちゃんが、怪訝そうな声を出す。

「ん? 小島って可愛い顔してんだなと思って。なんなら、めがねやめてコンタクトにでもしたらいいんじゃねーの?」


『………………………………』


あれ?

今の、日本語だよね?

どうやら、遠おおおくの方で、桜井君の声がしているみたい。

『多分、私に何か言ってるんだから、お返事しなくちゃ』

「●∥■ДИ◆£…」

『うん。自分でも何言ってるかわかんない』

思考回路が破綻してしまった私は、『どうしたら修復できるのかな?』と、働かない頭で考える。

そうすると、「小島にとって話にくい相手なんだろうし、嫌ってるかもしれないのに悪かった。ごめん」という、桜井君の言葉がポンッ! と入ってきた――


「そんなことない!」


私はバンッ!と、テーブルを叩きつけながら、驚いて仰け反る桜井君に迫る!


…………


桜井君の顔が、目の前。

が…合ってる……』

私は自分の行動とその結果に、只々、頭が真っ白になった。

それでも、『なんとかしなくちゃ!』、そう思って、一生懸命考えてみる。

真っ白い頭の中では、向こうの方から、黒い何かがふいに浮かんで見えた。

そして、その黒い何かは、徐々に近づいてくる…。

『ぁ、見えた……』

形のはっきりしたその何かは、それでも大きさを増すように近づいてきて、はっきりと私に答えをもたらしてくれた。

それは二文字だった。

そう、その二文字は……《逃走》。

私はその二文字に、素直に従ってしまう!?


「ちっ!? 千幌ちゃん……。わたす用づ思い出しちゃったから…か、かっ、カェルね!」


『ちゃんと言えてない(泣)』


それでも私はポシェットと勉強道具を無意識に抱え込んで、猛スピードで逃げ出した!

千尋ちゃんの「あ、美咲ちゃん!」という声が、後ろから聞こえるような気がした――。


猛スピードで逃げ出した後、どこをどう走ったのか全く覚えていなかった。

息を切らして前屈みになりながら、やっと立ち止まる。

「やっちゃった……」

私はまた自己嫌悪に陥る。

『なんでちゃんとできないんだろう……』

いざとなると、直ぐに慌てる、そして逃げ出す……

『しっかりしなきゃ……』

そう思いながら、息を整えているのか、溜息なのかは分からなかったけど、はぁ~、と、ひと息ついて顔を上げた……すると、

「ぁ…」

気付けば、コンタクト販売店さんの前に立っていた。

宣伝ののぼりには、【輝き…それは、瞳から】だった。

〈小島って可愛い顔してんだなと思って。なんなら、めがねやめてコンタクトにでもしたらいいんじゃねーの?〉

〈コンタクトにでもしたらいいんじゃねーの?〉

〈可愛い顔してんだなと思って〉

〈いいんじゃねーの?いいんじゃねーの?いいんじゃねーの?――――〉

桜井君の言葉が、エンドレスで頭の隅々にまで響き渡る。


『……』


ポシェットの中を確認する。

保険証…ある。

『…………ヨシ!』

私は一歩、踏み出した――。


夕暮れに近づく住宅街の一角。

私は、桜井君が通りそうな下校路の電柱の隣で佇んでいた。

ちなみに、三日目。

人影が見えてきた。

……桜井君だ!

『どうしよう!?』

つい下を向いてしまう…

『声かけなきゃ!』

いざとなると、やっぱり勇気が出ない……

それでも、私は懸命に顔を上げて声をかけた!

「ぁ、ぁの!?」

早過ぎた!

も、もう一回…………

「ぁ、ぁの!?」

間違いなく聞こえてない(涙)。

桜井君は、そのまま通り過ぎてしまった…。


『!』

後ろを付いて行く!

「ぁの…」

ツカツカ。

「ぁ、ぁの……」

ツカツカツカツカ。

「あっ!?…の……」


やっぱりダメだ……と、思ったその時!

「ん? オレ?」

振り向いてくれた!

「ぁ、ぁの。こんにちは…」

「はい、こんにちは」

『声大きく!』

「…ぁ、あの…桜井君、今帰り?」

「……」

「…」

「……」

「…」

「……誰?」


『エーーーーーッ!?』


いろんな展開を予想していたけど、これは考えてなかった!

『どうしよう、どうしよう、どうしよう!?』

予想外過ぎて、慌てることしかできない!

『でも美咲! 逃げちゃダメ!!』

それだけを誓いながらアタフタしていると、私のその態度に何処か見覚えがあったのか、「もしかして……小島?」と声をかけてくれた。

「ぅ!? うん!」

『良かったぁ……』

「おー!? 制服でわかんなかったぞ~。いかにも進学校って感じの制服だな♪」

「そ、そうかな?」

「うん! それに……」

桜井君の声のトーンが変わる。

「小島、 お前……」

「?」

「さっきのとこで、めがね落としたのか!?」

「!?、違うよ!」

「…修理に出したのか?」

『そうよ! めがねかけてなくちゃ、わからなくて当然よね!』

「コ! ?…コンタクトに して み たの…」

私は視線を、ほんの少~しだけ、合わせた……


『倒れちゃダメ!』


一瞬、気が遠くなってしまいました(汗)。


「へ~、思い切ったなぁ! 小島のアイデンティティみたいなもんだったのになー」

「ぇ!? ぅ、ぅん……。コンタクト、似合わなかったかな?」

少し過(よ)ぎるものがあったけど、『気にすることなんてない』、そう思った。

それに、この時は気付かなかったけど、カラーでもないのに、コンタクトが似合うかどうかって、桜井君に難題を出してしまっていたわけだし(汗)。

「(汗)…す、凄くいいんじゃないか? 後は、自信持って顔あげるだけだな♪」

『や…ヤッタ…………』

私は嬉しさの余り、頭から煙を出し始めているような気がした。

……ぁ、やっぱり出てるみたい。

その様子を桜井君は、心配そうに眺めていた――。


「帰り、こっちの方なのか?」

少し落ち着きを取り戻した私に、桜井君が会話の糸口を探してくれる。

「ぅ!?…ぅん…たまには違う道もいいかなーって…思って」

『ごめんなさい! 方向全然違います!!』

「へー、オレ帰り道こっちなんだけど、一緒に帰るか?」

「ぃっ!?……いいの?」

「勿論!」


その後、私は桜井君と一緒に歩いた。

夢だと思った。

桜井君のそば。

……幸せ。

一番書くことが少ない【幸せ】っていう字を、一生分書きたくなるほど幸せ!


一緒に歩いてる間、桜井君がいろいろと話しかけてくれた。

私は相槌を打つぐらいしか出来なくて申し訳なかったけど、同じ時間をこうして紡げることに、『夢でいいから覚めないで』、そう思った――。


「オレんちここ。んで、チ…長瀬の家がそれ」

そんなことを思っていたら、あっという間に辿り着いてしまった。

桜井君が道を挟んだ左右の家を指し示す。

急に、現実に引き戻されたような気分になった。

その家の距離に、少し、切なくなる……。

それに【チ】って、たまに学校で千尋ちゃんのことを【チー】って呼んで怒られてる【チ】…だよね?


「へぇ、初めて来たなぁ」

私はそんな自分の考えや感情に、少し嫌なものを感じて振り払うことにする。

「来たことなかったのか?」

「…うん。学校以外は、塾とかで忙しかったから……」

「へー。じゃ今度、長瀬の家にでも遊びに来いよ。オレんちでもいいけど」

「ホントッ!?」

「勿論!」


私の中で、祝!、というロケットが打ち上がった!

それと同時に、私はあることに気付いてしまう…。

『私、スゴク単純なんだな……』って(照)。


その後、桜井君とLINEの交換をすることになった!

もう、出来ることなら永遠に、この時間を繰り返していたい……


私は緊張と嬉しさで、手が震えてしまい、桜井君に登録してもらうことに(恥)。

スマホを返してもらう時、桜井君とちょっとだけ手が触れた。

『……』

私は反対の手で、感触が逃げないように直ぐに包み込む。

そして、それを大切に守りながら、家路に就いた――。


今日は商店街の本屋さんへ♪

私は本が好き♬

苛められた頃から、読書が唯一の楽しみになっていた。

その中でも、恋愛小説が大好き。

だって、恋愛は小説を読む限り、絶対に相手のことを【物】として見ていたらできないと思うから。

相手との心の距離を近くにしないとできないと思うから。

……だから好き♪


私は軽い足取りで、お気に入りの先生の新刊を求めて、いつものコーナーへ脇目も振らずに進む。

『……?』

どこかで見た後姿。

私が求める新刊があるはずの場所に、その人はいる。

私はどんどん近づいて行く……

そして丁度、その人は本に手を伸ばそうとした所だった。


「……桜井君?」

私は新刊の事で頭が一杯だった所為で、桜井君だと気付くのに遅れてしまった!

反省……(泣)。


「おー!? 小島かぁ…びっくりした~」

「ぁ!? ぅん…驚かせてごめんね」

シュンとなりかけた私だったけど、ふと、桜井君が手にしようとした本に目が移る。

「ぁ!? 桜井君も買いに来たの? 私もなんだー! 新刊出るの楽しみで(^^)。やっぱりこの先生の小説いいよねー♪」という所から、私一人でペラペラと喋り出してしまった――。


「もしかして、私、何か勘違いしてた!?」

どれくらい夢中で口を動かしていたんだろう。

気付けば桜井君は、笑顔のまま固まっていた(汗)。

「ごめん、小島。オレ、手に取ろうとしただけで何も知らないんだ」

「あ!? そ、そうだったんだ! 私こそごめんなさい。 一方的に話してしまって……」

「いや、小島の熱い語りを聞けて楽しかったよ♪」

『桜井君、優しい……倒れてもいいかな?……って、迷惑かけちゃダメ!』

私は後ろに傾きかけた体を無理やりに戻してお話を続ける!

「そ、そ…そうかな!? それならいいんだけど……でも、桜井君が恋愛小説に興味があるなんて思わなかったな!?」

そんな私の様子を見て、桜井君は少々、戸惑っているみたい……ゴメンナサイ(涙)。

それから、私は心の中で、『美咲! 目を合わせるの! 目!!』と、自分に言い聞かせる。

最近、必ず寝る前に鏡で目を合わせる練習をしていたので、その成果をここで発揮しようと頑張ってみる……けど……ウゥッ!? どうしても1秒未満になっちゃってる(泣)。


「実はさー、長瀬に恋愛小説書くって啖呵切っちゃったんだよなぁ…んで、引っ込み付かなくて、どうやって書いたらいいのか悩んでるとこなんだよ」

情けない自分に、心の中で溜息を付いていると、桜井君は胸が少し苦しくなるようなことを話し始めた……だけど、「そうなんだ。でも、書こうって思うなんて桜井君すごいね!」と、私は素直な気持ちを伝えた。

「いや、まぁ、言い切ってしまった手前な(笑)。んで、その為の参考にと思ったわけだ」

私は何か力になれないかなと思って、「それなら~」と、役に立ちそうな小説を手に取りながら、次々と説明を始めた――って、また一人で喋っちゃった(><)!


「ご、ごめんなさい!」

「いや、いいって(笑)。小島、相当詳しいんだな♪」

「ぇ!? く、詳しいかは分からないけど、読むのが好きだから……」と、気付けば長話になっていたので、先日のハンバーガーショップにでも行こうと桜井君からお誘いを受けた。

私は『心を強く!』と念じながら、熱い頬のままコクリと頷き、桜井君が新刊の購入を付き合ってくれたので、新刊も入手することができた。


…両手に花…アァ――。


そして、桜井君が目の前……

BGM や周りの喧噪もあるようだけど、まったく入ってこない(汗)。

とにかく落ち着こうと、ストローを口に寄せてコーラを含む。

それからシュワシュワを感じながらコクンとしようとしたら……

「小島は、恋愛ってなんだかわかるか?」

むせ返る!

「大、大丈夫か!?」

「だ!? だいじょうぶ……」

ポシェットから慌ててハンカチを取り出して、口元を拭う。

「悪い(汗)」

「ううん(^^)。 恋愛……。わ、私もよくわからないけど、多分、その人のことが気になったり、その人を見かけると、気付いたら目で追ってたり、もっとよく知りたいって思ったり、近くにいたいなって思ったり、その人と同じ時間を共有したいって思ったりすることなんじゃないかな?」

私は桜井君の質問に、精一杯応えたいと、思いつくままのことを話した。

すると……『あれ? 小説読んでわかったことっていうより、私の気持ちじゃない?』

自分で言っておいて、一瞬、キョトンとしてしまった。


「ふーん。やっぱりそんな感じか~」

「?」

私は会話に乗り遅れないように、気持ちをテーブルの上に置いた。

「長瀬も似たようなこと言ってたんだよなー」

「そう、なんだ……」

「なー、長瀬って中学の時もモテたのか?」

「そ、そうだね。私の知る限りでは、告白されたりしてたみたいだよ」

「んで、付き合ったことはあんの?」

「ん~、そういう話は聞いたことないなぁ……」

テーブルの上に覆い被さってくる桜井君の質問から逃げるように、私は勝手な【本題】に突然入る。

「さ……桜井君は、付き合ったことってあるの!?」

じっとしていられずに、汚れてもいないのに、ハンカチで気持ちを励ますように、テーブルを拭く。

すると、桜井君の視線を感じた……。

気になってチラッと確認すると、私の手……ううん、私のハンカチを見ていた。


『もしかして……』


気持ちが一歩、桜井君の方へと足を伸ばす。


「……桜井君、憶えてる?」

「そのハンカチか?」

「……うん」

「憶えてるっていうか、思い出した」


桜井君が微笑む。


心が高鳴る………


「……うん♪ あの、すっごく……すっごく遅くなったけど……」


あの時から、今日までの想いを込めて――


「ひろってくれて、ありがとうございました!」


私は桜井君の目を、真っ直ぐに見ることだけに意識を集中した。

そうすると、自然と笑顔になっていた!

……やっと、やっと伝えることができた!


そう、充足感に満ち溢れていると――


「どういたしまして!」


『!?』


桜井君が、あの時の笑顔で返してくれた……。

ううん! あの時より、もっと素敵な笑顔で!!


私はピリオドと共に、また新たな1ページが綴られていくのを心の中で強く感じた。

どんな結末になるかはわからない……。

それでもきっと、私にとって、とても大切なページ――。


それから、「何を話してたっけ?」ということになり、話題を手繰り寄せる(笑)。


「付き合ったことないなー」

『!?(♪)』

「す、すっ、好きな人っているのかな!?」

『肝心なところ!』

「にし○きばーさんと、J○か○ゆかと、ノチ○ダさん」

「ぇ!?……それって~」

私は分かったけど、桜井君の表情が『察しろ』と告げる……(汗)。

「じゃ、じゃー気になる人とかっているのかな!?」

「ア○ュー○の会長さん」

「……」

間違いない(困)。

「そういう質問って、流行りなのか?」

「どうして?」

「この間、長瀬もしてきたんだよ」

『!?』

千尋ちゃんの方も、『間違いない』、そう確信した――。


その後も少しお話をしてから、桜井君と私はお店の前で別れた。

今日はとっても大切な日になった!

そして心に思うこと、それは、『千尋ちゃんも、やっぱり……』


中学の頃の千尋ちゃんを思い出す。

桜井くんを見る目、声の雰囲気、そして表情。

「気持ちって、変わらないんだね」

気付かないうちに声に出していた――。


それから、『嫌われない程度はどれくらいだろう?』と、スマホの画面とにらめっこを繰り返しながら、私は桜井君とコミュニケーションを図るようにしていった。

一緒に下校したり、LINEのやり取りもした。

桜井君のLINEは暗号めいた内容だったので、後日、確認して解読できるようにもしていった。

そして私は、目を合わせて落ち着いて話すことに努めた――、

声も大きく出すように意識した――。


そんな桜井君との帰り道、

「?」

桜井君が後ろを振り返る。

「どうしたの?」

私も振り返る。

「いや、誰かいたような気がして……」

私は、桜井君が気にしている辺りに視線を送る…

「?、誰もいないよ?」

「……そうだな。行こう♪」

「うん♬」


そして、桜井君と私はまた歩き出した。

でも、私は、なんとなく気付いていた。

たぶん、千尋ちゃんだって……

今日だけじゃない――。


その日の夜。

ベットの上で枕を抱えて、私は考える。

「このままじゃ、よくない……」

私は千尋ちゃんにLINEをした。

「……」

良い判断かどうかわからない。

だけど、抜け駆けのように進めるのは違うと思った。

だって、千尋ちゃんがいたからこそ、今がある。

「……」

既読になった私のスマホの画面に、千尋ちゃんからのお返事は届かなかった――。


休日、私は千尋ちゃんとお話しようと覚悟を決めた。

千尋ちゃんのお家に向かう途中でLINEを送る。

……返事が来た。

もう一度、送る。

【実は、もう、お家の前に来ています】

千尋ちゃんは直ぐに出て来てくれた――。


私と千尋ちゃんは、道の真ん中で話し始める。

千尋ちゃんと桜井君のお家が、視界の両隅になんとなく映り込んだ。

「美咲ちゃん、どうしたの?」

千尋ちゃんは、硬い笑顔で私に話しかける。

「千尋ちゃんは、桜井くんのこと、好きだよね?」

私は、はっきりと聞いてみた。

「好き?」ではなく、「好きだよね?」と。

千尋ちゃんは狼狽えながら、「え!? ちょっと、何言ってんの!? そんなわけないじゃん! あたし達ただの幼馴染だよ!?」

私は少し間を置いて――

「それでいいの? ほんとにそれでいいの? 千尋ちゃん……?」と、千尋ちゃんを追い詰める……『苦しい』

「何わけわかんないこと言うの!? いくら美咲ちゃんだって冗談が過ぎるわよ!? そんなことどうでもいいでしょ!? あなたに何の関係があるのよ!?」

千尋ちゃんに謝りたかった。

私の気持ちが先走っている所為で無理矢理、引っ張り出してる。

『それでも…………!』

私はページを綴った。

「関係あるよ。だって、私は桜井君のことが好きだから」

千尋ちゃんの中を私の言葉が突き抜けていく。

「へ…へー、そうなんだ。それは良かったね! ヒロも喜ぶんじゃない?」

千尋ちゃんは、平静を装おうと必死だった。

だけど、桜井君のこと、私の前で【ヒロ】って呼んだことないよね?

そんな千尋ちゃんに、「私、桜井君の彼女になりたい」

魔女が呪文を唱えるように、私はトドメの一言を放って、千尋ちゃんの横を桜井君のお家の方からすり抜けた――


『なんで、なんであんなふうにしちゃったんだろ……』


自分の厭らしさに涙が出そうになった――


それから、私の想いとは逆行するように、桜井君と一緒に帰る機会がなくなり、LINEもどこかよそよそしい感じになっていった。

「桜井君……」

先日の千尋ちゃんとのことで、何かが動き出したんだと思った――。


そんなある日、午前中で授業が終わったので、桜井君達の学校の方に自然と足が向いた。

『ぁ、桜井君……』

校庭で体育の授業中だった。

バスケットをする桜井君がいた。

『?』

どこか上の空、トラックの方を気にしてる。


視線の先には――


『千尋ちゃん……』

明らかにやつれた様子の千尋ちゃんがいた。

そんな状態なのに、これから短距離を走る準備に入る。

スタートの合図と同時に駆け出す。

『速い…』

千尋ちゃんの走る姿は、それでも綺麗だった。

今でも、あの【綺麗な子】……ううん、あの頃よりもっと綺麗な女性ひと……

「あ!?」

そう思っていたら、千尋ちゃんが急によろけて転倒した!

「チーッ!」

声の方を見ると、桜井君が駆け出していた。

千尋ちゃんは、右足を押さえてしゃがみ込む。

先生や生徒さん達も近寄って様子を見ている。


『……ぁ!?』


桜井君は千尋ちゃんを背負い、歩き出した。

冷やかし声にも臆することなく、桜井君は力強く校舎へ向かって行く。

まるで、【チーは俺が守る】……そう言っているようだった。

そして、その背中には、恥ずかしがる赤い顔と、幸せに感じている紅い顔が、入り混じっていた――。


私は一人、桜井君のお家の方へと歩いていた。

桜井君のお家の前で立ち止まる。

千尋ちゃんのお家に向きを変える……


「見た目以上に、近かったんだね……」


私なんかが入る隙間なんて、全然なかった。

千尋ちゃんに憧れたから……、

桜井君だけを見てきたから……。


「なんで、もっと早く気付けなかったんだろうな」


傷つきたくなかったからとかではなく、そう思った――。


あれから二週間が経って、私は今、桜井君が下校するのを待っている。

夕暮れ時、車のライトが灯り始める…。


「小島……」


桜井君が、少し驚いた様子で私を見ていた――。


「桜井君、最近忙しいの?」

しばらく黙ったまま、何処に向かって歩いてるのか分からないまま、時間だけが流れていた。

同じ一緒に歩くのでも、以前とは、全然空気が違っていた。

でも、それでも桜井君の隣にいられることは、凄く嬉しい。


「あ…うん。悪い……」

「ううん、全然大丈夫だよ。千尋ちゃん、怪我治った?」

「ああ。もう普通に歩く分には問題ないって」

「よかった……」

そんな会話をしてから、私は覚悟を決めて、桜井君の前に出た。

そして、正面から話しかけようとする……と――


『!?』


一瞬、桜井君の後ろの人影が目に映った。


『だけど……ううん、だからこそ!』


私は、桜井君を真っ直ぐに見据える。


『私、震えてる……』


でも、あの頃の震えじゃない。

怖くて、怯えて、痛くて、諦めて……そんなんじゃない!


私のことを【物】じゃなく見てくれた、素敵な人達。

私を受け留めてくれた、暖かな人達。

私にとって、とってもとっても、大切な人達……。


私は、スッと落ち着きを取り戻して、話し始める――


「桜井くんは、千尋ちゃんのことを女の子としてどう思いますか?」

桜井君は一瞬、戸惑った表情を見せたけど、意を決して私に話してくれる。

「オレにはまだ、女の子として千尋の事をどう思うかってわからない。いや、わかってるのかもしれないけど、小島に言葉にしてうまく説明することができない。だけど、千尋のことは、好きだ。ずっと一緒に育って来た……。あいつは、オレのことずっと守ってくれてる。そんなあいつをオレも守れるようになりたい! ずっと一緒にいたい……。こんなこと言ったら、千尋の……チーの迷惑になるだろうけど、チーとずっと一緒にいられる方法が幼馴染っていうんじゃ駄目で、付き合うっていうことなら付き合いたい! それが結婚なら結婚したい! 他の誰よりも、ずっとチーのそばにいたいんだ……。かけがえのない人なんだ……それは、はっきり言える」


『ぁぁ、なんて素敵な人なんだろう。 私が好きになるのも無理ないな』


私は素直にそう思った。

そして、どこかホッとした気持ちで、「不器用だけど、すごく心に響く言葉だね。そんなこと聞いた後だけど、私も後悔したくないから言わせてください……。私は、桜井君…桜井紘弥君のことが好きです。ずっと、ずっと、中学の頃から大好きでした。私とお付き合いしてください」


ページが綴られていく――


「小島……小島美咲さん、ごめんなさい!」


そう言って、桜井君は頭を下げた。


『本当に、真正面から受け留めてくれる』


嬉しかった。


「桜井君、ダメだよ。人とお話をする時は、相手の目を見て話さなくちゃ(笑)」

「…そうだな(笑)」


私は紡ぐ――


「私、桜井君のお蔭で変われた気がするんだ♪ 緊張して、全然ちゃんとお話しできなくて、いつも下を向いてたけど、桜井君と時間を一緒に過ごせたことで、私、成長したって……」

「ああ。この短期間で、ほんとに変わったよな…小島はすげーよ!」


桜井君の言葉、表情、そしてその優しい瞳が、私の努力を認めてくれる……。


私は、心が満たされていくのを感じた――

そして私は、小学校の頃の、小さな私を優しく抱きしめた――――


すると、『私が今してあげられることはなんだろう?』、そう思った。


だから私は、桜井君達に、こう、言の葉を紡いだ――


「さっきの言葉は、千尋ちゃんを【目の前】にして、思いっっっきり! 届けてあげてくださいね!!(♪)」


私は今までで一番の笑顔を、桜井君と後ろにいる千尋ちゃんに贈った!


――そして、


「桜井君、ほんとにありがとう…………さようなら(笑)」


私は気持ちも一緒に回れ右をさせて、歩き出す――――


『このあと、二人は素敵なページを綴るんだろうな♪』


私は綻んだ。


すると――


『あれ? コンタクト、ずれちゃったのかな?』

景色がぼやける。

『あれ? 頬に何か、伝ってる……』

気付けば、ポタ…ポタッ……と、涙の雫が優しく撫で落ちていくのが分かった。


『そっか……私、悲しいんだ……。辛いんだ…………』


街灯も灯り始めた綺麗な夕暮れ時に、私は、ひとり、自分の心と向き合う。


『大丈夫。大丈夫だよ。どんなに今が悲しくても、辛くても、今までの時間は、かけがえのないものだから……。また、新しい1ページ、始まるよ♪』


私は顔をグシャグシャにしながら、それでも、心の一番奥にある、温かいものへ語りかけた……。


だって、私の小説は、まだ始まったばかりなのだから――――。


                  

                  〈小説家になろう!~美咲サイド~ 了〉

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小説家になろう!~美咲サイド~ ひとひら @hitohila

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