第2話

こいつの腕に付けてるもん、時計か?


だが、よく見ると違った。


ただの腕輪だが、金ピカだ。




「ゲームみてーに、戦利品って訳だ」




 俺は、一人でグハハと笑って、腕輪をむしり取った。


腕輪は簡単に外れて、俺の腕に収まった。


その時だった。


デデデデデデデデデンデデン、という、どっかで聞いたことのあるBGMが流れた。




「あ?」




 嫌な感じがしたため、腕輪をむしり取ろうとしたが、外れねえ!




「んだ、これっ」




 左腕にはめた金ピカを掴み、無理やり外そうとしたが、ビクともしねえ。


さっきは簡単に継ぎ目が外れたってのに、今度は全く外れねえ。




「ちっきしょ…… まあ、いいか」




 別に、害があるわけじゃねえ。


さっきの呪われたBGMみてーなのも、どうせ空耳だ。


それより、日が落ちる前にこの森から脱出しねーと、やばそうだ。


俺は小走りで木々の間を縫って、空が暗くなって来た頃、ようやく森から出ることができた。




「はあっ、はあっ…… で、出れたか」




 森の切れ目から先には建物が乱雑に立っており、俺は少し安心した。


通りにはちらほら人が歩いている。


てか、結構都会だ。


あんまり見たことの無い街並みだが。




「……まあ、帰れそうで良かったぜ」




 交番を探して、現在地を教えてもらうか。


スマホがありゃ、こんな面倒な思いをしなくて済むのにな。


そう思ったら、段々イラついてきやがった。


帰ったら、まず小島の野郎だ。


背後からバットでぶん殴った後、車で山奥に運んで、同じ目にあわせてやる。


いや、それよりもっとヒデエ目にあわせねえと気が済まねえ。


とか、そんなことを考えてる内に、大通りにやって来た。




「……?」




 異変に気が付いた。


おかしい。


すれ違うやつら、皆がみんな、映画に出てくるようなツラをしてやがる。


要するに、外人みてーだ。


背が高くて、顔がちっせー。


髪型はみんな短髪。


建物のガラスに映る自分がちんちくりんで、ダサく感じる。




「何だ、ここ」




 ここはどこだ?


外人がこんなにウロウロしてるってことは、米軍基地が近くにあるってことか。


……沖縄か?


いや、俺の住んでる都心から、俺に気付かれねーでそこまで運ぶなんてぜってー不可能だ。


さっきまで消えかけていた不安が、また徐々に大きくなっていくのを感じる。




「日本じゃ、ねえのか?」




 いや、あり得ねえ。


ここはぜってー日本だ。




「……」




 だが、通りを歩いてる奴らに話しかける勇気はない。


この街を歩く奴らが、まるで別の生物みたく感じる。


更におかしなことに気が付いた。


この街の建物は、全部が全部四角くて、茶色い。


そして、年期が入ってる感じだ。


それこそ、映画の中にでも入ったような、そんな街並みだ。


地面から煙突みたいなのが生えて、そこからは湯気が立ち上ってるし、道路はえぐれてて、入れないよう黄色いテープで囲ってある。




「ここはどこだ」




 俺は、周りに聞こえない位、小さな声でそう言った。


自分で言うのもあれだが、俺はいつもでけー態度をとって来た。


それが男気ってもんだと思ってたし、気が小さくて何言ってっかわかんねーようなやつは、見ててイライラする。


だが、今まさに俺がそれだ。


不安がどんどんでかくなるのを感じる。


借りて来た猫みてーに、縮こまってる。




「どうすりゃいい……」




 日本語さえ通じれば、なんてことはねえんだ。


まず、ここが日本だってことを証明すりゃ、それですべて解決だ。


……そうだ。


盗み聞きすりゃいい。


立ち話してる奴に近づいて、何話してっか聞くだけだ。


それなら、できる。


ふと、近くにワゴンがあることに気付いた。


そのワゴンは、ホッとドックとか、それらしきものを売っているワゴンで、列ができている。


俺は、さりげなくそのワゴンに近づいて、耳をそばだてた。


多分、いくらです、とか、そういう会話をするはずだ。


スーツを着た男が、注文を取った。




「レッドホットチキン、ブルーソーダ」




「12メニー」




 分からない言葉が、俺の耳を通過していった。








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