君が変して ~最強のネコ~

熊雑草

プロローグ

 アタシには、アタシにしか見えない友達が居る。

 それはいつもアタシの側に居る、白くて黒い縞のある子猫だ。名前はカープ。

「カープ、おいで」

 アタシのベッドで丸くなって寝ているカープは片目だけ開けるとあくびをして、また目を閉じてしまった。

「君は、いつまでも無愛想だね」

 眠っているカープの喉をゴロゴロと撫でると、カープは気持ち良さそうに長い尻尾を揺らす。

「アタシは、君に感謝してるんだよ。君がアタシの側に居るようになってから、君以外の幽霊が見えなくなったんだから」

 カープがアタシにしか見えない理由……そう、それはカープが子猫の幽霊だからだ。そして、アタシにはカープ以外の幽霊が見えていた時期があった。

 カープ以外の幽霊が見えていた期間というのは、年数にすれば長いとは言えない。しかし、十歳に満たないアタシにとっては生きてきた人生のほとんどを占めていて、もう少し言うと、“十歳に満たない”という幼さが、アタシに関わる問題を大きくすることを、当時のアタシは知ることも予測することも出来ないでいた。


 …


 もの心ついた頃には、既に当たり前のように幽霊が見えていた。だから、周りの人達も、当然、アタシと同じように見えていると思っていた。


 ――しかし、幽霊なんてものが見えるのは稀で、自分だけが大多数の枠の外に居る。


 当時のアタシは、それに気付くのがあまりに遅すぎた。

 友達が気にしないところで幽霊を避けたり、アタシに気付いた幽霊を振り払おうしたりするのは、普通の人から見れば奇人変人の行為に他ならない。

 『あれ? おかしいな?』と両親に相談した時、両親はアタシの言っていることが分からず、首を傾げていた。

 ……傾げていたのだが、うちの両親は、そういう事例があるのを何処かで聞いていたので、アタシにこう言ってくれた。

 『子供の頃、感受性の強い子――つまり、感覚が敏感な子は幽霊が見えてしまうことがあるんだって。猫なんかが、何もない天井を見詰め続けているのは、私達に見えないものが見えてるからなんだよ。だから、そんなに気にしないでいいよ。そのうち見えなくなるから。――でも、周りの人は見えないのが当たり前だから、あまり他の人を驚かさないようにね』

 しかし、もう後の祭り。周りの人達がおかしな目で見るから気を付けよう……そう思った時には、周りからおかしな女の子という認識が定着した後だった。

 そして、それが原因で幼稚園、小学校と問題児扱いされ、『他人の興味を惹くために嘘をついている』と、周りの人間はアタシを見るようになった。


 ――まあ、それだけなら、ただの嘘つき少女だったのだが……。


 アタシには身体的特徴が、もう一つあり、関東であっても昔ながらの偏見が色濃く残るこの街では、不良扱いされる原因になる。

 アタシの身体的特徴……それは肩から背中に掛かる日本人には珍しい色鮮やかな茶色の髪の毛。髪の色は染めでもしない限り再現できそうにない色をしていたのである。

 小学三年生で、既にクラスの中で孤立無援状態。如何に酷い小学生時代を過ごしていたか、容易に想像できるのではないだろうか?


 ――そんな孤独で押し潰されそうな時だったのである。カープと出会ったのは。


 アタシは目を閉じて、当時を振り返る。

 今のアタシで居られる前の、殻に閉じ篭もっていた頃の自分を……。

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