視覚の復活
「ん? できるよ?」
ハンネの答えはあっさりしたものだった。
「ほ、本当ですか!?」
「本当も何も、こんな長い期間寝てたらそりゃ体も動かなくなるさね。こんなに時間があってそこに対策を立てないわけがないわよ」
「確かに……」
レインも、自分がなぜそこに考えが及ばなかったのかを不思議に思う。
だが、それも無理からぬことではないだろうか。
愛する者がいつ起きるかもわからない中でそんなことを気にする余裕はなかったのだろう。
しかし、ハンネはリブレのことを親しい者と認識してはいても、それ以上に実験対象としての意識が勝ってしまう。
今回の場合は、それが冷静さを生み、この事態に備えることが出来たのだ。
「で、でも副作用は……?」
「は? そんなものあるわけないわ」
ハンネは不敵な笑みを湛えて言う。
「生きるか死ぬかギリギリのやつを生かすのより、生きているやつを多少動けるようにする方が楽に決まってるでしょ」
「と、いう事なんですけど、どうしましょうオーシリアさん」
「やっていいじゃろ」
軽いな!
「とは言っても主よ。他に当てはあるのかの」
ぐっ……!
「わしとしても自らの主がこのように木偶の坊というのは看過できんのじゃよ」
うーむ。
「武器は使われてなんぼなのじゃからな」
うーむ。
「多少主の顔が潰れるくらいは我慢せねばならん」
お前も俺の顔がいかれる前提なの?
「心配しなくても、問題ないって言ってるだろー?」
今までの自らの所業を恨むんだな。
信用に足る碌な発明品は1つもなかったぞ。
だが、まぁ頼むしかない。
「どうです?」
「……どう?」
レインとプリンセが心配そうにのぞき込んできてきているのが
「あぁ、見えるな……」
俺がなけなしの復活した表情筋で笑いかけると、顔をくしゃくしゃにした2人の姿が映る。
「顔がくしゃくしゃでもかわいいな……」
「そこは、『可愛い顔が台無しだぞ』と言うところじゃないですか……」
そんな月並みなセリフ言って何になるんだ。
折角見れたんだから自分の思うがままに最上級の誉め言葉を口にするだろうが。
「そもそも何日間暗闇の中だったと思ってんだよぉー。覚醒してから3日間飲まず食わずで意識だけあるし、なぜか寝ようとしても意識が落ちないしで怖かったんだよぉー……」
「恰好良かったのに……」
「……でも、リブレさんだ……!」
「どうやら、ちゃんと効いたみたいだね」
「あぁ、ハンネ。ありがとう。お礼は……、常識的な範囲で」
「あぁ、そのことなら心配いらないよ。もう前払いで貰ってるからね」
前払い?
スッと視線をレインに向けるとサッと逸らされてしまう。
「俺は何をされてたんだ……」
「お世話になったよ」
「何をされたんだ!?」
俺の体がいつ崩壊とかし始めるのかわからなくなってきたな……。
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