人生は残酷だね

 格好つけてただいまなんて言ったものの、声は出せない。

 しかし、レインは俺が聞こえているという前提で話してくれた。


 どうやら、俺はこの状態で7年間過ごしていたらしい。

 レインの声が心なしか違って聞こえたのは俺の耳がいかれてるからではないだろう。

 声変わりしたんだな。


 それで俺はこの状態に合点がいく。

 7年も何もせずに寝たきりで筋肉が無事なわけがない。

 衰えに衰えて動かせなくなっているのだろう。

 目が開かないのも瞼の筋肉が終わっているからか。

 もちろん、口が動かないのもだな。


 だが、困った。

 筋肉が衰えている、弱っているくらいならリハビリになるんだろうが、少しも動かせないとなると、負荷をかけて徐々に戻すということが出来ない。

 どうしようか、という話し合いも出来ない。

 だが、オーシリアを通じて意思疎通は出来る。


「リブレさん、ほんとに動けないんですよね?」


 どういうことだ?


「実は動けるのに驚かそうとして動けないふりをしてるとか……」


 そんなわけあるか!

 動きたくて仕方ないわ!


「うーん。流石の私でも筋肉を増強させる魔法なんてないですしねー……」


 魔法に関してはレインが出来ないなら誰にもできないとまで考えていいだろう。

 つまり、魔法でちゃちゃっと解決とはならないわけだ。

 何のための魔法世界だ、まったく。



「レインよ、主は自らが起きたことを知られたくないようじゃ」

「!? どうしてです!? みんな心配してたんですよ?」


 それが本当にみんなならいいんだがな。

 エルフにはもう修復不可能なくらい嫌われてるのはわかってる。

 レイン関係で恨みも買ってるしな。

 こと恋愛に関しては人は暴走しやすい。

 このまま俺が起きなければいいと思ってた奴もいるだろうし、起きたとなれば殺しに来かねない。


「とりあえず、自分が動けるようにならねば不安なのじゃよ」

「そうですか……。プリンセちゃんはいいですか? 一緒にお世話してきて、隠し通せるものでもないので……」


 まぁ、プリンセならいいだろう。

 世話になってたらしいし、約束も守ってくれるだろうしな。



「……リブレさん……!」


 ボフンッ!


 話を聞いたプリンセがベッドに飛び乗ってくる。


「……良かった……!」


 抱き着いている感覚から、プリンセがかなり大きくなったことがわかる。

 そりゃそうか。

 6,7歳だったってことは今は14歳とかか?

 一番女性が成長する時期だもんな。


 ふよふよ。


 ん?


 ふかふか。


 んん?


「ちょっ……! プリンセちゃん!? くっつきすぎです!」

「……んー? ……そんなことないよー。 ……私も頑張るっていったでしょ? ……なら、リードを許してる私は、レインちゃんにないもので勝負しなきゃー」

「な、ないもの……」


 あー、なるほどな。

 女性の身体的特徴の話か。

 この当たってるのもそれだな。

 14歳くらいということを差し引いても圧倒的な質量が乗っかってるのがわかる。


 そして、最も注目すべきなのは、このやり取りのなかでレインが見なくてもわかるくらいショックを受けているところであろう。


 ……南無三。

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