魔界繁栄

一方その頃①

 はっ!?

 なんか感じたぞ?

 例えるなら主人公が出てこず50話も過ぎてしまった謎展開な空気を感じた!


「ご主人様? どうかなさいましたか?」

「え? あぁ、いや、なんでもない……?」

「なぜ疑問形なのです」


 いや、俺も聞きたいんだが。

 さっき不意に俺を襲った感覚が何だったのかが思い出せないんだ。

 何だったんだ……?


「社長、本日の業務、滞りなく完了しました」

「お、了解。じゃあ、みんなあがっていいぞー」

「「「お疲れさまでした!!!」」」


 リブレは自分の目の前で好きな人のスク水お披露目会が行われていることなど露知らず、飲食店の社長へとその身分を変貌させていた。

 リオンになぜかくっついている謎の引っ付き蟲くらいの印象だったのがある程度身分が保証されるようになったくらいの変化であろう。


「しかし、こんな施設が多くあるとは、どこも簡単じゃないんだな」


 なぜ「社長」と呼ばれる地位になっているかというと、単純に従業員が増えたのだ。

 ラーメン屋の噂が広まり、孤児たちが働いているという話から、各地に散らばっている孤児院から自分のところの子も雇ってもらえないかと打診が来たのだ。

 その時点ではあまり乗り気ではなく、院長の未亡人さんに対応を任せていたが、メガネ領主に任せたハンバーグ屋さんも軌道に乗り、外食産業が活発になり始めたのだ。

 そこで、事業展開を目論んだリブレにとっては従業員の確保という点で渡りに船だったのである。


「そうよ。私たちだって好きで親に捨てられたわけじゃないんだもの」

「さっきまでの社長呼びはどこ行ったよ」

「もう就業時間外でしょ? なら、社長と呼ぶ必要はないわ!」

「いや、俺とお前の関係上そんなフランクに話されるもんじゃないだろって何回も言ってるだろうが」


 良からぬやつに攫われていたリアーネを助けた直後はかなりしおらしかったのだが。

 この頃は俺に対する態度がかなり適当になっている気がしなくもない。

 こう言ってはなんだが、貞操を守ってくれた相手に対する態度ではない。

 結局、俺もあまり気にしていないので直らないという事もあるのだろうが。


「まぁ、いいや。アン、どうだ?」

「そうですね。傾向からはラーメンとうどんの麺類がかなり好評のようです。他のおかずに関してはハンバーグと市場を分けていますから、徐々にといった感じでしょうか」


 そもそも米文化であるこの世界では、小麦が家畜の飼糧としか見られていなかったため、麺というものがなかった。

 だからこそ最初はラーメンに目を付けたのだが、よく考えたらうどんの方が再現しやすいのだ。

 出汁という概念は日本にしかない素晴らしい文化であるが、これは簡単も簡単だからな。

 この辺りでは海産物が手に入りにくいらしいからそこだけは苦労したけどな。

 定期的に購入するという担保があれば販売人を呼ぶこともそう難しくはない。


「でも、凄いわよね。こんなに大きな部屋を構えるようになっちゃうんだから」

「いや、お前がいていい部屋ではないんだが。一応言っとくと」


 狭い家にぎゅうぎゅうになって業務を行っていた頃と違い、事務所を設けて社長室もある。

 そしてそのソファーの上でゴロゴロしているのがリアーネである。


「よし、俺も帰るか」

「そういたしましょう」

「あ、ねぇ! おいて行かないでよ」


 本日も、平和である。


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