164日目 冷房

「……けっこう近いよね」

「そうですね」


 ランガルとドルガバは隣国にしてもかなり近い距離感である。

 砂漠1つ隔てているからかなり遠いようにも感じるが、その砂漠も特別大きなものではないため、一度道さえ整備されればそれほど時間はかからない。

 半日もあればつくだろう。


「ただ、馬さんたちは辛そうですね」

「いやぁ、これでも休ませてはいるんだがな?」


 御者のライオン族のお兄さんが頭をかきながら答える。


「どうにも、これだけでかいとなぁ……」

「……別にわたしはお願いしてなかったのに……」

「それは、お嬢さん。虎族のお姫様をそんな待遇したとあっちゃ俺が処刑されかねませんよ」

「……むぅ」


 とは言っても、馬への負担が大きいのは変わりありません。


「そう急ぐ旅でもありませんから、休憩所で休んでいきましょう」

「よろしいんで?」

「……」

「そこのもう顔が真っ白になってきた人もどうにかしないといけませんから」



「生きてます?」

「……ぎりぎり……?」

「回答が疑問形ってどういうことですか」


 受け答えは出来るようになりましたが、依然として決壊寸前みたいです。


「これから先もっと長いんですよ?」


 砂漠の中の湧き水の場所の関係で、休憩所はランガルよりの場所に作られている。


「それ言わないで……」


 これだけ弱っているハンネさんも珍しいですね。


「……お馬さんも、元気になれそうだね」

「そうですね」


 元々、この道が出来てから時間経っているからここの馬車を任されている馬もそれなりに慣れているはずだ。

 しかし、このサイズの荷台を引いたことなんてそうそうない。

 疲弊するのも無理はないだろう。


「荷台の中も完璧でしたからね」

「……ジュースが出てくるとは、思ってなかった」


 人間の高位の魔法師が同席しており、常に冷えた飲み物を供給してくれるシステムになっていたのだ。


「……レインちゃんも、できるよね?」

「えぇ。だからいらないって言ったんですけど……」


 旅行中の人に雑務をさせるなんてとんでもないと断られてしまったのだ。

 それに、仕事を奪ってしまっては申し訳ないと、そう思うことにしたのだった。


「でも、レインちゃんのおかげで暑さは気にならないね」

「そうですね、次からは馬にもかけるようにしましょうか」


 馬車の中はレインの氷魔法により適温に保たれている。

 もちろん、察知されないためにレインとプリンセ、おまけでハンネの周りだけだが、馬にもかけてみようというのだ。


「……それ、疲れない?」

「そのくらいなら全然大丈夫ですよ?」


 プリンセは改めて目の前の女の子に感嘆する。

 動き続ける対象に対して魔法をかけ続けるなんて普通は出来ないどころか、凄くても出来ない。

 魔法に関して、レインは自分が思っている以上に規格外なのだ。


「なんなら、全員にかけてもいい気がしますけど……」

「……やめておいた方がいい。他の人が、困る」


 一度快適さを知ったら他の人を無理させてまでその環境を作るかもしれない。

 プリンセの危惧は決して的外れなものではないのであった。

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