164日目 車酔い

「来ちゃった!」

「……なんで?」

「来ると言って聞かなかったんですよ……。リブレさんにあげる薬は鮮度が命! とか言って……」


 薬なしには生きられないリブレの容体を逆手に取った見事な脅しだったと言わざるを得ないだろう。

 普段危険人物すぎて外に出ることを許されないハンネが王様から外に出る権利を勝ち取ったのだから。

 本人はよもやそんな理由だとは思っていないが。


「まぁ、別に、馬車には乗るけど……」


 プリンセの久々の帰省だという体で馬車をとったら、それこそ王族御用達のレベルの大きさのものが用意されてしまったのだ。

 プリンセは族長の娘なのでそう大きくは違わないのだが。

 しかし、従者もいない今回の道程には不要なものである。


「いいでしょ? ね?」


 実のところを言えば、別についてくるのは構わない。

 だが、ハンネのしてやったり感が気に食わないのだ。

 ただそれだけである。


「いいですか? 向こうで獣人さんたちに失礼なことはしないでくださいね」

「はい」

「どんなに興味深くても、突っ込んで行っちゃいけません」

「はい」

「私たちが戻れと言ったら必ず戻ってください」

「はい」


 ちゃんとこういう確認をしておかないと、ハンネさんがやらかしたときに監督責任を問われかねませんからね。

 言っておいたという事実は作っておかなくちゃいけません。

 それが役に立つかはわかりませんが、保険ですね。


「よし、じゃあ、行こうか!」

「ねぇ、キラさん。私、ちゃんと言ってましたよね? これ、私のせいじゃないですよね?」

「う、うーん……」


 お小言が終わった瞬間元気になるハンネに不安を覚え、どうにかキラも保険に巻き込もうとするレインとはぐらかそうとするキラの駆け引きが行われる。


「はら、早く! 早く!」


 そんなことはお構いなしにはしゃいでいるハンネ。

 明らかに何かやらかしそうである。


「もう世に放たない方がいいんじゃないんですか?」

「とは言ってもねぇ……」



「うぷっ……」

「あれだけ調子良かったのに!?」


 出発してから5分後、真っ青になっているハンネ。


「酔い止めの薬は作ってなかったんですか?」

「…………」


 既に喋れない程疲弊していますね。


「プリンセちゃんは大丈夫ですか?」

「……大丈夫ー。レインちゃんも一緒にどう?」

「それは遠慮しておきます……」


 プリンセちゃんはリブレさんに連れられて空を移動した際に高いところが怖かったのを克服するため、家の上を飛び回っていたりした結果得意になってしまったのです。

 そして、今馬車のほろの上に乗ってユラユラしています。


「これから暑くなりますよー」

「……暑くなったら戻るからー」


 砂漠越えの前のまだ街中を通っている段階なんですけどね……。

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