バレンタイン記念幕間

「はい、リブレさん!」

「んぁ?」


唐突なレインからの紙袋に間抜けな声が出る。

なんだこれ。

起床直後なので許して頂きたい。


「……」


俺の反応にもニコニコしたまま何も言わないレイン。

いや、こわ。

なに?


「開けていいか?」

「どうぞどうぞ」


少しびくびくしながら小包を開ける。


「お、チョコレートだ」

「えぇ、ショコラです」


袋の中にはまた1つずつ丁寧にラッピングされたチョコレートがいっぱい入っていた。

一口大のハート形のチョコがいっぱいだ。


「なに、これ? バレンタインデーだったりする?」

「いえ、ばれんたいん? というのは知りませんでしたけど。この時期はその、スキナ人にショコラを上げるっていう慣習があるんですよ」


「好きな」のところを恥ずかしくなってカタコトになって言っちゃう俺の彼女可愛すぎんか?

無理だ。

チョコなんかそっちのけなんだが。


どうにか理性を保つために他のことを考える。

バレンタインってそうか、聖ヴァレンティヌスさんがなんか禁令に背いて兵士の結婚を祝福し続けたとか、死ぬことよりもキリスト教を捨てないことを選んだとか、そういう凄いことした人の殉教した日だから祝日になったんだっけか。

チョコレートなんか日本企業の策略の賜物で、なんの関係もないからな。


聖ヴァレンティヌスさんがいないこの世界でバレンタインデーなんて言葉が生まれるわけがないか。

それに、この世界では正確な暦もわからないからな。

そういう時期というだけなのだろう。


「これはもちろん……?」

「手作りですね」


もう、俺の彼女神!

なんだこのチョコのクオリティ!

よっぽど店のより上なんだが!


「うまい!」


声に出して言ってしまうほどには!


「折角だからサプライズにしたかったので、味のことも聞けませんでしたから、色んな甘さのものを作ってみました。一応、袋に書いてます」


そう言われて見てみると、小袋にそれぞれ「甘い」「ちょっと甘い」「ふつう」「ちょっと苦い」「苦い」と書いてある。

かわいいかよ。



俺がモグモグとチョコを楽しんでいると、頭に小さな袋を乗せたプリンセがトコトコ歩いてきた。

そのまま俺の膝に座る。


「ん……」


そしてちょっと背伸びをして俺の目の前に袋を持ってくる。


「あ、これもらっていいの?」

「ん」

「ありがとう」


頭の上からそれを受け取り、そのまま撫でる。


「プリンセちゃんも、一緒に作ったんですよ」

「ん……。でも、上手くできなかった……」


少し俯き気味なプリンセだが、話を聞くと、レインのようにきれいなハートにならなかったのが悔しいらしい。

さらに撫でながらプリンセをなだめる。


「俺は作ってくれたことが嬉しいからさ。な?」

「……ん。今度は、もっとうまくする……!」


謎の決意が生まれている。

もう、これはあれだな。

俺どうこうよりも自分の中で納得がいっていないのだろう。


本当にバレンタインってなんだろうな。

俺みたいに人に会っていなければなんも関係ないただの1日なのだが、学校とかえぐかったんだろうな。

なくて良かった。

ここでこんないい思いできてるしな。


結論としては、明治許さん。

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