代わりはいない

「ふむ、君はこの世界の者ではないようだが……」

「そうだな」

「アンリ殿に処断されていないという事は、生者のようだね?」

「そうなるな」


俺に対する不信感はあるが、あまり表には出していない。

とりあえず情報を引き出そうとしてくるな。


「俺は今回の旅についてきてるだけの外野だからな。特に聞かれても答えられることは少ないと思うぞ」

「そうなのかい。そんな感じには見えなかったけどね」


もちろん、そう見せてるからな。

相手にわからない要素があるというだけで不安になるもんだ。

まともに相手をされたらきついからな。


「……その立場を僕に譲る気はないかい?」

「ん?」

「君は彼女の申し出を受け入れなかったのだろう? ならば、彼女のことを想っている僕の方が彼女について行くのにふさわしいのではないだろうか」

「そういう考え方もあるだろうな」


一度、肯定しておく。

確かに、人を想う心というのは尊重されるべきだ。


「申し訳ないが、譲る気はないな。まず、アンリさんに頼まれているからな。で、俺は嫌々ついて行ってるわけでもない」

「しかし、彼女を振っておいてそれは無遠慮なのではないか?」

「そんなこと、言われるまでもなく考えたさ」


もちろん、打診したとも。


「それでも、リオンは俺に来て欲しいと言ってくれたんだ」

「そうだよー」


本当に悩んだとも。

なにせ経験がないからな。


「なら、俺がそれを断る道理はない。俺もリオンのことは好きだからな」


少し後ろでリオンがえへーという顔をしてるのが目に入る。


「言葉を借りるなら、リオンが俺についてきて欲しいと思うのは、当然だろう?」


あくまで、少し敵対的に。

譲らないという態度で。


「そうか……」


長考に沈む領主。

どうした。


スッとリオンに向き直る。


「僕は、あなたのことを幸せにできる自信があります。それでも、ダメですか」

「ごめんねー。私は、リブレのことを諦めてないんだー。もちろん、気持ちは嬉しいんだけどねー」

「そうですよね」


お。


「どうやら、僕があなたにとって代わるという事は出来ないようだ」


俺に向きなおった領主が言う。


「だが、それは僕が、彼女を諦めるという理由にはならない」


一歩踏み込んだ領主が俺に正拳突きを放つ。


「リブレ!」

「ご主人様!」


俺の目の前に張られていたステッド・ファストに遮られたものの、1枚ぶち割れた。

え、こっわ!

わかっていたことではあるんだが、強ー!


「精々、彼女が僕に惚れるまで、ナイトの役割を頼んだよ」


そう言って拳を引いた。

なるほど。

ある程度の実力があるかどうかのテストだったわけか今のは。


もう、すっごいビビってるが、速すぎたおかげでビビったアクションをせずに済んだ。

平静を装えてる。


まじでステッド・ファスト張っといて良かったー……。

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