大浴場とお約束

「ごめん、ちょっと可愛さがキャパオーバーしただけだった……!」

「う、うんー? 褒められてはいるようだけど、よくわからないなー?」


尊みが深い、という表現になるだろうか。

普段制服のクラスメイトの私服を見るとグッとくる的な。

病気で休んでいる女子にプリントを届けに行ったらパジャマ姿で出てきた的な。

しかももこもこの女子力高め。

流石、アンリさん。

わかっているじゃあないか!


「で、どうした?」

「あ、うん。お風呂が沸いたからお客様からどうぞって」

「なるほど。お言葉に甘えてさせてもらうとするか」



しっかりと脱衣所があるタイプのお風呂で、脱衣所の棚の数からどれだけの人が入れるかどうかがわかる。


「どこのホテルの銭湯だよ……」


お客様で男性は俺1人なのでこの広いであろう浴槽を一人占めできるというわけだ。


「おぉ……!」


あまりの広さに感嘆の息を漏らす。

これぞ大浴場という凄い大きな浴槽が1つ。

その周り3面に体を洗うところがあり、そこにも流しそうめん式にお湯が流されている。

桶があるから、そこから汲んで使えってことだな。

なるほど。

節水のせの字もないシステムだが、世界のトップなんてこんなもんだろう。


俺が満喫できればそれでいいのだ!


「やっふぅー!」


超高速で体、頭を洗い、浴槽に飛び込む。


ドボンッ!


「ごぼっ!」


深っ!

死ぬっ!


「ぶはっ!」


なんだこの風呂!

端っこの1段下がってるところからいきなり水深3メートルくらいあるんだが!?


「「「ご主人様!?」」」

「リブレ、大丈夫!?」

「あらあら」


ふちに辿り着くとあら不思議。

麗しき女性5名の声が致しますねー。


「俺、鍵かけてたよな!?」

「あらあら、私はどのドアにも使える鍵くらい持ってるのよー」


家主め!

しかし!

俺は今までの経験からこの事態も予想していた。

よって、心強い助っ人を呼んでいます!


「オーシリア!」

「すまんのじゃが、主。わしは力になれそうもないのじゃ」

「何を言っておられるので!?」


オーシリアなら湯気を固定するなりして俺を隔離できるだろ!?

風呂にまで一緒に来てもらっていたオーシリアの方を見ると、小さな子供用のイスに座るオーシリアの横にはちょうどいいサイズの机が1つ。

その上には十数本のコーヒー牛乳とフルーツ牛乳と思われる瓶と、大量のお風呂でも食べられそうなお菓子が山積みにされていた。


「ここは私の実家だからねー。あれくらい用意するのは朝飯前だよー」


お菓子とジュースで買収されやがった!


「いや、待て! お前は主人の危機を助けようとは思わんのか!?」

「命の危機があれば流石に助けるのじゃ。もぐもぐ」

「プリンを食うなぁー!」


ひたひたと歩いてくる肌色の集団から目をそらし、絶叫する。


「大丈夫ですよ、ご主人様」

「なにがだ!」


ふちから離れ、反対側へと泳ぎながら答える。


「私たち、肌色の水着を着用しておりますので」

「なんでよりによって肌色にしたんだよ!」


一番絵面がアウトじゃねーか!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る