ギミック封じ

「まぁ、予想してたよりは早かったがな。外の奴らはどうした」

「気になるなら確かめてこいよ」

「いやなに、お前が殺してくれてたら報酬を払わなくて済むってだけだ。特段、気にすることじゃねぇ」


そうか、やっぱりな。

雇っただけの奴ならここに近づけたくないだろう。


「ごめんね、捕まっちゃったよ……」


意識が戻っているらしいリオンが俺を見て言う。

その目尻は赤く、涙を堪えたことが伺える。


「……抜けれないのか」


リオンならパワーで鎖くらい引きちぎれそうだが。


「それは無理だな。俺の魔法で鎖は嫌と言うほど強化してある。おっと、動くな?」


俺がゲス男の方に踏み込もうとすると、制止してくる。


「俺に一定以上近づけば、そいつらの立っている床が抜けるぜ? ついでに腕の枷は外れる」


今は足枷、手枷と首輪のようなものがついているが、床が抜ければ首輪が締まるってことか。

ご丁寧なことだな。


「……ぅあ……!」


まだ意識が虚ろらしいメイドたちがどことなく色っぽい声を出す。


4人の腕に注射痕のようなものを見つけ、俺は更に怒りを強める。


「あの痕はなんだ」

「あ? 偉く目ざといな。まぁ、教えてやろう。あれは俺特製の媚薬とかっとぶ薬を混ぜたやつを入れた痕だ。依存性と副作用が強すぎてとてもまともに使えたもんじゃないがな!」

「そうか」


まぁ、あいつの周りの女性を視てれば予想は出来た。

そこに今更驚きはない。


「それがわかったところでお前には何もできないだろうが。さっさと帰りな。なに、安心しろ。こいつらは全員見た目がいいからな。殺したりまではしないぜ」

「だろうな」


俺は踵を返すことなく、そのまま前へと踏み出す。


「リブレ……」

「リオン、このままあいつのものになるのと、俺と一緒に旅を続けるの、どっちがいい?」


キレまくっている俺にとっては仕掛けるための時間稼ぎ、機を伺うための質問だったが、リオンにとってはそれ以上の意味を持ったようだ。

初めて見る、涙を流す。


「リブレと……! 一緒に行きたいよ……!」


リオンがガシャッと鎖を鳴らした音に視線が吸い寄せられたゲス男の隙をついて前へと飛び出す。


「正気か!? そいつら死ぬぞ!」


俺の動きにゲス男が驚きの声をあげるが、俺はそれに答えることもない。

床が抜けるとかいうギミック、俺には意味をなさない。

ステッド・ファストで固定してしまえばいいのだから。

エルフの地下通路で学んだことが役に立ったな。


「なぜ落ちない!? くそっ!」


周りに侍っている女性たちを振り払って俺に対して構えようとしたゲス男だが、遅い。




対人戦において、最強とはなんだろうか。

キラであれば速さと、レインであれば手数と答えるだろう。


だが、俺はこうじゃないかと思う。

相手の阻害。

俺には攻撃に特化するものが何もない。

だからこそ、考える。

どうすれば勝てるのかと。

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